33 魔王軍幹部、翼将なんとか襲来!
王都2日目。
今日はどこを見て回ろうと思っていたら、フランソワーズ嬢が馬車に乗って襲来してきた。
「私の父が、クレイ様とお会いになってくれるそうです。
さあ行きましょう、今すぐ行きましょう、即座に参りましょう」
物凄いテンションで、フランソワーズ嬢に拉致られる羽目になった。
なお、フランソワーズ嬢の目的は相変わらずルークにあるので、同行は必定。
ただ、俺はこの2人の当て馬にされ、2人が仲良くしている光景を見なきゃならない。
なので死なば諸共と、スティーブンも巻き込んで連れて行くことにした。
「どうして俺まで……」
「お前は、俺の傍付き筆頭だから当然だろう」
悲しいかな、この社会は上位の人間に逆らうのが非常に難しい。
俺は格上の貴族であるフランソワーズ嬢に弱く、スティーブンは主君ある俺に弱かった。
そんなわけで、フランソワーズ嬢の実家である、ゴールドサックスマン邸へやってきた。
王都は広いといっても、城壁に囲まれた都市で、内部の広さに限りがある。
そんな中で、ゴールドサックスマン邸はデカかった。
貴族街のど真ん中、他の貴族の屋敷を圧倒して、これでもかというほど広大な敷地に、5階建ての巨大な本館が堂々と聳え立っている。
屋敷の内部も凄まじい。
豪華に光り輝くシャンデリア、金銀宝石にミスリルの装飾が施された壁や天井。
床は黒大理石が一面に敷き詰められ、所々に絵画や壺が飾られていた。
「多分、この壺一つ割っただけで、俺の全財産が消し飛ぶな。いや、その程度じゃ足りないか」
「えっ、本当ですか!?」
俺の言葉に、ルークが驚きの声を上げている。
壺の価値は、大金貨1枚なんてレベルを超えてるだろう。
俺はマーサ婆さんとつるんで儲けているものの、所詮は辺境の子供相手に、ちょっと小銭を稼いでいるだけだ。
一国の経済界を牛耳っている家とでは、稼ぎの桁が違い過ぎる。
「あら、その壺は屋敷の中に飾ってあるものの中でも、特に優れた名品なのですよ。ホホホッ」
そしてフランソワーズ嬢は、ルークの手を握りつつ、和やかに笑っている。
しかし、この壺割ったら、弁償できないな。
俺がフランソワーズ嬢と結婚する以外で、弁償を免れる方法がない。
その後フランソワーズパパであるゴールドサックスマン伯爵に会って、和やかなお茶会となった。
ゴールドサックスマン伯爵は、この国の経済界を支配している怪物であるが、見た目は和やかな中年男性。
見た目だけなら、とても穏やかに見えるが、愛人発言をする幼女伯爵令嬢フランソワーズのパパなので、絶対に見た目通りのはずがない。
ただ、出てきたお茶のカップがいい品で、俺は惚れ惚れとしながら、そのカップを褒め称えた。
「ほう、流石はクレイ殿。
由緒あるアルセルク家の末裔とあって、きちんとした鑑定眼をお持ちだ」
「ハハハ、俺もいずれこういった逸品を持ちたいものです」
日本人だった俺には、高級品の鑑定眼なんて全くなかったが、黄金竜の方は違う。
何しろドラゴンとカラスは、光物に弱い。
ドラゴンとカラスは、光物を集めずにはいられない習性をしているのだ。
そのため黄金竜は、この世界の各所に金銀財宝、勇者の聖剣や国宝級のお宝、伝説級の武器防具に、神界に存在する宝飾品の数々を隠し持っていた。
そんなものを集めまくっていたので、当然お宝の鑑定眼も身についてしまう。
その後、俺はゴールドサックスマン伯爵と、美術品関係の話を交わしていったが、お互いに意気投合し、非常に有意義な時間となった。
「こう言っては何だが、私の目に入れても痛くないほど可愛い娘が、辺境の騎士爵家に嫁ぎたいと言ってきた時には驚き、腹が立った。
アルセルク家を、跡形なく潰してしまおうと思ったほどだ」
美術品の話で意気投合したのは良かったが、しれっとうちの家を潰そうとしないでほしい。
国の経済牛耳ってる伯爵なので、冗談抜きでできるだろう。
「だが、クレイ殿であれば間違いない。
血筋も確かであるし、うちの娘の嫁ぎ先として問題ないな。
ハッハッハッハッハッ」
「……」
フランソワーズ嬢が勝手にその気になっていた結婚に、乗り気にならないでもらいたい。
なお、俺が伯爵と話している間、フランソワーズ嬢はルークと楽しそうにおしゃべりしていた。
と言っても、ルークの方はフランソワーズ嬢に好意はあるだろうが、男女の仲を意識している様子は全くなかった。
7歳の男の子に、色恋沙汰は早すぎるから仕方ない。
△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇
ゴールドマンサックス伯爵とのお茶会を終えた後、俺とルーク、そしてスティーブンは、フランソワーズ嬢が乗る馬車に乗せられ、宿屋まで送られることになった。
馬車の内部では、ルークの隣にフランソワーズ嬢が、体をピッタリとくっつけて座っている。
大型の馬車なので、密着する必要などないのだが、皆まで言うまい。
ただ、そんなフランソワーズ嬢とルークの姿を、俺とスティーブンは見ていないといけない。
『リア充爆発しろ!』
前世日本人の俺が、心の中で叫び声をあげ、現在の俺も強く同意した。
チュドーン!
