34 謎の怪盗仮面少年ルークンと謎の白鳥仮面少女
「死ね死ね死ね死ね!」
「これ以上の無差別攻撃は、この僕が許さない。謎の怪盗仮面少年ルークン参上!」
俺はスティーブンに監視された状態で、地上から空の戦いを見物することにした。
建物の壁を、三角飛びの要領で飛んだルークンは、瞬く間に建物の最上階へ到達。
そこから人間離れした脚力で空へ飛びあがり、槍を片手に、魔王軍の幹部である翼将に襲い掛かった。
「ヌグ、この高度まで飛んでくるとは、貴様ただの人間ではないな!」
翼将は、地上から現れたルークンの存在に、気付くのが遅れた。
致命傷を避けるために、空中で回避行動を取ったものの、槍の一撃を腕に受け、黒い血を流した。
「魔族の将軍、この僕が相手だ。これ以上無辜の人々を襲うのはやめろ!」
「ふん、突如現れたかと思えば、正義漢ぶりおって。気に入らぬ奴だ。
この我が直々に相手をして、縊り殺してくれよう」
ルークンと翼将は空で対峙し、互いに不倶戴天の敵であると認識し合った。
「ポリポリポリ、この豆あまりうまくないけど、癖になるな」
空の上では、王都防衛をかけた戦いが行われている。
俺はその辺の屋台で売っていた豆を片手に、空の戦いを見物する。
豆を売っている屋台のおばちゃんは、魔王軍の襲来にビビって商売どころじゃなかったが、ちゃんと金を置いてきたので問題ない。
「クレイ様、こんな時に何を呑気な……」
「スティーブンも食べるか?」
「そうじゃなくてですね……」
「ルーク……じゃない。ルークンが危なくなれば、最悪俺が助けに行くから安心しろ」
「そうですね。ルーク……ンが、何とかしてくれなければ、王都が消滅してしまいます」
スティーブンは、誰が原因で王都が滅びるかを、明言しなかった。
「そうだよな、魔王軍に王都を滅ぼされたら、一大事だ」
「……」
だから、どうして俺の方を無言で見るんだよ!
俺は王都を消し去るつもりなんて、コレッポッチもないぞ。
コレッポッチもないけど、不可抗力で消し飛ばしそうなのは否定できないな。
「ああ、ルークン様。
突如王都の空に颯爽と現れたお姿は、なんて凛々しいのでしょう。
どうかルークン様、王都の民をお守りください」
あとフランソワーズ嬢だが、いつの間にか馬車から降りて、空で戦い始めた謎の怪盗仮面少年ルークンの応援を始めた。
ルークンの姿に夢中のようで、ルークがいなくなったことに気づいてないようだ。
「私にはルーク様という愛人(候補)がいながら、ルークン様にもときめいてしまうなんて。
ルークン様を、愛人2号にしなくては」
「……」
フランソワーズ嬢、あんた本当に7歳児かよ。
子供のくせして、純情の欠片なく、手あたり次第惚れた男を愛人にしようとするのはやめてもらいたい。
まあ、ルークを愛人に出来れば、自動的にルークンも愛人になるけどな。
「しかし、女って怖いな」
「そうですな」
俺とスティーブンは、この時2人でしみじみと頷き合った。
さて、そんなやり取りをしている間も、ルークンと翼将の間では戦いが続けられている。
翼将は、自らの翼を使って王都の空を飛び回り、それを追うルークンは建物の屋上から飛び上がって、翼将へと攻めかかる。
空中で両者が矛を交え、翼将の鋭く伸びた爪と、ルークンの槍が激突する。
だが、空を飛ぶことができないルークンは、一閃交えると、そのまま地上の重力に引かれて、建物の屋上へ着地する。
「ふん、地べたを這いずるだけの人間が。天空を支配する我に挑みかかるなど……」
「アイスニードル」
「クッ」
空の上で余裕をかまそうとした翼将に、氷の刃が襲い掛かった。
ルークンの魔法だ。
しかし、翼将は空を飛んで回避。
「舐めるな人間、エアーバースト」
翼将は逆撃として広範囲の風魔法を使い、ルークンのいる建物ごと、周辺を一撃で破壊した。
だが、建物が破壊される前に、ルークンは別の建物の屋上へ飛び移り、難なく回避。
