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17 駆け引きと逃走ー6

「昨日はどうだったの? 可愛い女の子いた?」


 平日最後となる金曜日。朝の教室で颯太に話しかける。彼の表情はどこかニヤついていた。


「まぁまぁかな。ただ辿り着くのに手間取ったから日が暮れちゃったぜ」


「え? いつ帰って来たの?」


「ついさっき。高速で大型トラックをヒッチハイクして戻ってきたわ」


「……本当にどこまで行ってたの」


 情熱を注ぐ場所がおかしい。そろそろ本気で止めるべきだろうか。


「颯太ってさ、2人乗りやった事ある?」


「ん? 男とならあるぞ。でも女の子を乗せた事はないな」


「そうなんだ。やってみたいと思った事はある?」


「そりゃもちろん。等身大のフィギュア買ってきてやろうと試みた事はある」


「不気味すぎ…」


「マネキンでも良いかと考えたんだけさ、これが意外に高くて挫折しちゃった。ハハハ」


 彼の思考回路は一体どうなっているのだろうか。理解の範疇を超えてしまっていた。


 それから彼はまたしても学校終わりにどこの女子校に行くかを計画。しかしそれを実行する事は叶わなかった。


「ちゃんと宿題やって来ないからだよ。だから居残りさせられるんだってば」


「女の子達が俺を待っているというのに。ふざけんじゃねぇぞ」


「むしろ待ち伏せしてるのは颯太の方では?」


「……もうダメだ。寝る」


「頑張ってやりなよ。じゃあね」


 友人が拗ねて机に突っ伏してしまう。そんな姿を背に教室を退散。


「1人か…」


 暇なので直帰したくない。いつもとは違うルートで帰ろうと試みた。


「お?」


 テニス部のコートや運動部の部室が並んでいる裏門付近へとやって来る。その途中の階段で見覚えのある女子生徒を発見した。


「よいしょっと」


「ん?」


 後ろから彼女の横に並ぶように腰掛ける。持っていた鞄も添えて。


「なんだ、雅人か」


「また野球部見学? 毎日よく飽きないね」


「別に毎日ってわけじゃないし。アンタこそ何しに来たのよ」


「こっちから帰ろうと思ってさ。そしたら智沙がいるのを見つけて」


「だからってわざわざ座らなくても。スルーして通り過ぎなさいよ」


「だって家にいてもやる事ないんだもん」


 彼女がよくこの場所に来ている事は知っていた。数ヶ月ぐらい前から続けている習慣として。


 本人の口から直接聞いた訳ではないのだが野球部に気になる人がいるらしい。なので放課後はよくここで時間を潰していた。


「野球やってみたいって思った事はある?」


「ないわよ。ルールだってよく分かんないし」


「ならどうして野球部の方を見てるの?」


「さ、さぁ…」


 意地悪な質問をぶつけてみる。普段の仕返しとばかりに。


「アンタ、今日は華恋と一緒に帰らなくて良いの?」


「え? なんで智沙がそんな事知ってるのさ。もしかして昨日の見てたの?」


「まさか。本人から聞いたのよ、雅人と一緒に帰るって」


「……ん?」


 今の彼女の発言が引っかかった。昨日、華恋と駅前で会ったのは偶然。一緒に帰る事になったのはその流れからだった。


「智沙は昨日、華恋と一緒に帰らなかったの? 放課後はどうしてたの?」


「だからアンタと一緒に帰るって言ってたって言ったでしょ? 教室で別れたから知らないわよ」


「そっか…」


 昨日の放課後は1時間ほど立ち読みをしていたハズ。その間、彼女はどこで何をしていたのか。


「……まぁいいか」


「なに1人で納得してんのよ」


「いや、別に。ところで野球とサッカーならどっちが好き?」


「どっちもあんまり興味ないかな。やるならバレーが良い」


「なら中学の時みたいにバレー部に入れば良いじゃん。どうして入部しなかったの?」


「趣味でやるのは好きだけど本格的にやるのはちょっとね。うちのバレー部って厳しいらしいし」


「スポ根ってヤツか。叱られても叱られても続けられる人って凄いと思うよ」


 帰宅部なのに部活について熱い議論を展開。額に汗しながら好きな物に夢中になっている人達が眩しく見えてきた。


 もし自分も何かに真面目に取り組んでいたら学校生活も今とは違うものになっていたのだろうか。都合の良い想像が止まらなかった。


「ねぇ、いつまでここにいるの? そろそろ帰らない?」


「そうね。なら退散しよっかな」


「へっくしっ!」


 ずっと座っていたから体が冷え気味に。ズボンについた砂を振り払うと立ち上がった。


「あれ?」


「ん? どしたの?」


「……なんでもない。じゃあ帰ろっか」


「お?」


 彼女が小さく言葉を漏らす。その視線を追ってみたがあるのは夕日に照らされた校舎だけ。


「お腹空いちゃった。メシ奢って」


「そこにドングリが落ちてるよ」


「あたしゃリスか……って、ん?」


「ほ?」


 声に反応して再び彼女の視線の先に注目。そこにいたのは必死で自転車を漕いでいる颯太だった。


「……もう宿題終わらせたんだ」


 いつの間にか結構な時間が経過していたらしい。お喋りが楽しくて夢中で座り込んでいた。


「あれ? アイツの下宿先ってあっちの方角だったっけ?」


「うぅん、違うよ」


「なんかあったのかな。切羽詰まったような顔してたけど」


「切羽詰まってはないが、急いではいるのかも。己の欲望のために」


「ふ~ん、よく分からないけど夢中になれる物を見つけたのね」


 また女子校見学に行くと予測。遠目にだがギラギラした目つきをしているのが見えたから。


「そうだ。智沙って男子と2人乗りした事ある?」


「自転車の? ないけど」


「やっぱりか。だろうなぁ」


「あんだとっ!」


「ぐふっ!?」


 他愛ない会話をしながらその場を立ち去る。珍しく女友達と2人きりで。地元へ戻ってくると寄り道する事なく自宅を目指した。

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