「おっ、マジで爆発した」
一応言っておくが、今回の爆発に俺は関わっていない。
俺は未遂だ、無罪だ、無関係だ。
今回はダッシュしているわけでも、成層圏から落下しているわけでもないので、破壊活動は何一つしてないぞ。
とはいえ、一体何が起きたのだろうか?
「フハハハハ、我は魔王軍幹部翼将ガーフィッシュ様である。
デナント王国王都は、我ら魔王軍の支配下に入り、魔王様への忠誠を誓うがよい。
もっとも、逆らうようであれば、俺様直々に王都の街を破壊しつくし、この地をただの瓦礫の山へ変えてくれよう。
ガハハハハッ」
チュドーン。
もう一度爆発が起こり、王都にある高い建物が崩壊した。
魔法攻撃だな。
「キャアッ!
ま、魔王軍の幹部ですって!」
さて、平和な王都に突然の魔王軍襲来。
それも幹部クラスだ。
この状況に、馬車に乗っていたフランソワーズ嬢が驚きの声を上げ、顔を真っ青にする。
「どれどれ、どんな奴なのか顔だけでも見ておこう」
一方俺は野次馬根性を出して、翼将なんとかの顔を見てみることにした。
なので馬車から降りて、空を見上げる。
「「お供します」」
馬車を降りる俺に、スティーブンとルークも続いた。
さて、空を見上げてみれば、翼を生やした人型のモンスターを先頭に、背後の空には黒々とした雲が存在した。
雲に見えたが、よく見ると、それは一体一体が飛行型のモンスターだった。
万単位の飛行型モンスターだな。
そんなのが王都の空を覆って、雲と錯覚するように見えた。
モンスターどもは、ギャーギャー、ワーワーと喚き声をあげ、王都の空を黒く塗りつぶしている。
その光景を見て、俺は無性に腹がった。
空は黄金竜が支配する世界だ。
その世界を薄汚い羽虫どもが群がって、我が物顔で飛んでいる。
「よし、消すか」
俺は超高速移動で、その場から空へ移動。
人差し指を弾く。
それだけして、スティーブンたちの傍に戻った。
この間、0コンマ何秒の世界だ。
本気で俺が移動すれば、瞬間移動にしか見えない動きをすることができる。
そして、俺が指先を弾いた効果は劇的で、突如空に爆風が巻き起こったかと思えば、空を塗り潰していた羽虫の軍団が、爆風に巻き込まれて消え去った。
「あー、いいことした」
黒々としていた空が快晴の青空に戻り、飛行型モンスターは跡形なく綺麗さっぱり消え去った。
万単位の数がいたが、「だから何?」が、黄金竜基準の考えだ。
「ぬおおおーっ、巨大風圧が!」
「な、なんだこれは、魔王軍の魔法なのか!?」
ただ、空で発生した爆風はモンスターを消し去っただけでなく、おまけで地上にまで届いてしまった。
地上、つまり王都の事だ。
「キャアアアー!」
「ま、魔王軍の将軍の魔法だ!」
「お、王都が滅び去るー!」
王都のあちこちで悲鳴が巻き起こり、爆風にさらされた人が、次々に倒れる。
巨大な圧力を伴った風は人だけでなく、壁や建物にまで影響を及ぼし、一部の高層建築の壁が崩壊、あるいは天井が吹き飛ばされていった。
「お、俺は悪くねぇー」
建物が崩壊した下に、人がいた気もする。
よし、俺に不都合な事実は、華麗にスルーしよう。
「おのれ魔王軍、なんて悪辣な魔法を使うんだ。
街の人たちを無差別に攻撃するなんて、許せない!」
俺は義侠心を顕わにして、上空の魔王軍を睨んだ。
まあ、魔王軍って言っても、生き残ったのは例のなんとかって名乗りを上げていた奴だけで、あとは全部俺が消し去ったけど。
あいつだけ、王都近くの空にいたので、俺の攻撃の直撃を受けずに済んでいた。
なんだけどさー。
「クレイ様、頼むから動かないでください。次動くと、我々が王都ごと死んでしまいます!」
「お願いです、お願いだから、これ以上何もしないでください!」
バレないように瞬間移動して攻撃したはずなのに、スティーブンにがっしりと組みつかれ、ルークは涙目になって俺に懇願してきた。
「な、なんで俺がやったって、バレてるんだ。……い、いや、俺は何もしてないぞ」
「誤魔化さないでください。あんな攻撃、クレイ様以外の誰に出来るんですか!?」
