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16 歴史と伝統のあるアルセルク家

 俺がこの世界に転生して8年目。

 8歳になって少しした、ある日のことだ。



「兄様ぁ」


 朝ベッドで起きると、隣では妹のリーリャが寝言を口にして、眠りの中にあった。



 両親の死後、リーリャは俺のベッドに毎夜毎夜潜り込んできて、2人で一緒に眠るようになった。


 別に変なことをしているわけではない。


 2つの前世持ちの俺と違って、リーリャはただの6歳児。

 そんな小さな子供にとって、親の温もりは未だに欠かせない。


 2人の親がいなくなってしまった今、残った肉親は兄である俺だけだ。


 まだまだ甘えたがりで、寂しさを埋めることができないリーリャは、以前にもまして俺に懐くようになった。



 ベッドの中で、寝顔のあどけない寝顔を見ていると、なんだか力をもらえる気がした。





△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇





 ところで、アルセルク騎士爵領の当主である父上が戦死してしまったことで、現在領地は領主不在の状態になっている。


 息子である俺が、領主代理という形になっている。

 ただし正式に爵位を継いで領主となるためには、王都まで行って、国王から直々に爵位の叙勲を受ける必要があった。


「……ですので、クレイ様には国王陛下に拝謁を賜り、直々にアルセルク騎士爵としての叙勲を受けていただかねばなりません」



 そう説明してくるのは、俺の家で働く使用人のじいさん。

 使用人と言うが、この領地では領主である父上ですら、畑仕事をして生計を立てていたくらいド貧乏だ。


 そんな家で、まともに人を雇うなんて不可能。

 領内で年を取りすぎて畑仕事をできなくなった老人たちが、使用人の真似事をして働いているというのが実態だ。




 しかし、俺としては考えてしまう。


「叙勲ねえー」


 我がアルセルク騎士爵領は、秘境にあるド田舎村。

 他領に行くためには、モンスターはびこるロカルト山系を超えなければならず、事実上人間の文明世界から切り離された場所にある。


 たまに来る行商人や、こんなところに何をしに来たんだと思える冒険者が、極稀に来ることがあるが、基本的に人の往来が存在しない場所だ。


 こんな村の領主になってしまえば、これからの人生真っ暗だ。



『こんなド辺境は、人間の生きてく場所じゃねえ!』


 そう叫んで、ド田舎村から、さっさとおさらばしたい。


 ……と、転生当初は思っていたが、なんだかんだ8年もこの領地にいたら、それなりに愛着ができてしまった。



 とはいえ、これから先の人生が、こんなド田舎で埋もれてしまうのもなー。



「どうしても、爵位を継がないとダメか?」


「クレイ様は、我がアルセルク騎士爵家の正当な後継者です。

 爵位を継いでいただかなければ、領主不在となってしまい、我々領民も困ります」


「でもなー」


 じいさんの言うことはもっともだが、それでも俺は迷ってしまう。

 ド田舎村で一生を終えるのは、流石につらいぞ。



「それに没落してしまったとはいえ、アルセルク家は歴史と伝統のある家柄。

 その血筋は、遡れば王家にまで繋がり……」


「……」



 迷っている間に、ジイさんが熱烈な口調で、アルセルク家の歴史を語り始めてしまった。


 頭が痛い。


 俺が5歳の時に死んだ、婆さんのことを思い出してしまう。



 父上の母上。つまり俺の祖母だが、あの人は物凄く気位が高くて、こんな貧乏領地にいていい人間ではなかった。


 生前は、家で働く高齢の使用人たちに、ひどく当たった。

 領主であっても、貧しい生活をしているのに、婆さんは畑仕事も針仕事もしやしない。


『そんなものは、平民のやることで、貴族の私がするべきことではない。


 私は高貴な家柄であり、建国以来の伯爵家の出である。


 アルセルク家に嫁いできたのは政略結婚のためだが、よりにもよって私が嫁いできた途端に没落するとは、どういうことなのか?』


 などなど。



 あと、3歳までは病弱で育った俺のことを、悪魔付きだの、呪われた子だのと、散々な呼び方をしてくれたな。


 リーリャが物心つく頃には死んでくれたので、リーリャが、婆さんのことをほとんど覚えてないのが幸いだ。



 そんな死んだ祖母曰く、アルセルク家は俺の3代前までは、侯爵家だったそうだ。


 ビックリだ、侯爵と言えばこの国の貴族の中では、上から数えた方が早い。


 この国の貴族制度は、大公爵、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士爵の順番になっていて、侯爵家は上から3番目の高さだ。



