21 炎のエムブレムのテンプレイベントが来た!
「貴族の若様、なにとぞ我が村を、山賊の魔の手からお救いください」
前世の日本では有名だった戦略シミュレーションゲーム、炎のエムブレム。
あの系統のゲームでは、大体第2ステージで山賊に襲われている村を救い、次のステージで山賊のいる砦に殴り込むというのがお約束だった。
使い回しのネタであるが、古き良き伝統だから仕方ない。
そんなテンプレが、俺の目の前に転がり込んできた。
貸し切り乗合馬車で立ち寄った村で、村長に俺が貴族の若様だとバレてしまい、そこから無茶な依頼を出されてしまったのだ。
スティーブンはともかく、俺を含めて、ほとんど子供だけという面子を見て、どうして山賊退治を依頼してくる?
お前は大人のくせして、なぜガキの集団に、山賊を殺しに行けと頼めるんだ?
精神がおかしいぞ。
俺はこの事態に、悪意を感じざるを得ない。
具体的には、この世界をおもちゃ箱にして遊んでいる、ボッチな上位神の存在を感じずにいられない。
あいつは異世界人を使って、テンプレイベントをこなさせて、ゲラゲラ笑いながら見てるからな。
という訳で、俺は乗合馬車の馬がした馬糞を、上位神のいる世界にこっそり放り込んでおいた。
あの世界は、他とは隔絶された空間に存在するため、通販で買ったものしか入れない。
だが、アメリカの一部の家の玄関ドアには、ペット専用の出入り口がついているように、ボッチ神の世界にも、黄金竜専用出入り口が付いていた。
その出入口を使って、俺は奴の世界に馬糞を放り込んでおく。
『グワー、なんでこんなところにクソが落ちてるんだ!踏んじまったじゃねえかー!』
あまりにもお約束なことをしてくれる上位神。
相変わらずの間抜けぶりだ。
そして上位神、俺の方は見るなよ。
しばらくはクソの後処理をして、俺の方は見なくていいぞー。
俺がやったと、気づくなー。
俺は何食わぬ顔をして、件の依頼を出してきた村長の家へ向かった。
そこには既に、スティーブンの姿もある。
「村長の依頼だが、俺とスティーブンで受けよう。山賊の砦に行って、サーチアンドデストロイだな」
「サーテライトデスローですか!?」
「ああ、意味が通じないか。見つけ次第、皆殺しにすればいいよな」
「み、皆殺しですか……」
「あれ、そういう依頼じゃなかったか?」
おかしいな?
俺には村長が、山賊を皆殺しにしろって依頼をしてきたと思っていた。
山賊から村を救うって、つまり山賊を皆殺しにしろって意味だよな。
どこかに勘違いがあっただろうか?
俺が疑問に思っていると、村長がスティーブンの方に視線を向けた。
今の俺はただの8歳児なので、大人のスティーブンの方を見るのは、仕方のないことか。
村長の顔には、明らかに戸惑いが見て取れた。
しかし、どうして戸惑ってるんだ?
そんな疑問を解決してくれたのは、スティーブン。
「クレイ様、子供が笑いながら言う言葉じゃないですよ」
「えっ、笑ってた?」
いれない、いけない。
まじめな話をしている場だったのに、上位神に意趣返ししたことに浮かれて、顔が緩んでいたようだ。
気を付けないとな。
上位神に感づかれて、さらに余計なことをされたら面倒だ。
「コホン。俺は真剣に皆殺しと言ったので、正気を疑わないでもらおう」
態度を改めて、村長に言い直した。
「皆殺しですか。奴らにはこの村の娘を連れ去られ、男たちを何人も殺されています。この恨みを晴らせるのであれば、皆殺しにしてください。
どうか、どうかよろしくお願いいたします」
村長さんは、俺の提案に超ノリノリだ。
この世界では、日本のように犯罪者に対する刑罰が温くないので、重罪人の処遇は処刑で決まっている。
盗賊や山賊は、見つけたら殺す。
それが懸賞首なら、生首を町まで持って行けば、金に代わるという仕組みになっている。
この村も、山賊によって略奪と殺人の憂き目に遭っているので、山賊を皆殺しにすることに、一片のためらいもなかった。
というわけで、俺とスティーブンで、依頼を受諾した。
メキメキと実力を付けている子供たちもいるが、人間相手の殺人童貞を捨てさせるには早すぎるので、今回は同行させない。
なので、2人で山賊の砦がある山へ向かう。
近くなので、走ればすぐだ。
黄金竜基準での”走る”でなく、通常の人間であるスティーブン基準での”走る”だ。
道中、スティーブンが俺に話しかけてくる。
「クレイ様、ひとつ頼みがあるのですが」
「何かな?」
「フレンドリファイアだけはしないでください」
「はいっ!?」
スティーブンは、俺が山賊に後れを取らないか、殺されないかと心配する……なんてレべルを一足飛びに超えて、訳の分からないことを言ってきた。
