表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/45

23 元冒険者のニール

「お、お願いです。水と食料を分けてください。ほんの少しでいいので……」


 神の御業で土砂崩れが撤去された街道を進んでしばらくした時、土埃にまみれ、ボロを纏った妙齢の女性に遭遇した。


 息も絶え絶えという様子で、見ただけでかなりまずい状態だと分かる。



「スティーブン、水と食料を。それからアイシャ……」

「分かってます、今、回復魔法をかけてます」


 俺が指示するより早く、アイシャは女性の傍によって回復魔法をかけていた。

 俺仕込みの回復魔法によって、みるみる間に状態が回復していく女性。


 カサカサだった唇に、淀んだ暗い目、やせ細った体。


 それらすべての状態が回復していく。


「せ、聖女様の奇跡じゃ!」


 そんな光景に、御者のおじさんが驚いている。

 しかし、先ほどは竜神様への信仰で、今度は聖女様か。

 このおじさんは、熱心な宗教の信仰者なのかもしれない。


 我が領を脅かしている、末法思想に取りつかれた新興宗教の徒には、絶対にならないでほしい。



「やっぱアイシャの回復魔法って凄いよな」


「村で一番だもんな」


「わ、私だって負けてないんだから、もう少しクレイ様と親密に練習すれば……」


 御者のおじさんはとびきりの驚きよう。

 だけど、いつも見ている子供たちは、特に驚くなんてことはなかった。


 あと、約1名女の子が、クネクネしながら俺の方を見てきた。

 腰が縊れていて、ラインが目立つな。


「ウフンッ」


 なぜかウインクまでしてくる。




「……」


「リーリャ、お兄ちゃんの前に立たれると邪魔なんだけど?」


 女の子と俺の前に、リーリャがなぜか怖い顔をして立ち塞がった。


 桑原桑原。

 俺は女の戦いには、絶対に加わらないからな。

 臭いものには、蓋をする。

 危険な現場は、見て見ぬふりするのが一番だ。




「ぷはーっ、助かりました」


 ところで、俺たちがそんな事をしている間に、酷い状態だった女性が回復した。

 今は水を飲んで、一息ついたところだな。


「かなりひどい状態だったので、回復に時間がかかりました。

 でも、ここまで回復すれば、ご自分で歩くこともできますよ」


 女性に、アイシャがニコリと笑い掛ける。

 女性のボロボロだった体を回復させるのに、大量の魔力を使っただろう。

 疲労感が大きく、アイシャの顔色が少し悪くなっているが、それでも女性を心配させようとしない態度は立派だ。


 シスターとして、素晴らしい素質だな。



「ありがとうございます。このような高度な回復魔法をかけていただけるとは、さぞかし御高名な聖職者様なのでしょう」


「いいえ、私はただの見習いシスターですよ」


「えっ、見習い!?」



 おっと、イケナイ。

 アイシャの回復魔法は、アルセルク領の外では、聖女認定確実だ。

 領地にいると、ちょっと凄い回復魔法が使える程度の扱いだが、領外では目立ちすぎる。


 王都で聖女認定なんてされたら、一生外に出られない生活をさせられてしまう。




 既に手遅れかもしれないが、俺は女性の注意を逸らすために話しかけた。


「失礼、俺はアルセルク騎士爵領の領主代理で、クレイ・アルセルクと言う。この一行は俺の供回りだ」

「これは、クレイ様は貴族様でいらっしゃいましたか」


 俺が名乗ると、女性は片膝をついて頭を垂れる。


 子供と言えど、貴族は貴族。

 それが騎士爵という、末端貴族の跡取りであっても、この世界では身分差が存在するのだ。


「頭を上げてくれ。それより、あなたはどうしてこんなところに?」


「私はニールと申します。

 冒険者として活動していたのですが、街道沿いで山賊に襲われてしまいました。

 私は仲間と共に戦ったのですが、多勢に無勢で仲間は殺されるか逃げるかで、私は運悪く捕まってしまい……それから、ううっ」


 そこで一旦言葉を区切りってしまう、ニール。

 アイシャの魔法で回復したことで、体の衰えはかなり回復している。


 女性ながらに冒険者をしていたとあって、凛々しい顔立ちをしていて、体に無駄な肉がない。

 胸はあまり大きくないものの、彼女の引き締まった体には、その方がバランスが取れていた。


 大きければいいってもんじゃない。バランスも大事だな。


『宝塚で男役してそうだな』

 なんてのが、日本人だった俺の意見だ。




 しかし、美人が山賊に捕まったとなれば、その後に待ち構えていることは……


「山賊どもに捕らわれてしまったのですが、妙な事をされる前に、突然山賊の砦が土砂崩れに巻き込まれてしまい……」

「ソウナンダー」


 思わず片言になってしまった。

 仕方ないよなー、自然災害が発生したなら、びっくりだよなー。


 俺は何も悪いことしてないぞ!



