表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/354

18 先攻と後攻ー4

「……えぇ」


 目的の公園へとやって来ると自転車を停める。そこで捜していたターゲットの姿を発見。候補には入れてみたものの、まさか本当にいるなんて。目を疑わずにはいられなかった。


「まぁ、いいか…」


 経過はともかく早期に発見出来たのは嬉しい誤算。サドルから下りると彼女が座っているベンチへと歩み寄った。


「わぁっ!」


「ひゃあっ!?」


 気配を消して背後に回り込む。肩を押すのと同時に大きな声を出した。


「こんな場所で食べなくても良いのに。外回り中のサラリーマンですか」


「ア、アンタか…」


 振り返った彼女と目が合う。その隣には食べかけのサンドイッチが存在。


「何しに来たのよ。嫌がらせ?」


「ち、違うって。話をしに来たの」


「話?」


「ほら、昨日は逃げ出しちゃったじゃん? だから今日はちゃんと最後まで聞こうと思って」


「……別に良いわよ。無理して聞いてくれなくても」


「だからそういうつもりじゃないんだってば」


「私は……もうアンタにする話はない」


 空気が悪い。対話相手は不機嫌な様子でベンチに置かれていたコンビニ袋に手を伸ばした。


「ま、待って! なら今度は僕の話を聞いてくれないかな」


「……アンタの話?」


「そう。僕も華恋に言いたい事があるから」


「えぇ…」


「逃げ出さずに聞いてくれる? 途中でどこかに行ったりしないで」


 立ち去ろうとしたので咄嗟に掴む。華奢で弱々しく感じる腕を。


「……何よ、私に話って」


「えっと……どうやって言えば良いのかな」


「ちょっと、ここに来る前に考えてこなかったの?」


「わ、悪い。何も考えずに家を飛び出してきちゃったから」


「はぁ…」


 引き留めには成功したが上手く言葉が出てこない。幸先の悪いスタートだった。


「とりあえず昨日は逃げ出したりして悪かったよ。ごめん」


「……ん」


「話の内容がどうあれ、あの行動は僕が悪いと思う。せめてちゃんと最後まで聞いてから立ち去るべきだった」


「はいはい…」


「それと、さっきも泣かせたりしちゃってごめん。本当は責めるつもりなんか無かったのに…」


「アレは……私が勝手に泣いただけだから別にアンタ悪くないし」


「いや、元を辿っていけば自分に原因があるわけだから。やっぱり謝らないと」


 少し照れくさかったが頭を下げた。謝罪の言葉と共に。


「私も……逃げ出したりしてゴメン」


「ど、ども」


 続けて彼女からも同様の反応が返ってくる。今日、初めてまともに会話をした瞬間だった。


「あのさ、昨日言ってくれたでしょ? 僕の事が、その……好きって」


「……うん」


「正直、華恋に対してあんまり良い印象は持ってなかったんだよ。最初のうちは」


「くっ…」


「すぐ暴力振るってくるし、脅してくるし、人使い荒いし。同じ家に住んでなかったら怒鳴り散らしてたと思う」


「……ごめんなさい」


「でも結構良い所もあるし、いろいろ助けてくれたりするからさ。今はもう嫌いなんて考えてないよ」


「それは前にも聞いた…」


「うん。だから今日はちゃんと答えようと思うんだ。昨日の質問に」


 少し離れた場所では子供達が遊んでいる。持ち寄ったゲーム機で。


「聞いてくれる? 僕の返事」


「私は……聞きたくない」


「え? 何でさ」


 緊張感と葛藤していると予期せぬ答えが返ってきた。拒否を示した台詞が。


「だって…」


「そっちから聞いてきといてそれはないでしょ。せっかく覚悟を決めて来たのに」


「もういいよ。アンタの気持ちは分かったから…」


「へ?」


「本当は聞かなくても分かってたから。ただ、もしかしたらって思って言ってみただけで…」


 彼女の喋る声がかすれてきている。テンションの降下具合を表すように。


「だからもう良いんだってば。変なこと言い出してゴメン…」


「なんで…」


「昨日の事は忘れて。頭がどうかしてたみたい」


「ち、違うって」


「私の事が嫌いじゃないって言ってくれただけで嬉しいからさ…」


「違うっ!!」


 思わず声を張り上げた。嫌な流れを断ち切ろうと。


「1人で話を進めないで。僕は自分の気持ちを伝えに来たんだよ」


「だ、だからそれは…」


「僕も好きだよ。華恋の事が」


「……え?」


「それを言いに来たんだってば。勝手に終わらせようとしないで」


 心臓が普段の何倍もの速さで鼓動している。意識出来てしまう時点で異常だと理解出来た。


「……今、なんて言ったの?」


「え、え~と…」


「冗談? 嘘?」


「そうじゃないってば。どっちも違うよ」


「じゃあ…」


「疑うのやめてくれ。今の言葉は本当なんだってば」


 彼女が何度も質問を飛ばしてくる。間違い探しでもするかのように。


「……絶対?」


「絶対に」


「からかったりしてない?」


「してないよ。今この状況でそんな事したらシャレにならないじゃん」


「確かに…」


 ギスギスした空気がキツい。前日同様に逃げ出したい衝動に駆られた。


「……うっ」


「げっ」


「うぁ、あぁあっ…」


「ど、どうして泣くのさ。こんな場所で」


「だって、だって…」


 歪な声が場に響き渡る。苦しそうな嗚咽が。


「見るな、見るな…」


 更にすぐ近くにいた子供達もこちらに注目。威圧をかけたがまるで効果を表さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング 面白いと思ったらクリックしてもらえると喜びます(´ω`)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