「竜神様ならできるんじゃないか?きっと、神罰に違いない」
「「……」」
ちっ、誤魔化しきれない。
2人とも俺の方を、ジト目で見てきやがる。
「まあなんだ、これは不幸な事故だったんだ。
魔王軍の連中はほとんどいなくなったし、あとは素知らぬ顔して宿に帰ろう」
俺がやらかしたって国にバレたら、デナント王国から俺が魔王扱いされかねない。
そうなってしまえば、普通の人間のふりをして生きて行こうという、俺の緩い目標が達成できなくなるので困る。
俺はこの件には関係ない。
無実で、無罪なのだ。
だから知らないふりして、この場を逃げればいいのだ。
俺はそう思っていた。
「お、おのれ、人間どもめ、我が魔王軍に何をした。
一瞬で我が軍勢を壊滅させるとは、この暴挙許すまじ。
この翼将ガーフィッシュは、ただ1体となろうとも、人間相手に逃げることも、隠れることもせぬ。
我1体で、王都の人間を皆殺しにして、都市を破壊し尽くしてくれるわ!」
さっさと逃げりゃいいのに、バカな翼将が憤怒を顕わにして、地上に魔法攻撃をしてきた。
魔法が王都の街に命中し、派手な爆音を轟かせる。
「フハハハハ、人間よ、泣き叫べ。そして無力な己を呪いながら、死んでいくがいい」
なんかやけくそになって、攻撃してるな。
はあ、どうしよう。
俺がこれ以上動くと、スティーブンとルークに、ガチ泣きされて止められそうなので、動けない。
王都には勇者PTもいるけど、あいつらただのカカシだからな。
「悪逆非道を働く魔王軍よ、これ以上は勇者である僕が許さない!」
おっと、噂をすれば影だ。
王都の城壁の上から、聖剣を抜いた勇者様と、おまけの3人が正々堂々と現れた。
「勇者のみが使える雷魔法の力、受けてみるがいい!」
そして雷魔法を使って、空を飛ぶ翼将を攻撃する勇者。
スカッ、攻撃は当たらない。
スカッ、攻撃は当たらない。
スカッ、攻撃は当たらない。
「ク、魔力が底をついた」
うわー、全然役に立たねえ。
何にしに出てきたんだよ、ポンコツゴキブリ勇者。
「卑怯だぞ、魔族の将軍。地上に降りてきて、正々堂々僕と戦え!」
勇者が城壁の上で叫ぶ。
「ハハハハ、死ね、死ね、死にさらせー!」
だけど翼将の方は、勇者なんて眼中にない。
てか、存在にすら気づいてないな。
地上に向けて次々に魔法を放ち、無差別攻撃に熱中していた。
「よし、ルーク。これを貸してやるから行ってこい」
もう、勇者なんてのはどうでもいい。
あんな役立たずは無視だ。
俺は、昨日の午後にリーリャと買い物をしている最中に買った、白い仮面と黒マントの装束を、ルークに渡した。
「クレイ様、大丈夫です。謎の怪盗仮面少年の衣装は、僕も持ってます」
貸そうとしたら、ルークも俺と同じものを持っていた。
一体どこから取り出したんだという、野暮な質問は、俺もルークもしない。
「そうなんだ。もしかして、領地の子供たちの間で流行ってるのか?」
「1年くらい前にリーリャ様が始めて、領地では結構人気になってますよ」
「そうだったのか、今まで知らなかった……」
狭い領地で流行っていることを知らなかったとか、俺ってもしかしてハブられてない?
しかも、流行の発信源が妹のリーリャとか、もしかしてお兄ちゃんは、妹からもハブられてるのか?
この件については、後で考えよう。
「死ね死ね死ね死ね!」
空では、壊れたように同じ言葉を繰り返している翼将が、無差別攻撃を続けている。
「よし、ルーク。いや、謎の怪盗仮面少年ルークン。お前が行って、あいつを仕留めてこい」
「分かりました」
ということで、ルーク改め、謎の怪盗仮面少年ルークンが、白マスクに黒装束を纏って、王都を守るための戦いへ繰り出した。
「クレイ様は、絶対に参加しないでください」
なお、ルークンは戦いへと出向いたが、我が領最強の男スティーブンは、俺の監視役として残った。
「もしかして、魔王軍の幹部より、俺の方が危険物扱いされてる?」
「当たり前です!」
グスン。
今回もちょっとだけやらかしたけど、どこまで俺のことを信用してないんだ。