「土砂に巻き込まれてしまい、土の中に埋まっていたものの、何とか自力で抜け出すことができました。

 でも、御覧の有様で……」


 そこでニールは、自分の姿を俺たちに見せた。


 ボロボロの格好で、とても冒険者のなりではない。

 ただの貧乏人。街中だとスラムの住人って感じだ。


 服と違って、顔は凄く綺麗だけど。



「なるほど。だったら次の町まで連れて行こう」


「本当ですか!?」


「ああ、それくらいはしてやるさ」


 貸し切り乗合馬車には、まだ人が乗れる。


 俺はニールの事を、同行している女性陣に任せた。


 今の憔悴しているニールには、男より女性が側についている方がいいだろう。






 なお、次の町に着くまでの間に、ニールの方から、


「クレイ様は命の恩人ですので、このまま仕えさせていただくことはできないでしょうか?」


 と、申し出てきた。



「仕えたいって、アルセルク家に仕えるってこと?」

「はい、そうなります」


 マジかよ。

 なんて奇特な意見だ。

 信じられん。


「俺たちは王都に向かってる途中だが、俺が治めるアルセルク領は物凄いド辺境で、自慢じゃないがこの国で一番、いや帝国も含めて、もっとも辺境にある場所だぞ。

 隣の領との往来がほぼなしで、モンスターがよく攻め込んでくるような場所だぞ。

 俺に仕えるってことは、そんなところで生活することになるんだぞ。

 はっきり言って、罰ゲームのような場所だぞ。

 冒険者ギルドこそあるものの、行商人が来ないと買い物すらできないし、その行商もたいした物を売ってない。

 食っていくためには、領主一族でも畑仕事をしなきゃならないほど貧乏だし。

 それからそれから……」


 俺は考えうる限り、アルセルク領のダメな点を上げ続けていく。

 ぶっちゃけ、あの領地にいい点なんて何もない。


 自然は物凄く豊かだけど、この世界は令和日本のある地球みたいに、星の中が開発されまくっているわけではないので、自然豊かな場所なんて、どこにでもある。


 自然を満喫したいなら、もっと別の場所に住む方がいいな。



「兄様はアルセルク領のことを、そんな風に考えてたんですね……」


 アルセルク領のダメ出しをしていたら、近くで聞いていたリーリャに、悲しげな顔で見られてしまった。



「すまん。自分の故郷を悪く言うのは、気分が悪いよな。でも、事実だから」


「……そうですね、事実ですね」


 リーリャも、王都に向かう今回の旅で、人生初めての、領地の外を経験している。


 領地の外と比べて、我がアルセルク領がどれだけド田舎で、とりえのない領地なのか理解してるだろう。



 だが、俺とリーリャの間で、微妙な空気が漂ってしまった。




 しかし、そんな俺たちの前で、ニールが告げる。


「構いません。

 山賊に捕まっていた私の言葉なので、信じてもらえないかもしれませんが、私は剣の腕はそこそこ立ちます。モンスターが襲ってくる場所でも、大丈夫です!」


「そ、そうか……」


 体を乗り出して、必死で自分を売り込んでくるニール。

 あまりに鬼気迫る勢いがあり、思わず気圧されてしまう。



 ただ、俺はニールがなんで必死になっているのか、その理由に気づいた。


 今のニールはボロボロの姿で、路銀すら持たない状況。

 俺たちが手を差し伸べなければ、食料も水もなく、そのまま野垂れ死にするしかない状態だ。


 冒険者をしていたと言っても、今の状態で町にたどり着いても、スラム落ちするしかないだろう。

 そうなれば冒険者はもとより、普通の生活に戻れる可能性は極端に低い。


 だから、必死なのだ。



「あー、そういう事か」


「クレイ様、もしかして私の浅はかな考えに気づいてしまいましたか……」


 羞恥心から顔を下に向け、表情を隠すニール。


 そんな彼女に、俺は返事を返せない。


 しかし、このまま人を放りだすのは、寝覚めが悪すぎる。



 俺の中の元日本人の部分が、変に甘ちゃんを発揮したのかもしれない。



「仕方がない。助けてやったのも何かの縁だ。うちの領地に来るといい。

 ただしうちは貧乏だから、給料払ってやるのは無理だぞ。

 それでも家と畑は用意してやるから、農家をすればいい」


 俺は頭をガシガシ掻きながら、仕方がないとニールを受け入れてやることにした。

 俺に仕えるのでなく、領地の農民の1人として受け入れてやる。


「ク、クレイ様、ありがとうございます」


 途端、それまで顔を下に向けていたニールが、恥ずかしそうな、でも嬉しそうな、何とも言えない表情を浮かべた。

 目には涙まで貯めている。


 そんな姿で、俺に抱き着いてきた。


 突然抱き着かれて、ビックリだ。



 見た目はコンパクトな胸だが、密着すると驚くほど弾力が強い。

 母上のボイン胸とは、また違った感触があるな。




「なっ、兄様にまたしても女が!」


 そして俺の傍にいるリーリャが、小声で何か言った。


 でも、俺の耳にはその言葉は聞こえなかった。


 だって、可愛い俺の妹が、ドスの聞いた低音で、黒いオーラを出してるんだよ。

 そんな妹の声なんて、例え聞こえていても、俺の中では絶対に聞こえていないんだよ!



 俺は、難聴系主人公に転職するぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