それどころか、再び大きくジャンプして、空中にいる翼将へ襲い掛かった。
「何度も、同じ手が……」
「フリーズランサー」
ルークンが空中で氷魔法を使うと、上空に複数の巨大な氷の槍が生み出され、翼将の上から襲いかかる。
まさか上から攻撃を受けると思っていなかった翼将は、慌てて低空飛行に切り換え、地上すれすれを飛ぶ。
「もう二度と、空には上がらせないぞ!」
「クソ、人間ごときが我の上を取るなど、何たる屈辱!」
翼将は、地上に生える建物の隙間を縫うように飛行し、それをルークンが建物の屋上を飛び超えながら、追いかけていく。
「かまいたち!」
追われる翼将は風魔法を使い、ルークンが着地したばかりの建物を攻撃。
複数の風の刃が建物を切り裂いて、破壊する。
「うわっ!」
着地の瞬間を狙われたルークンは、次の建物へ飛び移ることができず、そのまま建物の崩壊に巻き込まれてしまう。
「人間、これでとどめだ!」
建物と共に落下したルークンを追いかけ、翼将が鋭い爪を振るって迫る。
「うぐっ」
狙いすました一撃は、ルークン右腕を掠めて肉を抉った。
血が飛び散るが、そこまでの深手ではないようだ。
ルークンは槍の石突で、近接戦を仕掛けてきた翼将の腹を、思い切り突き返した。
「ゴフッ!」
この一撃で、翼将が口から空気と涎を吐き出す。
かなり重たい一撃だったようで、翼将は吹き飛ばされて、近くにあった建物に激突。
そのままガラガラと音を立てて、建物が崩壊していった。
「ウガ、ガアアアーッ。翼が、我の翼が。おのれ、人間、人間が。我の翼を奪うなど、許されることではない!」
建物の崩落に巻き込まれ、翼将の背から生えている翼の一つが、ひしゃげて潰れた。
「これでお前は、空を飛べない。覚悟してもらおう」
「グ、グヌヌーッ」
翼将のアドバンテージは、自在に空を飛ぶ翼があること。
だが、翼を失い空を飛ぶことができなくなった翼将には、もはやそのアドバンテージがない。
「お、おのれ。こうなれば死なば諸共。
我が最強の魔法にて、我も貴様も王都共々、全て瓦礫と廃墟に変えてくれよう。
クハ、クハハッ」
狂ったように笑い声を上げて、翼将は自らが持つ魔力の全てをかき集め、自爆覚悟の大魔法の使用に踏み切った。
「そんなことはさせない。
僕がここでお前を倒さないと、王都が滅びるんだ。
……クレイ様のせいで」
ルークンのセリフの最後は、超小声だった。
そして追い詰められた翼将以上に、ルークンから放たれる圧力は、鬼気迫るものだった。
「全て凍てつき、世界は凍えろ、フリーズ・ゼロ!」
大魔法を準備していた翼将。
だが、それ以上の速さをもって繰り出された、ルークンの大魔法。
周囲の大地が、建物が、そして翼将さえもが、氷の中に閉じ込められる。
「バ、バカな。大魔法をこのような一瞬で使用できるばずが……ガ、ガアアーッ」
氷の中に瞬く間に翼将の体が捕らわれていき、動くことができなくなる。
翼将と周囲の世界全てが、氷の世界に閉じ込められる。
その中で動けるのは、術の使用者であるルークンだけとなった。
だがルークンにしても、大魔法の影響を受けていて、身に着けた帽子とマントに霜が降りている。
体も凍える寒さにさらされ、微かに震えていた。
大魔法の使用は、術者であるルークンの体にも影響を及ぼしていた。
「これで終わりだ」
そんな中、ルークンが指を弾く。
すると、周囲を覆っていた氷の世界全てが、砕け散る。
氷に捕らわれていた建物や地面、そして翼将が、音を立ててバラバラと砕け散っていった。
砕けた翼将は、もはや二度と動くことができなければ、生きてもいない。
「「「ウオオオーッ、ルークン。
謎の怪盗仮面少年ルークン。
やったぞ、魔王の幹部を倒してくれたぞーーー!!!」」」
翼将の死が確実となり、この戦いを見届けた王都の民たちが、一斉に勝利の雄たけびを上げ始めた。
