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18 先攻と後攻ー5

「もう泣きやんだ?」


「……ごめん」


 宥めるように背中をさする。覇気の無い丸まった体を。


「急に取り乱すからビックリしたよ。さっきも泣かせちゃったばかりなのに」


「だって雅人がいきなり変なこと言い出すから…」


「変って言わなくても。せっかく頑張って打ち明けたのに」


「そうね……うん。アンタ、頑張った」


「どうして上から目線なのさ」


「悪いか?」


「悪かない。そういう所も含めて好きになったんだから」


 2人並んでベンチに着席。険悪な雰囲気はどこかへと消え去っていた。


「ハ、ハッキリ言わないでよ。恥ずかしくなるじゃん」


「自分から先に始めたクセに」


「まぁ……でもまさか好かれてるとは思わなくてビックリ」


「そう?」


「うん。あんまり女の子として見られてる自覚なかったし…」


「実は昨日まで男だと思ってたんだよ」


 場を和ませようと冗談を投下する。その直後に彼女の手がこちらの顔に伸びてきた。


「イテテテテッ!?」


「あの……さ、いつから好きだったの? 私の事」


「へ?」


「だから、いつからそういう気持ちでいてくれたのかって聞いてるのっ!」


「いつから…」


 つねられた頬を押さえながら記憶の糸を手繰り寄せてみた。隣にいる人物と知り合ってから今日までに起きた出来事を。


「わかんないや」


「なんでよ? 自分の事でしょ。分からないハズないじゃない」


「そんな事言われてもなぁ。気付いたら好きだったんだからさ」


「はあぁ…」


 深い溜め息が聞こえてくる。落胆の意思を露骨に表した台詞が。


「う~ん、強いていうなら初めて会った時かな」


「……うっそ」


「最初に華恋を見た時に、よく分からないけど不思議な気持ちになったんだ」


「うん…」


「それが一目惚れかどうかは分からない。ただ近寄りがたい印象はあったかな」


 今思い返せば運命の出逢いだったのかもしれない。学校帰りの電車の中での遭遇は。


「でも本性知ってからガッカリした。うわっ、何だコイツって」


「おい」


「だってあからさまに態度変えるんだもん。他の人には優しく接してるのにさ」


「しょ、しょうがないじゃん。皆には嫌われたくなかったんだし」


「ちょ……それだと僕には嫌われても大丈夫みたいな言い方じゃないか」


「あはは…」


 ごまかすような薄ら笑いを向けられた。左右に揺れ動いている瞳と共に。


「くそっ、じゃあこっちも華恋の事嫌いになってやろうかな」


「……やだ」


「ちょっ…」


 不満をブチまけていると彼女が腕にもたれかかってくる。頭を肩に添えながら。


「アンタに避けられたら私もう生きていけない」


「それはいくらなんでも言い過ぎじゃ…」


「ううん、そんな事ないよ。もし突き放されたら死んじゃうかも」


「なんかウサギみたいだね。淋しくて死んじゃう感じ」


「ウサギじゃないって。今はアンタの……彼女かな」


「え?」


 そしてそのまま小さな呟きを発声。それは思わず立ち上がらずにはいられない強烈なメッセージだった。


「か、彼女ってどういう事!?」


「どういう事ってそのまんまの意味じゃない。アンタの彼女」


「だからどうしてそうなるのさ。僕は気持ちを告げただけだし」


「はぁ!?」


 遅れて相方も立ち上がる。2人して正面から向かい合った。


「ちょっと待ってよ! さっき私のこと好きって言ってくれたじゃない」


「言ったよ? でも付き合うとは一言も言ってないじゃないか」


「け、けど…」


「なに1人で勝手に勘違いしてるのさ。早とちりしすぎ」


 告白は決行。気持ちを素直に打ち明けた。しかし自分が行ったのはそこまで。


「ふざけんなっ! どうして好きなのに付き合う事にならないのよ」


「だってそういうの面倒くさそうなんだもん」


「めんどっ…」


「好きイコール恋人って事にはならないでしょ? ただお互いの気持ちに正直になっただけじゃないか」


「……くっ」


 彼女に好意を持たれていた事はもちろん嬉しい。思わぬ幸運。だからといってそういう関係になりたいとはこれっぽっちも考えていなかった。


「ムキーーッ!!」


 甲高い声が響き渡る。野生動物の雄叫びのような台詞が。


「なんでよ! 両想いなんだから付き合っても良いじゃない」


「嫌です。お断りします」


「うぅ…」


「お互いに好きってだけで僕は良いと思う。それじゃあ不満?」


「不満、超不満」


「ハッキリ言い切ったね…」


「じゃあ聞くけど、もし私がアンタ以外の誰かを好きになって付き合う事になったらどう思う?」


「う~ん…」


 忠告のような言葉にあるイメージを作成。颯太と華恋が手を繋いで歩いている光景を想像してみた。


「……あぁ、なんか嫌だ」


「でしょ? だったら私と付き合いなさいよ」


「付き合いなさいよって、それ告白じゃなくて脅迫じゃないの?」


「うっさい。アンタが駄々こねるのが悪い」


「これは駄々こねてるって言うのかな…」


 どちらが子供なのかが分からない。互いに利己的な主張を連発。


「ハッキリしない奴ねぇ。大人しくハイって言えば良いのよ」


「ハイ」


「え? じゃ、じゃあOKなの? 付き合ってくれるの?」


「それは嫌だ」


「……おい」


 質問に対し即座に反応する。無機質な視線を向けられてしまった。


「あっ、そういえばメール見てくれた?」


「メール?」


「ここに来る前に送ったんだけど…」


 空気を変えるように別の話題を持ち出す。自宅にいる時に送信したメッセージの存在を。


 この様子から察するにまだ確認していないのだろう。彼女がポケットからケータイを取り出した。


「ひっ!」


「あ~あ、見ちゃったか」


「な、なにコレ…」


「何でしょうね。ははは」


 画面を見ながら驚きの声をあげる。歪んだ表情も付け加えて。


「どんだけバカ丸出しの文章なのよ」


「そこまで言わなくても。華恋の事が心配で家に戻って来てもらえるよう一生懸命考えたのに」


「だからってコレは恥ずかしすぎ。私が前に貰ったラブレターのが100倍マシよ」


「そ、そんなに変だったかな…」


「昭和からタイムスリップでもしてきたのかってぐらいのセンス」


 一時の気の迷いというのは本当に恐ろしい。思ってもみなかった事を言葉に表してしまったりするから。


「とりあえずコレは無かったという事で」


「よし、消さないように保存しといてやる」


「や、やめてぇーーっ!」


「うふふ、コレでアンタの弱味がまた1つ増えたわ」


「あぁ……やっぱりそんなメール送るんじゃなかった」


 肩をガックリと落としながら落胆。すぐ横で不敵な笑みを浮かべている華恋を横目に。


 その後は自転車を押して仲良く帰宅。今朝の険悪な雰囲気が嘘のように2人で笑いあった。

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