25 ニールとケイトはすごく仲良し
オッサンに連れ去られそうになった、乞食のお姉さんを助けた俺――いや、今回はウラドだな――たち。
そこに、俺たちの泊まっている宿から、ニールが出てきた。
本日も王都目指して馬車の旅なので、そのための準備に出てきたのだろう。
「ケイト、ケイトじゃないか!」
「まさか、ニール、ニールなの!」
ただ、宿から出てきた途端、乞食のお姉さんとニールがハグをした。
乞食のお姉さんの名前は、ケイトって言うんだな。
そんな2人がしているのは、欧米人たちがあいさつ代わりにする、ハグに違いない。
やたらと2人の瞳が潤んでいて、抱きしめている腕の力が強いのは、きっと生き別れとかの仲だからじゃないか?
「死んだんじゃないかと、心配していたのよ」
「ああ、私もだ。だけどこうしてまた会えた」
やはり2人は知り合いらしい。
なんて考えてたら、2人がキッスをした。
それも欧米人の挨拶で頬にするやつでなく、互いの唇と唇を重ねてのキッスだ。
「えっ、どういう事?」
全く理解が追いつかない。
「何やってるんだ、女同士で」
俺の近くにいる厨二病男も、流石に眉をしかめてる。
そんな俺たちの前で、2人の女性が熱烈過ぎるキッスを続けた。
ディープキッスだ。
ちょっと2人とも、いつまでキッスをしてるんだ?
もう、1分以上経ってるぞ。
「都会ではこういうのが流行ってるのか?俺には分からん」
「いや、俺も分からないって……」
ウラドはジト目になり、俺の方も2人の濃密すぎる関係に、戸惑うばかりだ。
あー、そういう事か。
女同士で、物凄く仲がいいわけか。
そういうことかよ。
あの2人、できてるなんてレベルじゃないな。
しかし2人の姿を見ていると、俺まで背徳的な気分になって、ドキドキしてしまう。
「ああ、いい物を拝ませてもらってる。ありがたや~」
「ハアッ!?」
俺は何かに目覚めてしまったのかもしれない。
そんな俺に、ウラドが素っ頓狂な声を上げる。
フッ、黒歴史坊やには、女性2人の尊さがまるで理解できないようだ。
まだまだお子様だから仕方ない。
△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇
さて、2人は熱烈な再会を喜んだあと、落ち着つく同時に、身の上を話してくれた。
「ケイトとは故郷が同じで、昔からの幼馴染なんです。
故郷を2人で出てから、冒険者PTを組んでいたのですが、山賊に襲われた際に生き別れになってしまって……」
「私は、何とか逃げ延びることができたけど、武器も防具も失って、路銀もなくなって、物乞いをするしかなったんです」
ニールについては、既に知っていることだが、乞食のお姉さんことケイトも、大変だったらしい。
「PTのリーダーが、私たちの路銀のほとんどを持っていたけど、山賊に殺されてしまったんです。
それで、どうにもならなくなっていました」
と、話すケイト。
何とも世知辛い世の中だ。
「冒険者って、かなりハードなんだな」
冒険者の活動は華々しく見えても、一度の失敗や危機で、その後の人生が路頭に迷ってしまうなんて大変だ。
半分が元日本人の俺だけど、冒険者に過度な憧れを抱くのはヤバいな。
堅気の人間がする仕事じゃないぞ。
ただ、これで2人の話は終わりでない。
「クレイ様、拾ってもらった私が、厚かましいお願いをできる立場にないの分かっています。ですが、どうかケイトも拾ってもらえないでしょうか」
ニールの身柄は俺が預かったが、ケイトは未だ物乞いのまま。
「このまま1人町に残して行くなんてできません。
どうか、どうかお願いします」
俺の足に縋りついてきて、ニールが懇願してきた。
そんなニールの肩に、俺は優しく手を置く。
「安心しろ、今更1人2人増えたところで、問題ない。
ケイトも、うちの領地で受け入れてやるよ」
「クレイ様っ!」
感極まって、ニールが涙を流した。
男前のニールだけど、よく見ると体は細く、近くにいると女性特有のいい香りもする。
そんな美人に泣かれると、照れてしまうな。
「でも、ケイトの方はそれでいいのか?」
ニールのお願いを聞いて、ケイトを領民に加えるのはいいが、本人の意思確認も必要だ。
「ニールには話したけど、うちの領地ってモンスターとしょっちゅう戦ってる上に、超ド辺境で、外からくる人間はたまに来る行商人くらいで、店なんてなくて、それからそれから……」
「クレイ様、そのぐらいにしときましょう。自分の治める領地を貶しまくって、何が楽しいんです?」
俺は思い浮かぶ限り、アルセルク領がどれほどヒドイ領地かを説明しているだけだ。
ウラドが途中で止めに入ったが、これは貶しているわけではない。
「貶してるんじゃない、ただの事実だ!」
「ま、否定はできませんな」
ほら、やっぱりウラドも、アルセルク領がとんでもないところだと、理解してるじゃないか。
ただ、俺の領民になってもいいのかと、ケイトに尋ねてみると、
「私はニールに、どこまでもついて行くだけだから」
「ケイト」
2人が、互いにうっとりと視線を合わせて、指を絡めて手を握った。
完全に恋人だ。
ニールが男前とはいえ、女同士の恋人だ。
2人とも熱烈な視線を交わし合って、2人だけの世界に入ってしまう。
目の前にいる俺の事なんて、まったく見えてないな。
見ているだけで、この2人を引き裂くなんてできないって理解させられる。
ニールが付いてくる以上、ケイトも俺の領民に加わるのは確定だ。
「あー、お2人さん、仲がいいのはいいことだけど、そういうのは子供のいない所でお願いします」
ただ、あまりにも熱烈過ぎる2人の姿に、俺の方が耐えられなくなってきた。
『リア充爆発しろ!』
前世日本人の俺が、心の中で呪詛を上げだしたんだ。
いや、美女同士の中の睦まじさは、見ていてドキドキさせられるんだけど、流石にちょっと妬みが……




