32 悪党集団のトップに上り詰めた男
俺たちが泊まっている宿屋の1階は、酒場兼食堂となっている。
アイリャの話を聞き終えた俺とリーリャは、そのまま食堂で食事をとろうとした。
「ギャハハハハー、酒だ酒。酒をもっと持って来いー」
「いやー、兄貴のお力には感服いたしやした。俺たち、兄貴の舎弟になれて光栄です」
「兄貴ー、兄貴が組織を立ち上げれば、王都の犯罪組織は全部兄貴の支配下に出来ますぜ。
何しろ兄貴には、それだけの実力があるんですからー」
食事をとろうとしたら、食堂の客が人相の悪い人間ばかりだと気づいた。
どいつもこいつも、顔に古傷があったり、入れ墨を入れていたり、とても堅気の姿に見えない。
話の内容も物騒で、王都にいる犯罪者の集まりではないかと思えた。
「泊まる宿を間違えたかな?
教育に悪そうな連中がいるところに、子供たちを泊めるのは良くないな」
見た目は物騒だが、我が領の子供たちはリーリャを筆頭に、オークを平気で狩れるバトルジャンキー集団。
俺が望んでそうしたわけではないが、気が付いたらそうなっていた。
なので、たかだか王都の悪党程度に、物理で負けることはない。
とはいえ、教育に良くない相手なのは確かだ。
これからでも、別の宿に部屋を取り直すべきかと考えながら、悪党たちが口にしている、『兄貴』とやらの顔を見た。
黒髪ロン毛の悪人顔のイケメンがいた。
歳は意外に若くて、まだ成人した辺りだろうか?
この世界の成人男性は15歳なので、日本の感覚だと、まだ子供になってしまうけど。
てか、物凄く既視感がある。
物凄く見覚えのある顔だ。
「うおおおおーい!
なんでウラドが、チンピラの兄貴分になってるんだ!」
我が領のイタイ男筆頭、ウラドだった。
「あああん、手前ウラドの兄貴に、なにき易く話しかけとるじゃ!
ガキだからって、容赦せんぞー!」
俺が叫んだから、悪人どもも席から立って叫んできた。
だが、そんな奴らのことなど、どうでもいい。
俺は悪党を無視して、ウラドの前まで移動した。
ちょっと竜神パワー入りの移動だったので、周りにいた人間からは、俺が瞬間移動したように見えただろう。
「クレイ様、おかえりなさい」
「おかえりじゃない。お前今日1日で、何しでかしたんだよ!」
「う、うおおーっ」
俺はウラドの胸元を掴んで、ガクガク揺する。
ちょっと気が動転していたせいで力が入り、ウラドが高速上下運動でシェイクされるが、そんなことは関係ない。
「う、ヤバイ、吐く」
「そうだ、そのまま吐け!お前は今日1日で、何をしでかしたんだー!」
「オロローッ」
「汚ねっ!」
あろうことにも、ウラドが食べたものを戻しやがった。
バッチイので、窓から宿屋の外に放り出す。
汚物はポイだ。
「「「あ、兄貴―!」」」
俺が汚物をポイ捨てしたら、悪人たちが一斉に情けない声を上げた。
「て、手前、よくもウラドの兄貴を。野郎、ぶっ殺してやる!」
そして怒りをあらわにすると同時に、一斉に俺に向かってきた。
「バカ、お前らやめとけ!
クレイ様と戦うと、俺らが全滅する。
いや、王都ごと地図から消えちまうから、絶対に戦うな!」
窓の外に捨てたウラドだけど、すぐさま窓から戻ってくると、悪人たちの前に立ち塞がった。
「あ、兄貴ぃー?」
俺に向かってこようとしていた悪人たちが、ウラドを前にして、一斉に足を止める。
てか、さり気に、王都ごと消えるって言ったよな?
ウラドは、俺のことをなんだと思ってるんだ?
俺が物理で、王都を消すはずがないだろう。
……たぶん、おそらく、可能な限り、できるだけ。
あれっ?