領地では子供の剣術ごっこに、たまにスティーブンも加わっていて、そこで俺の強さも知っている。
俺、領地最強のスティーブン相手に、小指で勝てるから。
むしろ頑張って手加減しないと、スティーブンの体が原形を留めなくなってしまうので、物凄く注意して、スティーブンの相手をしないといけない。
そしてスティーブンは歴戦の戦士であるから、俺の強さがどういうものか、勘違いすることなく理解している。
俺との間に、戦うという次元にすらたどりつけない、絶望的な差が存在していることを。
「なんで、フレンドリファイアなんて単語が出てくるんだ?」
「クレイ様、自分の胸に手を当てて、よーく考えてください」
「……考えなくても、心当たりが多すぎて理解できた」
俺、いろいろやらかしてるもんな。
普通の人間のふりをするのが今の目標だけど、緩い目標なので、いろいろやらかしている。
ある日朝になったら、ロカルド山系の一部が消えていた、なんてことがある。
誰が原因か、スティーブンは分かってるんだな。
どうせならば、新たな魔王が出現して山を消して行った、と勘違いしてくれればいいのに。
ま、この話題はいい。
「安心しろ、俺は手加減できるように頑張っている。ほら、こんな風に」
俺は普通の人間のふりをするための特訓を日々していて、その成果をスティーブンに見せる。
手ごろな場所に山賊がいたので、ここまで背負ってきた大剣で、真っ二つにした。
右から左へ、真一文字に切り捨てる。
俺の中にある元日本人の部分が、『悲報・異世界人生初の殺人。俺氏、こっち方面の童貞捨てる』なんて言ってるが、俺は気にしない。
黄金竜基準だと、人ひとりどころか、数えられないほどの人間に被害を出してるので、今更1人加わったところで驚きがない。
それより、ごく普通の人間レベルの強さで、山賊を斬れた。
「おおー、我ながら見事な出来栄え」
「山賊が持っていた鉄製の盾ごと真っ二つにするとか、普通の人間ができることじゃないですよ」
「……まだまだ修行が必要か」
人間のふりって難しいな。
パワー任せで戦うなら、山賊の砦なんて言わず、山ごと消し飛ばせるが、人間レベルで手加減して戦うのは難しい。
力加減が、あまりにも微妙過ぎるんだよなー。
てなわけで、俺は近くの木の上から、こちらを狙撃しようとしていた山賊の1人に向けて、大剣を振った。
人間のふりをするための修行相手、その2だ。
「ゲエッ!」
だが直後、スティーブンが俺の家臣に似合わない悲鳴を上げて、俺の背中に隠れた。
「あ、やっちまった」
俺には、スティーブンの奇行を責めるなんてできなかった。
何しろ大剣から飛び出した衝撃波が、目の前にある山を、上下に真っ二つに切断したのだ。
それはもう、視界の左から右、全ての範囲を。
さて、ここで当然の物理の話をしよう。
下にある物がなくなると、上にある物は落ちてくる。
山は上下に切れたが、その中間にあった山の一部がなくなったせいで、上の部分が、下に向かって落ちていく。
ただし、山と言っても所詮は土や岩の塊。
なので下に落ちた際、原形を保ったまま落ちてくるわけがなかった。
次の瞬間、山が盛大に崩壊して、土砂崩れを起こした。
それはもう、山の上側が丸々全て崩壊して、これ以上なく派手な土砂崩れを起こす。
こうなれば、目指す山賊砦なんて、もはや原形留めずに崩壊だ。
山賊たちは土砂の生き埋めになって、全員お陀仏だな。
俺は崩壊して崩れる土砂を眺めながら、スティーブンを担ぎ上げて、この場からさっさと逃げ出した。
スティーブンを担いでいても、逃げ足は土砂の速度より早く出せるので、無事に逃げ切ることができた。
俺もスティーブンも、怪我一つなく無事だ。
その後、依頼を受けた村長の家に戻った。
村長には、
「俺たちが山に向かおうとしたら、偶然土砂崩れが起きたので、山賊は全滅しただろう。
自然の力って怖いなー」
と、説明しておいた。
“俺たち”が何もしなくても、村を困らせていた悪が滅びたのだ。
村長も、文句は言うまい。
「ヌアアアーッ、あの山からとれる木材は、我が村の燃料になっていたのに。それがなくなってしまったー!」
文句どころか、いい年したじいさんが恥も外聞もなく、泣き喚きだしてしまった。
……りゅ、竜神様の思し召しなので、シカタナイヨー。
これも天意とか、自然災害だと思って、諦めてくれ!
「お、俺はただの人間だから、何もしてないからな!」
村長は俺のことを気にしている余裕がなかったが、スティーブンにはロリと睨まれてしまった。
「……」
「……」
よし、無言で睨み返したら、スティーブンは何も言わなかった。
そうだ、お前も俺がやらかしたことを忘れてしまえ。
俺もスティーブンも、2人とも何もしてない。
それでいいじゃないか。




