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18 先攻と後攻ー1

「……う~ん」


 ベッドの上で瞼を擦る。窓から射し込む朝日を感じながら。起き上がろうとしたがすぐに断念。今日が休日だという事を思い出した。


「華恋…」


 小さく名前を呟く。夢の中に何度も登場した人物の名前を。


 昨日、公園で置いてけぼりにしてからの彼女の動向を知らない。母親からの晩御飯の呼び掛けすら断って部屋に籠城していた。


「……はぁ」


 何て顔をして会えば良いのか。話の途中で逃げ出したから怒っているかもしれない。


「へぶしっ!」


 天井を見つめていると豪快なクシャミが出る。耳鳴りが発生するレベルの自然現象が。


「お腹空いたぁ…」


 情緒不安定でも欲求は素直に動くらしい。とりあえず胃に何か入れようと部屋を出た。


「う、うわあぁあぁぁぁ!」


 しかし階段までやって来た所で足を滑らせ転落する。豪快に空中で3回転しながら床に着地した。


「いつつ……おはよ」


「おはよう。アンタ、昨夜何も食べなかったけど大丈夫なの?」


「あぁ、うん。でもお腹空いちゃったから何か作って」


「ちゃんと食べずに寝ちゃうからよ。パン焼いてあげるからそれで良いでしょ?」


「サンキュー」


 リビングにやって来ると出勤前の両親と遭遇する。食事中の2人と。


「雅人。あの子とは上手くやってるか?」


「あ、あの子って?」


「華恋ちゃんだよ」


「うっ…」


 椅子を引いた瞬間に父親が話しかけてきた。ケータイを弄りながら。


 誰の事を言っているのかは分かったが何故こんなタイミングで聞いてくるのか。関係性が微妙な時に。


「ま、まぁぼちぼちかな」


「なら良いが。雅人もちゃんと父さんみたいな紳士的な男にならないとダメだぞ」


「スーツにパンくずをポロポロこぼしてる男が何を言ってるのさ」


「アチチッ! コーヒーこぼしちゃった」


「ほっぺたにホウレン草ついてるよ」


 食べ終わると両親が出勤の為に玄関へと移動する。2人を見送った後は部屋には戻らずリビングでテレビ鑑賞を続けた。喧嘩相手と仲直りしておこうと思ったから。


「ん…」


 起きてきた華恋に声をかける、もしくは向こうから声をかけられるのをここで待っている。


 出来れば向こうから接触を図ってきてくれるのが理想的だ。テレビに夢中になっていると後ろから首を絞めてきたり。


 そのうち二階にいる寝坊助も起きてくるだろうからそれまでには済ませておきたい。揉め事に家族を巻き込みたくなかった。


「あ…」


 しばらくすると人の気配を感じる。階段を下りてくる音がしなかったからきっと華恋の方だろう。


 振り返らないように気をつけながらテレビの画面に意識を集中。緊張感のせいで内容はサッパリ頭に入っていなかった。


「……あれ?」


 現れた人物は無言のまま後ろを通過する。洗面所の方へと。もしかしたらここにいる事に気付いてもらえなかったのかもしれない。


「いやいや…」


 いくら何でもそれは有り得なかった。誰もいないのにテレビの電源がついているハズがないのだから。


「……えぇ」


 洗面所から戻ってきた足音は再び無言で廊下へと引き返していく。どうやらスルーされたらしい。ただ単に挨拶をするのが面倒くさかっただけとも考えられるが。


「違う…」


 彼女は怒っているんだ。昨日の出来事が原因で。


 解決する為には謝罪するしかないだろう。覚悟を決めてソファから立ち上がった。


「……よし!」


 客間の前までやって来ると小さく深呼吸する。胸元を小さく叩きながら。


「あの……入っても良い?」


 そのまま襖の向こう側に声をかけた。いきなり戸を開けるわけにはいかなので。


 しかし中からの返事が返ってこない。物音すらしない。


「どうしよう…」


 引き返してたい所だがそれは選んではいけない選択肢。着替えシーンに遭遇しない事を願いながらゆっくり戸を開けた。


「起きて……る?」


 恐る恐る中の様子を窺う。すると僅かに出来た隙間から壁にもたれかかってスマホを弄っている部屋主の姿を発見した。


「あ、おはよ。やっぱり起きてたか」


「はぁ…」


「着替え中じゃなくて良かった。覗き魔にはなりたくないから…」


「……何しに来たのよ」


「え、えっと…」


 呼び掛けた声に返ってきたのは低い声色。苦笑いすら止まってしまうほどの冷たい口調。昨日の出来事を根に持っている事が分かる反応だった。


「お腹空いてない? さっきトースト食べたんだけどさ」


「空いてない」


「あ、そう。ならテレビ見ない? 面白い番組やって…」


「見ない。つかアンタ何しに来たの?」


「え?」


 質問を質問で返される。険しい目付きと共に。


「わざわざそんなくだらない事言うために来たの? ならウザイだけだから出てってよ」


「いや、その…」


「ウザイって言ってんでしょ。出てけ!」


「……ごめん」


 ソッと襖を閉めた。高圧的な態度に耐えられなくて。


「えぇ…」


 逃げ出してきた廊下で立ち尽くす。宿題を忘れた小学生のように。


 昨日、確かに彼女に公園で言われたハズだった。好きという告白の台詞を。


 けれど今の態度はその真逆。嫌悪感を抱いている人間の行動そのものだった。

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