26 モンスターより危険な存在
王都を目指す旅は続くよ、どこまでも。
ガタゴトと揺られる乗合馬車に乗って、今日も今日とて王都を目指す。
「いい加減この旅にも飽きてきたなー」
馬車の旅は牧歌的であるものの、来る日も来る日も似たような景色ばかり見ていると、飽きが来る。
ただ俺から見れば似たような景色でも、領の外に初めて出る子供たちは、見る景色全てが新鮮に映るらしい。
賑やかにおしゃべりして楽しそうにしているので、修学旅行としては悪くないだろう。
でも、子供たちの引率の先生を自認している俺は、中身が子供じゃないせいか、子供たちほど純粋に、外の景色に感動を覚えない。
「クレイ様、もう少ししたら食事休憩ですよ」
「おーっ」
子供の1人に、ルークという俺よりひとつ年下の少年がいるが、彼が教えてくれた。
馬車に乗ってるだけだと退屈だ。
食事の時は馬車を止めて、地面に降りる。
足腰を長い間動かしてないので、休憩の時にストレッチをしておかないとな。
なんて、俺は呑気に考えていた。
ただ、俺の黄金竜並の聴覚が、異変を感じ取る。
「モンスターかな?」
馬車の後方を眺めて、呟く。
俺の聴覚には、ガタガタと急いで走る馬車の車輪の音と共に、その後を追いかけるように続く足音が聞こえる。
オオカミ系のモンスターの足音だろう。
何十匹もの数で、馬車の後を追いかけている。
「なんでこんなところにブラックウルフの群れが。イヤだ、私死にたくない」
馬車の内部から、女の子の悲鳴も聞こえる。
「お嬢様、大丈夫でございます。このまま次の町まで走り抜けることができれば……フゴッ」
あ、馬車の車輪が石に乗り上げたな。
その際馬車が上下に激しく振動したようで、お嬢様に仕えているらしい老人が、舌を噛んだのが分かった。
「キャー、ジイ。口から血が出てましてよ!」
「お、おひょうひゃま……」
モンスターに追いかけられて大変そうだけど、ちょっと間抜けなご老人に、笑ってしまう。
命がかかっている場面なので、笑ったらダメなんだろうけど、ついつい笑ってしまった。
「ムッ、背後からモンスターが。馬車が追われているのか」
さて、俺だけでなく、スティーブンも気が付いたようだ。
馬車の後方を厳しい眼光で睨み、全力で走ってくる馬車の姿を目に移す。
簡易とはいえ、武装を整えた元冒険者のニールとケイトも、武器を手にして警戒する。
子供たちも異変を感じ、皆それぞれに武器を手にした。
うちの子供たちは、領地ではモンスター相手に戦ってるので、こういう時の対応が早い。
でも、このままだと戦闘民族シマズーにならないかと、少しだけ心配している今日この頃だ。
まあ、それはそれだ。
モンスターに襲われている馬車を、見殺しにはできない。
「よし、ここは俺が行って助け……」
俺は馬車の中で、立ち上がろうとした。
モンスターなんて、ちょちょいのちょいでお終いだ。
わざわざ子供たちが出向くまでもない。
「兄様っ!」
だけど立ち上がろうとした俺を、リーリャが後ろから両腕を回して止めてきた。
自然、抱き着かれた格好になる。
「私、死にたくない!」
おや?
オーガ相手に1人で倒せて、いつもモンスター相手にまったく物怖じしない妹なのに、今日はやけに弱気だ。
どうしたんだろう?
「死ぬなんて大げさだな。俺がいるから、だいじょ……」
「私、兄様の攻撃に巻き込まれて、死にたくない!」
「へっ?」
気が付くとリーリャだけでなく、俺の右手をアイシャがぎゅっと掴んでいた。
その目には、ありありと不安が浮かんでいて、顔色が青くなっている。
おまけに小刻みに、プルプルと震えていた。
見た目は気弱な女の子にしか見えないが、オークをこん棒で殴り殺せる普段の姿と、乖離が激しい。
あと、左肩はスティーブンの逞しい二の腕で、ガシリと拘束された。
振りほどくのは簡単だけど、なぜか皆が皆、必死になっている。
「クレイ様、ダメ!」
「動かないで、絶対に!」
「頼むから、大人しくしていてください!」
子供たちまで、死を覚悟した形相で、俺を止めてきた。
「意味が分からないんだけど?」
俺はモンスターを、ちょっと小突いて、倒してこようとしてるだけだ。
なのに、どうして皆ここまでしてくる?
「クレイ様、つい先日”通常攻撃”で山を吹き飛ばしたばかりです。それをお忘れですか?」
理解できずにいたら、スティーブンにそう言われた。
あー、つまりそういう事か。
俺がモンスターと戦った余波で、モンスター諸共、周囲の地形を破壊。
それに巻き込まれて、ここにいる皆も死んでしまうんじゃないかってことか。
「そ、そんな馬鹿な事するはずないだろ。どうして皆、俺のことを信用できないんだ」
「信用はしています。力加減をちょっと間違えただけで、山を破壊できるって、ちゃんと分かってますから!」
「ええーっ!」
ダメだ、この場にいる皆から、俺は危険な爆発物認定されている。
ドカンとなったら、周辺の地形ごと敵味方関係なく、全て破壊してしまう。
そんな感じの扱いだ。
いや、俺も分かってはいるんだ。
ちょっと小突いただけのつもりが、なぜかクレーターができてたりするし……
この場で俺たちの会話の内容を理解できてないのは、つい最近加わったばかりの、ニールとケイトのカップルだけだった。
2人だけ、意味が分からずに、不思議そうな顔をしている。
「僕たちが行ってくるので、クレイ様はそこを絶対に動かないでください!」
俺が考えている間に、ルークを始めとした男子5人が、乗合馬車を飛び降りて、モンスターめがけて走って行った。
「ルーク任せる。俺たちは全力でクレイ様を止めている!」
危険物扱いされている俺は、スティーブンに肩を掴まれ、アイシャに腕を握られ、リーリャに両腕で拘束され、そんな彼らを見送るしかなかった。
モンスターより、俺が戦う方が危険だから仕方ないよなー。
……グスンッ。
なお、モンスター相手に飛び込んでいったルークたちだが、あっという間に狼型のモンスターを倒していった。
鎧袖一触という言葉がまさにピッタリで、危なげなく全てのモンスターを駆除した。
「モンスターだ!」
「魔石だ!」
「小遣いだー!」
「ヒャッハーッ!」
ルークはメインウエポンである槍を見事に扱い、真面目に戦ってくれたけど、あとの男子4人は、そんなことを叫びながら戦っていた。
モンスターの魔石を持って帰って、マーサ婆さんから小遣いをもらうつもりだな。
不当な価格で買い叩かれているのが分かってるのに、健気で逞しいものだ。
まあ、マーサ婆さんだけでなく、俺の懐も潤うのでありがたいけどな。




