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3 反発と無抵抗ー2

「遠慮しなくても良いのよ。今日からここがアナタの家になるんだから」


「あ……は、はい」


 母親の問い掛けに対して女の子が控え目に答える。首を小刻みに振りながら。


「む…」


 テーブルには3人の人間が存在。痴漢をした男に、被害に遭った女性。プラス事情を知らない妹が。こんな異質な状況でまともな会話なんて出来るハズがない。気まずさ全開だった。


「あの…」


「え?」


「私、香織って言うんですよ。こういう字で…」


「は、はぁ…」


「よろしくお願いします」


 部屋に退散しようと考えていると妹が先に切り出す。近くにあったボールペンを使ってメモ帳に名前を記入しながら。


「えと……よろしくお願いします」


「かれんさん……でしたっけ? どういう字を書くんですか?」


「ん…」


「へぇ、美人さんの名前ですね」


「あ、ありがとうございます」


 続けて来客に向かってペンを差し出した。戸惑いの色を見せながらも彼女は指示通りに行動。白紙部分に華恋という文字を記した。


「う~む…」


 これは自分も名乗った方が良いのかもしれない。3人いて1人だけしないのは不自然だから。


華恋(かれん)さんは何歳なんですか?」


「げっ…」


 しかし自己紹介は実行に移る前に中断。同席者を無視するかのように女性陣2人が会話を進めてしまった。


「お母さんから16か17って聞いたんですけど」


「えっと、この前17歳になりました」


「学年で言うと2年生?」


「あ、はい。高2です」


「そうなんですか。なら私の1つ上ですね」


「……ど、ども」


「ん…」


 居心地は最悪。まさか自宅で息苦しい思いをする羽目になるなんて。目立たないよう、なるべく気配を消しながら過ごす決意を固めた。


「私の方が年下だからタメ口で良いですよ」


「いやいや、そんな…」


「いやいやいや」


 その後は母親が作ってくれたカレーを皆で食べる事に。客人のこれからについてを議論しながら。


「学校はどうするの?」


「アンタ達と同じ海城(かいじょう)高校に通う事になるから。華恋ちゃんの事いろいろ助けてあげてね」


「ほ~い」


 主に言葉を発するのは母親と妹だけ。肝心の本人は簡単な返事をしている以外ほとんど喋る事はなかった。



「狭いけど、この部屋を使ってね」


「はい。ありがとうございます」


「まだ布団しかないけどゴメンね。これからいろいろ買い揃えていくから」


「い、いえっ! とんでもないです」


 食事後は皆で自宅をウロつく。華恋さんに間取りを教える為に。


「じゃあいくぞ、雅人」


「うん」


「せーの……ほっ」


「あ、手が滑った」


「ぐわあぁああぁっ!!?」


 男2人で邪魔なタンスを移動。しかしミスが原因で父親の足に落下。中年男性の断末魔が室内に響き渡った。


「あとはトイレやお風呂の場所とかの確認だね」


「あぁ、うん。てか父さん足大丈夫?」


「う、うぅ…」


 とりあえず寝泊まり出来るスペースの確保には成功する。机や着替え等の必需品はこれから少しずつ揃えていくらしい。


「洗濯物はこのカゴに入れておけば良いですから」


「わかりました」


 客間の次はバスルームへと移った。体重計などが置かれた脱衣場へと。


「これから洗濯は私が担当するから。まーくんはやっちゃダメだよ」


「え? なんで?」


「……ん」


「あ、なるほど。了解しました」


 妹に険しい顔で睨み付けられる。一瞬意味が分からなかったが女性陣の苦々しい表情を見て状況を理解。


「あのぉ…」


「ほ?」


「洗濯とか私がやろうかと思っているのですが…」


「えっ!?」


 羞恥心をごまかしていると華恋さんが初めて会話に介入してきた。積極的な意見を掲げながら。


「いや、お客さんにそんな事してもらうのは悪いし」


「で、でも…」


「本当に大丈夫ですから。ね? まーくん」


「こっちに振られても困る…」


 彼女の発言がキッカケで空気が少しだけ気まずくなる。女子同士の小さな衝突が原因で。


「あのね、香織。気を遣ってくれるのは嬉しいんだけど華恋ちゃんはお客さんじゃなくて家族になるのよ」


「あ、そっか」


「だからそういう言い方はダメ。お母さんが再婚した時にも同じ事を言ったから分かるわよね?」


「うん……忘れてた」


 その口論は即座に終結。間に割って入った母親のおかげだった。


「華恋ちゃんもそんなに気を遣わなくて良いから。ね?」


「でも…」


「華恋ちゃんがこの家の生活に慣れて、それで余裕が出来たら家事を手伝ってくれれば良いから」


「……わかりました」


「料理得意なんだってね。頼りにしてる」


「あ、ありがとうございます。なんだかすみません…」


「おぉ…」


 大岡裁きで一件落着。声には出さなかったが尊敬の念が止まらなかった。


 我ながら本当に良い母親を持って幸せ。父親は色々と残念だけど。そしてリビングへと戻ってくると本人がソファの上にぐったりと倒れていた。


「足、大丈夫だった?」


「……骨折してるかもしれない。ヒビが入ってそう」


「そうだ、今度サッカーやろうよ。久しぶりに公園に行ってさ」


「よ~し、望むところだ。父さんの華麗なドライブシュートを見せてやる。ハッハッハ」


「何、このバイタリティ」


 明日も朝早くに起きなくてはならない為、話し合いもそこそこに解散。歯磨きを済ませた後は各自の部屋に引っ込んだ。

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