 だけど、当時の当主が戦争で派手に負けたせいで国王から睨まれ、騎士爵家にまで没落してしまった。


 騎士爵家と言えば、貴族の最下層。

 上位の貴族たちの間では、半平民などと揶揄され、正式な貴族扱いをされない。



「本当は戦争のせいでなく、女のせいよ。

 学園時代に、あの女さえなければ、アルセルク家は未だに侯爵家で、私もこんな辺鄙な場所に来る必要などなかったのに!

 キー、悔しい!」


 婆さんはそんなことを叫びまくって、日々ヒステリーを起こしていた。



 本当にイヤな、ババアだな。



 ちなみに婆さんの言っていたあの女だが。


 デナント王国には、貴族であれば誰もが入学しなければならない学園があり、そこで当時の王太子を始めとして、高位貴族の跡取りたちを手玉に取って、逆ハーしている女がいた。


 特に王太子を含めた、高位の貴族家の跡取り5人が、逆ハーメンバーの中核を占めていた。


 まるで乙女ゲーのベストエンド一直線の、やり手の女だ。


 その逆ハーレムメンバーの中に、俺のご先祖様もいたわけだ。



 ついでながらこの世界、冗談抜きで乙女ゲーの要素が存在している。


 この世界は、上位神のおもちゃ箱なので、異世界転生させた日本人を乙女ゲー学園に放り込んで、暇つぶしのネタにしている。

 奴は遥かなるボッチ神空間から、テレビを見る感覚で、地上の様子をゲラゲラ笑いながら見ている。


 乙女ゲー以外にも、定番RPGで勇者と魔王の戦いなんかもあるな。


 そのせいで世界中でぽこじゃかと、魔王が生まれ、世界破滅、支配を企む輩が生まれてくる。



 俺の半身は、上位神のペットである黄金竜なので、世界の裏事情を知っていた。

 ただ、黄金竜にとってはどうでもいいことなので、「あっ、そう」の一言でお終いだけど。




 さて、話を戻そう。


 当時の出来事は乙女ゲー的にはベストエンドでも、現実的には1人の女を巡って、男どもは超ドロドロの関係。


 ゲーム仕様の学園時代が終わり、王太子がその後国王に即位すると、当時の逆ハーメンバーだった男どもに次々に無理難題を吹っかけ、任務に失敗した男たちを家ごと叩き潰し、失脚させていった。


 ただの嫉妬だな。


 幸いと言うべきかは微妙だが、我がアルセルク家は取り潰しという最悪の事態を免れることはできたものの、貴族最下層の騎士爵家にまで降爵された上、発展の見込みのない秘境を領地にされた。


 完全に嫌がらせだな。


 ほんと、ろくでもない。

 上位神と国王が、クズ過ぎる。

 どっちも禿ちまえ。


 いや、当時の国王の方はとっくに棺桶に入ってるので、禿げるを通り越して、頭ツルツルの骸骨になってるか。




「ああ、なんとおいたわしいことか。

 クレイ様のお婆様は、本来であれば栄光ある侯爵家の奥方様であられたはずなのに……」


 さて、過去のことは過去の事。


 現在に意識を戻してみれば、俺の目の前で使用人のジイさんか、大げさな手ぶり身振りで、嘆き悲しんでいる。


 ただし、当人は嘆き悲しんでいると思ってるのだろうが、俺から見ればただの自己陶酔。

 演技にしか見えない。



「ジイさん、あんた俺の家に仕えるより、今からでも俳優になった方がいいぞ?」

「クレイ様!」


 この爺さん、絶対適正な職業を間違えている。

 そう注意したのに、怒鳴られてしまった。


 まったく、これだから年寄りは困るな。





 ところで、この爺さんを含めて、アルセルク領の領民の多くは、侯爵家時代に仕えてくれていた家臣を先祖に持っている。

 当主の左遷に従って、当時の家臣たちも、辺境の領地までわざわざ着いてきてくれたのだ。


 まあ、今となってはただの昔話なので、子供には全く関係ない話だ。

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