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19 デレとデレー4

「おはよ、昨日はどうだった?」


「……誰も来なかった」


「だよね」


 翌日の教室、朝一で颯太に声をかける。彼の額には今日も肉と書かれていた。


「だからイタズラだって忠告したじゃないか。言わんこっちゃない」


「くっそぉ、誰だよ。こんなふざけた真似しやがって」


「だ、誰だろうね…」


 犯人を知っているが教えられない。バラしたりすれば強烈なお仕置きが待っているから。




「あぁーーっ!」


「ど、どうしたのさ」


「また手紙が入ってる」


「嘘!?」


 しかし放課後に再び同じ事件が発生する。彼の下駄箱の中を見ると見覚えのある便箋が放り込まれていた。


『昨日は行けなくてごめんなさい。急に怖じ気づいてしまいました。でも今日こそは必ず行きます。良ければ来てくださいませんか?』


 2人して中身に注目する。書かれていた謝罪文と二度目の要求に。


「ど、どうするのコレ」


「行くに決まってんだろ! やっぱりイタズラじゃなかったんだ、この手紙は」


「いや、どうかな…」


 真相を告げたいが出来ない。恐怖心が邪魔をしてきて。そして葛藤している間に彼は廊下の奥へと消えてしまった。


「ほんっと単純な奴よね。扱いやすくて助かるわ」


「また華恋の仕業か……やめようよ、ああいう事」


 入れ違いに1人の女子生徒が近付いてくる。手紙を書いた犯人が。


「今日はバイトあるんだっけ?」


「そ、だからデートは無しね」


「はいはい」


「残念? 悲しい?」


「凄く嬉しいって言ったらどうする?」


「……泣く。大声で泣く」


「やめて…」


「そして流した涙の数だけ雅人の顔を殴る」


「なんでさ!」


 並んで歩くと真っ直ぐ駅に移動。そのまま電車に乗り地元まで帰って来た。


「じゃあ今日はここでお別れかな」


「ねぇ、終わったら迎えに来てくれる?」


「……まぁ良いけど」


「やった。なら8時にお店まで来て」


「はいはい、んじゃ頑張って」


 華恋が手を振りながら去っていく。その姿を見守りながら退散。


 自宅に帰ってきた後は母親の命令でスーパーに買い出しに行く事に。そして夜になったのを確認して再び駅前に戻った。


「ダ~イブ」


「うおっ!?」


「疲れた、疲れたぁ」


「お疲れ様」


「ヨシヨシしてぇ」


「はいよ」


 目が合った瞬間に華恋が飛びついてくる。無邪気な子供のように。


「じゃあ帰ろっか」


「うんっ!」


 頭を撫でた後は店を退散。日が沈んで暗くなってしまった住宅街を並んで歩き始めた。


「家で何やってたの?」


「宿題済ませてた。その後はずっとゲーム」


「あぁ、1人だけズルい。後で写させて」


「見せてあげたいとこだけど合ってる自信がないからダメ。それに同じ所を間違えてたらさすがにマズいでしょ」


「ブ~ブ~」


 彼女が腕を掴んで振り回してくる。文句を垂らしながら。


「ねぇねぇ、私がいなくて淋しくなかった?」


「それ夕方も聞いたじゃん。何回同じ質問してくるのさ」


「む~、良いじゃん別に」


 口を尖らせながらも口調は明るめだった。この状況を楽しんでいるのだろう。だがそんな彼女とは反対に自分はある不安に襲われていた。


「このまま帰らずに2人でどっか行っちゃおうか?」


「それはヤバいでしょ…」


「だよね、アハハ~」


「……ん」


 さすがにこのままというのはマズい。お互いの為にも。


 三度目の帰宅後は皆で遅めの夕食をとる事に。そして風呂上がりに華恋の部屋を訪れた。


「あれ? 何してるの?」


「ラブレター書いてんの」


「誰宛て? 僕?」


「私達の帰りを邪魔しようとする愚かな男によ、クフフ」


「おいおい…」


 机に向かって猛烈な勢いでペンを走らせている部屋主を発見。その背中からは不気味なオーラが放たれていた。


「よし、出来た。忘れないように鞄の中に入れておかないと」


「あの、話あるんだけど良い?」


「え? 何?」


 問い掛けに対して明るい表情が返ってくる。大事な相談をする事が躊躇われてしまうような笑顔が。


「もう一緒に帰ったりするのやめない?」


「はぁ? いきなりどうしたの!」


「コソコソしてるのが嫌なんだよ。クラスメートに見つからないようにしたり、家族に隠れて会ったり」


「だって仕方ないじゃない。バレたら困るんだもん」


「なんか悪い事してる気分になってきちゃってさ。親の財布からお金盗んでるみたいな」


「アンタ、まさか…」


 用件を告げた直後に彼女の様相が変化。疑いの眼差しで睨んできた。


