35 ルークンとアリシャの正体
「ご覧になりまして、ルーク様。
なんて壮絶で、それでいて華麗な戦いをなされる、ルークン様だったのでしょう」
「本当に、凄い戦いでしたね」
さて、謎の怪盗仮面少年ルークンは、もはやどこにもいない。
王都の空で行われた戦いに、釘付けになっていたフランソワーズ嬢だが、ふと我に返ると、すぐ隣に立っているルークに話しかけた。
彼女は戦いに夢中になっていて、今までルークが側にいなかったことに、気づいてなかった。
そしてルークンの正体であるルークは、翼将との戦いで腕を負傷したが、謎の白鳥仮面少女アリシャが使った広範囲魔法によって、傷は回復している。
何事もなかったように、ルークはフランソワーズ嬢の相手をする。
「ああ、素敵なルークン様。私、あのお方にも惚れてしまいました。ぜひとも手に入れたいですわ」
「……」
両手を握り締めて、キラキラとした瞳のフランソワーズ嬢。
顔はうっとりと蕩ける表場をしているが、全然恋する少女っぽく見えないのは、俺の心がおかしいからだろうか?
まあ、いい。
ルークンの正体がバレることもないだろうし、さっさと宿に戻りたい。
その後俺たちは、フランソワーズ嬢の馬車に乗り直し、宿へ戻ることができた。
ただ宿に戻る道中、王都の街中では、近衛騎士たちがそこら中を走り回って、大声を上げていた。
「ルークン様。謎の怪盗仮面少年ルークン様。
国王陛下が、是非ともお会いしたいと仰せです。なにとぞお姿を、なにとぞー!」
「神の奇跡を行われる、謎の白鳥仮面少女様。
なにとぞ、なにとぞお姿を。国王陛下と教皇猊下が、お会いしたいとのことでございますー!」
ルークンとアリシャには即座に会ってくれるそうだが、どうして俺は後回しにされてるんだろうな?
この国の国王、さっさと俺に爵位を受勲してくれ。
△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇
フランソワーズ嬢に送られ、宿に戻ってきた俺とルーク、そしてスティーブン。
彼女は別れ際までルークンの素晴らしさを説きながらも、馬車で隣に座っているルークの手を、ガッシリと掴む……握っていた。
二股女だ。
惚れてる男の中身は、同一人物だけど。
とはいえ、俺が気を遣わないといけない相手であるフランソワーズ嬢は、そのまま馬車で屋敷へ帰って行った。
そうして俺たちは、宿の1階にある食堂に入った。
食堂では、アイシャが蒼い顔をしながら、ポーションを飲んでいた。
「ゴクゴクゴクゴク……ヴヴッ、もうダメ、飲みたくない、飲めない」
「アイシャダメよ、最後の1本をちゃんと飲んで」
「ヴ、ヴヴヴッ」
リーリャに急かされて、アイシャはさらに追加のポーションを飲まされる。
アイシャの傍には、既に飲み干したポーションの空き瓶が、10個も転がっていた。
「何やってるんだ?」
この状況に、俺は首をかしげる。
「兄様、おかえりなさい。アイシャだけど、無理して広範囲回復魔法を使ったから、魔力欠乏症になってるの。
このままだと倒れかねないから、安物だけど魔力回復ポーションを飲ませているの」
「なるほど」
魔力を極端に消費すると、反動でぶっ倒れてしまうことがある。
下手をすると倒れたまま意識が回復しなくなり、死に至るケースもあった。
アイシャがしたことを思えば、魔力の回復は必要な事だ。
「アイシャ、お疲れ様。今回は頑張ったな」
「ク、クレイざまーっ」
俺が褒めると、アイシャは涙目になって、俺に抱き着いてきた。
「おっと」
そんなアイシャを、俺は両手で抱きとめる。
「ヴッ、吐きそう」
直後、抱きしめた衝撃で、アイシャが口を押えて蹲った。
「も、もうダメ。10本分のポーションがお腹の中にたまっていて……オ、オロ……」
アイシャがリバースする寸前、リーリャが洗面器をさっと差し出し、最悪の事態は免れた。
「アイシャ、無理をしないで。ベッドで横になりましょう」
「で、でも、せっかくクレイ様が私を褒めてくれたのに……ウ、ウエエーッ」
ゲロインと化してしまったアイシャは、しばらくその場から動けなくなってしまった。
そんな背中を、リーリャがよしよしと撫でて、看護した。
「復活!」
その後すべて吐き出したら、アイシャは普通に蘇った。