なぜか自信がなくなってきた。
コホンッ。
自分のことにちょっと自信を無くしてしまったが、俺が気が付いた時には、ウラドだけでなく、子供たち全員が動いていた。
彼らは全員が武器を手にして、悪党達の首筋に刃を当てている。
「動けば斬ります。
全員、切り捨てます。
たとえ私たちが犯罪者になろうとも、そうしなければ皆、王都ごと跡形なく消えちゃいますから」
悲壮な覚悟を胸に抱いて、悪党相手に二刀の刃を構えた、リーリャが言う。
「リ、リーリャ、お兄ちゃんは王都を消し飛ばす気なんて、これっぽっちもないから」
「兄様がそのつもりでも、うっかりで消えるじゃないですか」
「そ、そんなことないぞ」
ちょっと力加減を間違えなければ、大丈夫だ。
俺の通常攻撃は、全体攻撃を通り越して地形破壊、自然破壊クラスの攻撃だけど、力加減さえ誤らなければ、大丈夫なんだ。
そのちょっとが、難しいんだけど。
「クレイ様、お願いですから座っててください。俺もまだ死にたくはないので」
気が付けば、頼れる男スティーブンまでやってきて、椅子に座れと進めてくる。
なんだろう、皆して悪党より、俺のことを怖がってるぞ。
最近俺の扱いが、デフォルトで超危険都市爆弾みたいな扱いになっている。
「……グスンッ」
俺は普通の人間のふりをしたいのに、どうしてこうなる。
ちょっと悲しくなって、椅子に座った。
「どうぞ、これでも飲んで落ち着いてください」
「う、うん。そうする」
スティーブンがすかさず水を差しだしたので、それを飲んで、俺は心を鎮めることにした。
さて、俺の心は凪の海のように穏やかになった。
「で、ウラド、お前何をやらかしたんだ?」
邪魔な悪人連中は、子供たちが宿の外に全員放り出してくれた。
静かになった宿の中で、俺はウラドに改めて尋ねる。
「それがですね、ちょっとガラの悪い連中に睨まれたので、こっちもにらみ返したら、いつの間にか喧嘩になっていて……」
「王都にきて真っ先にするのが喧嘩って、何やってるんだよ!」
「俺も喧嘩なんてするつもりじゃなかったけど、向こうが勝手にガン飛ばしてきたんですよ。
で、俺も大人しくしてるわけにはいかないでしょう」
こいつは基本、昭和時代のヤンキーだ。
見栄えはイケメンだが、脳みそがそうできている。
「で、邪魔な奴らを倒していたら、そいつらに兄貴って呼ばれてる連中が出てきて……なんでも王都の闇社会では、凄腕の男って話だったんですが、それに勝っちゃいましてね」
「へー、そうか。ところでウラドって、今どれくらい強かったっけ?」
「領地にいた時に、サイクロプス相手に勝てました。拳で」
「あー、そうなんだ。てか、人間なんだから拳でなく、武器を使って戦えよ」
「自分の体でどこまで通用するか、試してみたかったんです」
「あ、そう」
俺もダッシュしてるだけで、魔王とか世界征服企んでる変なのをミンチにしているので、あまり人のことを言えない。
ただ俺の場合は、武器を持っている方が、攻撃力が少しだけ落ちる気がするので、拳では戦わないようにしてるけどな。
「で、その後も次々に強い奴が出てくるので倒してたら、いつの間にか、あいつらが俺のことを兄貴って呼んでたんですよ。
俺の舎弟になったんだから、こりゃ面倒を見てやらないといけないって思いましてね」
「へー、そう」
腕力で勝ち続けたら、いつの間にか悪党集団のトップに上り詰めたわけか。
どうしよう、日本人の脳は理解できないけど、黄金竜脳だと理解できてしまう。
黄金竜の脳みそは、強い奴が一番偉いなので、ウラドの仕出かしたことと、悪人たちの考えがよく分かる。
負けた側は、強い奴に尻尾を振って、手下になるしかない。
そうしないと、ガブリと食べられてしまう。
黄金竜の場合は、手下になっても、気分次第でガブリと食べることがあったけど。
「大体の理由は分かった。
でも、王都にいるのは数日なんだから、これ以上人数を増やすなよ」
「分かりました」
「あと、うちの領地にまで着いてきたいなんて連中がいても、連れてくるなよ」
「もちろんです」
「本当に分かってるか?」
「はい、分かってます!」
返事はいいけど、本当に意味が分かってるのだろうか?
ああいう、腕力全てのバカ達って、惚れた男にはしぶとくついてくるんだぞ。
黄金竜の場合はメスだったけど、それでも惚れられたオスとメスのドラゴンが、しぶとく付きまとってくることがあった。
まあ、邪魔に感じたら、ガブリと食べたけど。
こんな感じで、ウラドは王都1日目にして、早速やらかしてくれた。
明日は、これ以上変な連中を連れてきてほしくない。