「いや、実際にそういう経験は無いよ? ただそんな感じの罪悪感があるっていうか」


「別に何も悪い事してないんだから恥ずかしがる必要なんてないわよ。堂々としてなさい」


「じゃあ、その手紙なんなのさ!」


「……えへへ」


 大いなる矛盾に思わずツッこむ。床に手を突くと腰を下ろして正座した。


「一応、華恋は知り合いからの預かり物なわけじゃん? その預かり物に手を出してしまうのはどうかなぁと思って」


「私は物じゃなくて人間よ」


「それは知ってる。でも僕の言いたい事も分かるでしょ?」


「まぁね…」


 彼女が交わっていた視線を逸らす。指摘を受け流すように。


「もしこうやって恋人みたいな真似事してるってバレちゃったら父さんや母さんに申し訳ないんだよ。もちろん華恋のお母さんにも」


「ん…」


「今ならまだ誰にも感付かれてない。だから…」


「アンタ、私のこと嫌いなの?」


「え? そんな事はないけど」


「ならそういうのやめてよ。お母さんの話は関係ないじゃない」


「関係ないって事は…」


 もちろん目の前にいる人物に好意は抱いていた。けれど欲望に素直になる事は出来ない。それ相応のリスクを背負わなくてはならなくなるから。


「じゃあ何、家族に嫌われたくないから私とそういう関係になれないって言うの?」


「そういう訳じゃないよ。ただお互いの為を思って…」


「嘘よっ! 体裁良いこと言ってるけど結局は自分の身を守りたいだけじゃない」


「違うってば。主張が強引すぎ」


 ついカッとなり大きな声を出してしまう。お互いに冷静さを欠いた状態になっていた。


「周りがどうとか関係ないじゃない。私はアンタが好きだから一緒にいたいだけ。それじゃあダメなの?」


「ダメとかそういう事ではないんだよ。同じ家に住んでる家族なんだからさ」


「だったら私この家出てく。それなら構わないでしょ」


「へ?」


 説得していると彼女がとんでもない台詞を口にしてくる。ヤケクソとしか思えない強気発言を。


「同じ家に住んでるのがマズいんってんなら出てってやるわよ」


「出てくってどこに行くつもりなのさ。他に行くアテなんかあるの?」


「……ないけど」


「公園でホームレス生活でもする気? 女の子がそんなの危ないじゃないか」


「ならどうすれば良いわけ? おじさん達に雅人が好きですって打ち明ければ良いの?」


「えぇ! そ、それはやめようよ。恥ずかしい」


 そんな事になったら家中がパニックに。下手したら怒られるだけでは済まなくなるかもしれない。


「じゃあ、どうしようもないじゃない。付き合うのもダメ、家族に打ち明けるのもダメ。否定ばっかり」


「だから一緒に帰ったりするのをやめようよって言ってるんじゃないか。別におかしい事は言ってないよね?」


「嫌だっ! 私は嫌だからね、絶対」


「頑固だなぁ…」


 普段の態度が優しくなっても芯は折れない。感情を優先させて妥協する事が出来ない性格は未だ健在だった。


「私はおじさん達にバレても構わない。クラスの皆にだって」


「な、何をさ?」


「雅人の事を好きだって気持ち」


「ダメだって、それはダメ。いろいろ困る」


「何が困るのよ。ただ恥ずかしいだけでしょうが」


「それは…」


「このままだとアンタは私と一緒にいてくれないんでしょ? だったらバラしてでも良いからアンタと……雅人と一緒にいたい」


「……華恋」


 何も言えない。反論する事が出来ない。彼女の意見は少しも間違えていなかった。ただ真っ直ぐに相手の事を想っているだけ。


 そして気付かされると同時に驚いた。まさかそれほどまでに強い好意を抱いてくれていたなんて。


「それでもダメって言うの? アンタは」


「しばらく1人で考えさせて…」


「……分かった」


 部屋を出て廊下に移動する。リビングの様子を窺うと香織がテレビを見ていた。どうやら先程のやり取りは聞かれてはいなかったらしい。聞こえていないフリをしてくれている可能性もあるが。


「ふぅ…」


 部屋に戻って来た後はベッドに横になる。模様の無い真っ白な天井を見つめた。


「……ん」


 彼女とは互いに気持ちを打ち明けあって両思いだと判明。普通だったらそのまま付き合う流れだった。


 だが自分達はその辺にいる男女とは違う。他人でありながら同じ家に住んでいる。そして本当の家族と呼べるぐらいに親しくなった。つまり交際するという事はその関係性を変えてしまうという事。


「やっぱりちゃんと話すべきなのかな…」


 とりあえず身近な人物に相談してみる事に。スマホを手に取りメッセージを送った。

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