9 不老不死の薬
「ただいま帰りました、父上、母上」
「クレイ、その恰好はどうしたんだ!」
「一体どこに行ってたの。丸1日いなかったじゃない!」
不老不死の薬を作って家に戻ってきた俺は、玄関前で父上と母上に遭遇した。
大気圏離脱と再突入をして、その後星の上を走り回ったせいで、服はボロボロになっている。
正確には、大気圏突入をした際、摩擦熱で服が燃え尽きてしまった。
未来からやってきた筋肉モリモリマッチョマンな殺人マシーンも、タイムスリップ直後は全裸状態だったが、宇宙から地上に帰ってきた時の俺も、全く同じ姿になっていた。
しかも、今の俺はドラゴンでなく人間。
全裸でいることに羞恥を感じるので、走っている途中で見つけた廃村から拝借した、ぼろきれのような服を着ていた。
そんな息子の姿に、両親はかなり動揺している。
「私たちが、どれだけ心配していたと思うんだ!」
父上からはパシンと、平手打ちを食らってしまった。
「申し訳ありません。魔の森の近くに行ったら、オーガに襲われたので、逃げてたら1日かかってしまいました」
「なに、オーガだと!」
とりあえず、口から適当な出まかせを言っておく。
「ちょっと大気圏離脱して宇宙空間に行って、そのあと世界中を走り回ってました」
なんて事実を言っても、信じてもらえないからな。
「ねえ、クレイ。私の記憶違いかもしれないけれど、あなたこの前オーガを拳一発で沈めて……」
「俺は6歳ですよ。オーガに襲われて怖かったー」
母上は勘がいいな。
どうして俺がオーガを沈めたところを見てるんだ。
だが、それを誤魔化すために、わざと泣きしながら、母上の胸元に飛び込んだ。
「母上―っ」
ボイン。
母上、結構胸がでかいな。
こんな感じで、俺は両親に、1日不在だった理由を誤魔化して説明しておいた。
この後父上から、こっぴどく叱られてしまったが、それも愛情のゆえだろう。
昭和の頑固オヤジみたいに、ガンガン頭をぶん殴られたが、俺は無傷だ。
大気圏突入しても無傷なので、人間の拳程度で怪我をするはずがない。
「ゆ、指の骨にヒビが……」
俺よりも、全力で殴りまくっていた父上の方が、先にギブアップしてしまった。
「父上、お体を大切にしてください」
「……お前のせいだろう」
呆れた目で父上から睨まれてしまった。
俺は視線をスッと逸らして、父上の顔を見ないようにした。
まあ、そんなことがありながらも、俺はようやく不老不死の薬をもって、妹のいる部屋に戻ってこれた。
父上と母上がいないことを確認した上で、妹に話しかける。
「リーリャ、お兄ちゃんだぞ」
「ヒュ、ヒュー、お、お兄ちゃん……」
疫病のせいで体の弱っているリーリャは、1日経ってさらに憔悴した姿になっていた。
呼吸をするのも辛そうで、痛々しい妹の姿に、俺は絶句してしまう。
だが、このまま無駄に時間を使って、妹が苦しむ時間を長引かせる必要はない。
「とっておきの薬を作ってきたから、これを飲め。そうすれば、病気なんて一発で治るぞ」
「うん、お兄ちゃん」
病気が治るどころか、普通に死ぬことさえなくなる不老不死の薬だ。
ただの疫病ごとき、一発で撃退できる。
俺はリーリャの乾燥した唇を湿らせる程度の量を、ゆっくりとリーリャの唇に垂らした。
直後、劇的な効果が発揮される。
「ホンゲギャラギャラバー、アババーッ」
幼女が上げては絶対にいけない絶叫を上げながら、妹がベッドの上を転がりまわり、床に転がり落ちてしまう。
「ホンガー、フンゲー」
さらに自分の胸をかきむしり、髪を振り乱して錯乱する。
「か、神様が……竜神様が私の中に入ってくるー!
私とお兄ちゃんは、一心同体ー!」
訳の分からない叫び声をあげ、さらに幼女が上げてはダメな、雄叫びを上げまくった。
声が物凄い低温になっていて、野太いおっさんのような雄叫びだ。
「……」
自分で作った不老不死の薬だけど、これって大丈夫なのか?
薬の効果の事ではない。
俺の可愛い妹が、中年おっさんのもだえ苦しむ雄叫びを、上げ続けてるんだけど。
全然可愛くない。
てか、女の子が出しちゃダメな声だ。
「イヤー、リーリャ死なないで。お願いだから生き返ってー」
「リーリャ、父より先に先立つなど許さんぞ!」
リーリャがおっさん声をあげて苦しむものだから、父上と母上が、慌てて部屋の中に突入してきた。
そんな父上と母上、俺の目の前で、リーリャは口から泡を噴き出し、白目を剥いて、今にも死んでしまいそうになった。
「ありゃっ?薬の作り方は間違ってないが、俺の血の希釈が薄すぎたか?」
俺の血一滴に対して、希釈に使ったエリクサーは100万人の人間を、完全回復させられる量を使った。
100万人の死人でも、生き返らせられる量だぞ。
それだけ薄めたはずなのに、リーリャがまずい状況になっていた。
「リ、リーリャ死ぬな、死ぬんじゃない。お兄ちゃんを残して逝くんじゃない!」
あまりにもヤバいリーリャの姿に、俺も妹の死を覚悟してしまった。
ただ結果論になるが、翌日にはリーリャは復活して、元気に家の庭を走り回っていた。
「私はお兄ちゃんと一つになったの。フ、フフフッ」
薬の変な副作用が出たせいか、その日からリーリャが俺を見る目がトロンとし、やけに熱い吐息を出すようになってしまった。
だが、死ななかったので、良しとしよう。
「ついでに疫病に罹ってる領地の子供たちにも、不老不死の薬を飲ませておくか」
まだ不老不死の薬が残っているので、このまま捨てるのももったいない。
そう思って、俺は領地で苦しんでいる子供たちのためにも、不老不死の薬を使ってあげた。
「うんうん、人助けをすると気分がいいな」
俺としては、善行を積めて満足だ。
「ホンゲェー」
「ブラファー」
「オベラッペー」
その日1日、薬の副作用で、村中の子供がおっさん化した奇声を上げ続けた。
中にはベットから跳ね起きて、5、6メートルの高さをジャンプし、1日中飛び回った子供も出た。
「必殺ドラゴンパーンチ」
ごく一部は、たまたま領地に侵入してきたモンスターに飛びかかり、拳一つでオークの顔面を殴り倒す子供もでた。
でも、翌日には全員奇声を上げることがなくなり、元気に回復した。
「よかった、よかった。みんなが無事健康になって、俺は嬉しいよ」
こうして、俺のヒール事件から端を発する疫病事件は、無事に解決した。
少なくとも、俺の中では問題なく解決できたぞ。




