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18 先攻と後攻ー3

「……あれ?」


 しかし帰って来た自宅である異変に気付く。一足先に帰路に就いたハズの華恋の靴がどこにも見あたらない点に。


 廊下を歩きリビングへと移動。そこにはソファに寝転がってスナック菓子を食べている妹がいた。


「1人?」


「そだよ。出掛けてたんだ。どこに行ってたの?」


「コンビニ。結局なんにも買わずに帰って来ちゃったけど」


「立ち読み? ならついでにお菓子でも買って来てくれたら良かったのに、ボリボリ」


「君が今食べているそれは何だい?」


 どうやら帰って来ていないらしい。その事実に一安心。


「よっと」


 部屋に戻って来るとベッドに寝転がる。仰向けの体勢で。ポケットからスマホを取り出し素早く操作。貯まったスタミナを消費する為にゲームをやり始めた。


「む…」


 本当にこのままで良いのだろうか。何もせずただ黙って時間が過ぎていくのを待っているだけで。彼女が家にいない事を喜んだ心境に情けなさすら感じる。


「……涙」


 もしまともな男性だったら泣かせてしまった女性を見捨てたりなんかしない。ましてや後を追いかけないなんて有り得なかった。


「ははは…」


 昨日は自分が逃げ出して、今日は華恋が逃走。2人して一体何をやっているんだか。まるで鬼ごっこをしているみたいでおかしくなってきた。


「ん~…」


 自分が逃げ出したのは恥ずかしさが原因だ。告白の言葉を聞いていられなくなったから。


 でも華恋が逃げ出したのは違う。なぜ彼女は走り去ったのだろう。


「華恋…」


 口を利きたくないから。それとも泣いている表情を見られたくないから。単純に昨日の仕返しという事も考えられた。


 近付いてくる行為に腹が立つと言っていたのも嘘じゃない。公園で告げようとした台詞も。つまり彼女が泣き出した原因は全て自分にあった。


「あ~あ…」


 そんな事は最初から分かりきっている。ただその事実を認めるのが怖かっただけ。


 揉め事に家族を巻き込みたくないなんて詭弁でしかない。周りの人間達に責任転嫁しているだけだった。


「……よし」


 決意を固めると立ち上がる。やりかけのアプリを中断して。


 今度はどんな罵声を浴びせられても逃げない。最後まで話を聞いてあげようと決めた。


「出ないか…」


 電話をかけるが繋がらない。数回チャレンジしてみたが全てスルー。とりあえず会いたかったら自力で見つけ出せという事らしい。希望を捨てずに1件のメッセージを送ってみた。


「さて、捜しに行きますかな」


 見つけ出せる自信はない。どこにいるか見当もつかない。ただひたすら街を駆けずり回ってやろうという気持ちだけは満ち溢れていた。


「また出掛けてくる」


「ん? どこに?」


「え~と、適当にブラブラ」


「なら帰りにコンビニでお菓子買ってきて、ボリボリ」


「……豚になっても知らないからね」


 遊びに行って来るとだけ妹に伝えて家を出る。自転車を使い、本日二度目となる外出を決行。


「よいしょっと」


 こういう場合は大抵思い出の場所にいるのが通例だ。初めて出逢った場所や昔よく通っていたスポットに。そして日が暮れる頃に偶然発見。


 華恋と初めて出逢ったのは電車の中だった。知り合ったのは最近だから思い出の場所なんてない。最初からそんな漫画みたいな展開は期待してないのだけれども。


 とりあえず昨日の公園に向かって走った。見当がつく場所は手当たり次第に潰してみようという作戦で。


「ひいっ、ひいっ…」


 息を切らしながら足を動かす。向かい風なので歩くよりしんどい。


「あぁ、もう…」


 華恋と知り合ってから疲れさせられる展開ばかり。色々な事に無理やり付き合わされてたまらないが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。


 それはきっと家族だから。いつの間に嫌いな人間は守ってあげたい身内へと変わっていた。

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