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18 先攻と後攻ー2

「おはよ~」


「……はよ」


「あれ? なんか元気なくない?」


「いや、いつも通りだよ…」


「嘘だぁ。普段はヨダレ垂らして踊りながらアニメ見てるクセに」


「……いつそんな事をしたというのさ」


 昼近くになると妹も起床。自分達の異変に感づかれないように平静を装った。どうやら今日はお出掛けの約束はしていないみたいで1日中家にいるつもりらしい。


「いなくなってほしい時に限って外出しないとか…」


 何の罪もない妹に文句を垂れても仕方がないので自室に戻る。椅子に座ってどうするかを考えた。


「う~ん…」


 予想を遥かに上回る怒り具合。まさか挨拶すら突っぱねてくるなんて。話し合いをするにしても香織が邪魔。無理やりどこかへ連れ出すにしても素直に要求には応じてくれないだろう。


「どうしよっかなぁ…」


 自然に元通りになるのを待つしかないのかもしれない。それが最も楽で理想的な展開ではあるのだけど。


「ん?」


 頭を抱えていると階下から玄関のドアを開ける音が反響。もしやと思いベランダから一階を見下ろした。


「……華恋」


 彼女が黒色のパーカーに手を突っ込んで出ていく。友達と遊びに行くのか買い物に出掛けるのかは不明だが。


 どちらにしろ好都合。上着を羽織ると追いかける為に自宅を飛び出した。


「よっ、と」


「……何よ」


 存在をアピールするように声をかける。やや前傾姿勢の背中に向かって。


「どこ行くの? バイト?」


「違うわよ。シフトは夕方からだし」


「なら誰かと遊びに行くとか」


「どうしてそれをいちいち言わなくちゃいけないわけ? アンタ、私の保護者?」


「ち、違うけどさ…」


 ある程度は覚悟していた。冷たくあしらわれると。だがいざその状況に立たされると怯んでしまった。


「化粧してないからお出掛けはないよね。なら散歩かな?」


「……ん」


「でも今日あんまり天気良くないからなぁ。外出には不向きだ」


 その後も返事をしてくれない対話相手にひたすら声をかけ続ける。虚しい気持ちと葛藤しながら。しばらくすると近所のコンビニに辿り着いた。


「何か買いに来たの?」


「ちっ…」


 問いかけを無視するように彼女が店内へと入って行く。真っ直ぐ奥に進んだ後はサンドイッチとジュースのパックを手に持ちレジへ。


 どうやら朝食を買いにきたらしい。精算を済ませている間は雑誌コーナーで時間を潰した。


「終わった?」


「む…」


 話しかけるがまたしても無言。持っていた雑誌を戻すと彼女の背中を追いかける形で外へと移動した。


「お腹空いてたんだ。僕も何か見てくれば良かったかな」


「……うっさい」


「今日はゆでたまご買わなかったの? いつも食べてるのに」


「うっさいなぁ、話しかけてこないでよ!」


「ご、ごめん…」


 嫌悪感むき出しの態度をぶつけられる。辺りに人がいたら注目されそうな大声を。


「アンタ、さっきから何がしたいの? 私のご機嫌でもとりたい訳?」


「それは…」


「だったら話しかけてくんな。アンタに喋りかけられるのが一番ムカつく」


「そ、そんな言い方ないじゃん。ただ普通に声かけてるだけなのに」


「はぁ? 私、なんか気に障ること言った?」


 黙って話を合わせようと思っていたのに。カッとなってつい反論してしまった。


「こっちは普通に会話しようとしてるだけじゃないか。なのにどうして喧嘩腰なの?」


「なに、逆ギレ? ウザッ!」


「逆ギレじゃなし、先にキレたのはそっちの方なんだから。そんな態度とられたら誰だって怒るさ」


「……そうかもね」


「喧嘩するのやめようよ。こんな言い争いをしにわざわざ追いかけて来たわけじゃないんだってば」


 すぐ側をトラックが通過していく。大きなエンジン音を立てながら。


「……じゃあアンタは何しにここまで来たの?」


「それは…」


 一言『仲直りしたい』と言えば済む話。ただそれだけ。しかしその簡単な言葉が喉の奥に詰まって出てこない。


「私がどうして怒ってるか分かる?」


「……昨日、公園から逃げ出したからでしょ。華恋を1人残して」


「そうね。確かにそれはショックだったわ」


「ごめん…」


「でもね、私が怒ってるのはそういう事じゃないの」


「え?」


 躊躇っていると彼女が先に言葉を発信。そこには感情を窺えない冷たい眼差しがあった。


「アンタが……昨日の事を無かった事にしようとしてるのがムカつくのよ」


「……あ」


 言葉を紡ぐ唇が震えている。袋を持つ右手も。


「アンタが私を…」


「あ、あの…」


「……何の為に、ずっと」


「ちょっ…」


「そんなの、そんなの……うぐっ」


「悪かったから泣かないでくれ」


 何かを喋ろうとしていた。片言な口調で。


「あっ!」


 だが言い終わる前に逃げ出す。彼女は体の向きを反対側に変えると一目散に走り去ってしまった。


「……ごめん」


 追いかけて捕まえる事は容易い。でもそれが出来ない。昨日の告白に対する返事を問われても答える覚悟が無かったから。


「はぁ…」


 1人淋しくトボトボ歩く。自宅からコンビニまでの短い道のりを。和解しに来たのに計画は失敗。むしろ悪化させていた。

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