まだ若干顔色が悪いものの、仁王立ちして元気に立ち上がった。
子供って回復力が凄いな。
いや、アイシャの場合関係ないかもしれないけど。
「アイシャ、大丈夫なのか?」
「はい、それよりもクレイ様。今回の王都での戦いは凄かったですね」
「そうだな」
豆を片手にルークンの戦いを見ていたけど、俺が翼将相手に戦うより、真面目にバトルしているって感じで楽しかった。
俺が見るに、実力ではルークの方が上だが、翼将には空を自由に飛べるアドバンテージがあったので、白熱した戦いになっていた。
こういうのを観戦するのも面白いな。
「ああ、謎の怪盗仮面少年、ルークン様。
颯爽と登場されたかと思えば、クールな見た目に反して、苛烈な戦いをなされる。
なんて素敵なお方なのかしら。
ポッ」
アイシャが、モジモジしたかと思えば、顔を赤く染めてしまった。
「麗しのルークン様」
目には、ハートマークが浮かんでいる。
これに似た症状を、俺はついさっき見た。
フランソワーズ嬢の時と同じだ。
「ルーク、アイシャに惚れられたみたいだぞ」
「えっ、イヤだなー」
ルークンの正体であるルークが、顔をしかめる。
「クレイ様、どうしてそこでルークの名前が出るんですか?」
だけど、なぜかアイシャは、首をかしげていた。
「アイシャ、もしかしてだが、お前はルークンの正体に気づいてないのか?」
「気づく何も、仮面でお顔を隠されていた上に、初対面の方ですよ?
私、あのような男性がいるなんて、今日初めて知りました」
「お、おうっ……」
アイシャの奴、完全にルークンの正体に気づいてない。
「アイシャ、なんでルークだって気づかないんだ?」
「そうだよ、ルークンの正体はルークだぞ」
「俺ら一目見ただけで気づいたよなー」
アイシャは気づいてないが、宿にいた子供たちは一斉にそう言って、ルークンの正体をばらした。
小さな領地の村で育ってきた仲だ。
皆ルークンの正体なんて、当たり前のように見破っている。
「何バカなこと言ってるの。
知的でクールなルークン様が、ルークのわけないでしょう。
まったく、皆して私をバカにしないでよ。
私がルークン様とルークを、間違えるわけがないでしょう!」
「「「……」」」
リーリャンの時もそうだったが、ルークンの正体を教えられても、アイシャは全然理解できないようだ。
大丈夫か、この子?
「あまいいか。それよりアイシャも、謎の白鳥仮面少女をやってお疲れ様」
「ク、クレイ様、何を言ってるんですか。
私は決して、謎の白鳥仮面少女アリシャ様じゃないですよ。
私はアリシャ様とは、全く別人なんです」
「お、おうっ。そうか……」
別人も何も、回復魔法使った後に、あの場から逃がしたのは俺なんだけど。
着替えるところまで見ていたぞ。
そんな俺に、アイシャが寄ってきて、耳打ちする。
「お願いです。
私の正体は、皆には内緒にしておいてください」
そう、懇願してきた。
俺としては、その願いは聞き入れてやってもいいのだが。
「アイシャ、ここにいる皆正体に気づいてるから、安心しろ」
「そうそう、ずっと同じ村で育ってきたんだから、あんな格好してても分かるって」
「そうだ、今度は私たちもアイシャと同じ格好してみない?」
ルークンと同じで、子供たちは謎の白鳥仮面少女アリシャの正体にも気づいている。
女子の一部に至っては、アリシャとおそろいの格好をしようとまで言い出していた。
「な、何のことだか分からないわー。
私は、アリシャ様とは全く、コレッポッチも、全然関係のない、ただの見習いシスターだから」
みんなに正体ばれてるのに、それでも必死になって誤魔化そうとするアイシャだった。
△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇
なお、大変どうでもいい話だが、後日王都の危機に戦う勇者と、勇者のピンチに颯爽と現れた謎の怪盗仮面少年ルークンが共闘して、見事魔王軍の翼将を倒す物語を聞いた。
「あのポンコツ勇者、何もしてないのに、なんで活躍したことになってるんだ?」
噂に尾ひれがつくとか、そういうレベルじゃない。
あいつ、当たらない魔法3発撃っただけで、その後は影も形もなかったじゃないか。