そんな王都の人たちに、ルークンは片腕を上げて答えたが、次の瞬間忽然その場から消え去って、いなくなった。
△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇
もちろん、俺が瞬間移動ばりの速さで移動して、ルークンを回収したからだ。
しかし、翼将とルークンの戦いによって、王都の各所が破壊され、多くの死傷者が発生していた。
だが、それを救ったのは、突如現れた第三者だ。
彼女は、謎の怪盗仮面少年が使っているのと、同じ白マスクで顔を隠していたが、恰好は黒一色ではない。
怪盗の姿とは正反対で、白くてやたらド派手な衣装を着ていた。
元日本人の感覚だと、ラスボスだ。
紅白のトリを務める、小林幸子だ。
ただしまだ第一形態の状態で、第二形態である舞台装置と化した超巨大衣装までは纏っていない状態の、小林幸子衣装を身に着けた、怪人物だった。
そんな人物が、王都にある教会本部の聖堂の上に、姿を現した。
てか、どう見てもアイシャだ。
アイシャだよなー。
ま、いいや、仮でラスボスアリシャ様と呼んでおこう。
それがダメなら、謎の白鳥仮面少女アリシャだな。
そう呼んでおこう。
「王都の皆さま、この度の戦いで多くの人々が苦しみ、街が破壊されてしまいました。ですが神々は、竜神様は、決して人をお見捨てになることはありません。
微力な力ではありますが、どうか神々のご加護がありますように」
そう言って、アリシャは王都全体に回復魔法を使った。
都市一つを覆う範囲での、回復魔法。
それによって、今回の戦いで負傷した人々の怪我が、みるみる間に塞がっていく。
「き、奇跡だ。俺の潰れていた腕が、元に戻っていく」
「建物の瓦礫で失った左目が、元に戻ったぞ!」
「ヌオオオッ、10年続いていた腰痛が治ったー。ありがたや、ありがたやー。謎の白鳥仮面少女様、ありがたやー」
今回の戦いと全く関係ない、じいさんが混じっていた気がするが、瞬く間に人々の傷が癒えて行った。
だが、癒えていくのは傷だけでない。
「き、奇跡だ。戦いで崩れた建物が、みるみる間に元に戻っていく」
「地面に出来た大穴も、塞がっていってるぞー!」
「シロアリで穴だらけになっていた我が家が、新築の時みたいに戻っている。壁の輝きまで戻ってるわー!」
今度も、約1件全く関係ない感想があったが、戦いで破壊された建物までもが、元の姿へ回復していった。
俺がアイシャに教えた回復魔法って、便利だよな。
広範囲を一度に回復させる上に、建物や服の破損まで回復させる、おまけ効果が付いている。
ただし、この魔法で死者までは蘇らないが。
それでも宿に戻ったら、アイシャもねぎらってやらないといけないな。
なお、都市一つ丸々回復魔法で、元に戻したアリシャであるが、
「ゼエゼエ、急いでここから逃げないと。
こんな魔法使ったのが私だってバレたら、監禁されて、二度と外に出られなくなる」
広範囲に魔法を使ったことで消耗しているものの、衣装のスカートをまくり上げて、急いで現場から逃走し始める。
教会に聖女認定されるのが確実な魔法を使ったので、もし正体がバレたら、王都から外に出られない生活を、一生しないといけなくなる。
俺はルークンの時と同じように、謎の白鳥仮面少女アリシャの所まで瞬間移動並の速度で移動し、そのまま人のいない場所に連れて行った。
「アイシャ、ナイスな判断だが、あまり無理するなよ」
「は、はい。こんなことは二度としたくないです。
外に出られない生活なんて、したくないもの」
多くの人を救ったアリシャは、正体が露見しないようにと、仮面を外し、大急ぎでド派手な衣装を着替え始める。
『お、生足が丸見えだ』
俺の中の日本人が、着替え中のアイシャの姿を見てそう呟いたが、俺は急いでフランソワーズ嬢とルークたちの元へ戻った。
俺がいないのがバレると、面倒なことになりそうだからな。




