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17 駆け引きと逃走ー4

「いい天気だなぁ…」


 翌日の昼休み。教室の片隅で1人で佇む。購買で買ってきたメロンパンを食べ終え、チャイムが鳴るのをずっと待っていた。


「う~ん…」


 昨日までは意識していなかったがうちのクラスにも何人かカップルがいる。2組と少数ではあるが。ただ他にも別のクラスや先輩後輩と付き合っている生徒等々。把握しているだけでもクラスの半数近くの人間がリア充だと判明した。


「……はぁ」


 落ち込まずにはいられない。理想と現実に差がありすぎて。


 唯一の希望は周りの知人達。幸いなのかそうでないのか似たような境遇の知り合いばかりが集まっていた。


「智沙か…」


 彼女もない。そういう浮いた話は聞いた事がないし。それに本人は隠しているがこの学校の同級生に片思いをしているのを密かに知っていた。


「うおりゃあっ!! じゃあお前らまた明日な、うおりゃあっ!!」


 帰りのホームルームが終わった後は1人で校内をブラつく。颯太には先に帰ってもらって。その目的はただの暇潰し。新しい刺激を求めて徘徊していた。


「……お喋りしてないで早く帰ればいいのに」


 違うクラスで盛り上がっている数名の生徒を見つける。髪を染めた派手なタイプのグループを。


「あはは…」


 だんだんと鬱な気分になってきた。やっぱり誰かと一緒に帰るべきだったのかもしれない。心の奥底からジワジワと後悔の念が溢れ出してきた。


 校内をあらかた周って何も起きない事を確認すると学校を後にする。1人で電車に乗り、1人で立ち読みをして、1人で家へと帰ってきた。


「ただいま…」


 玄関の扉を開けて中に入る。まだ誰も帰って来ていない家に挨拶しながら。


 冷蔵庫に入っていたペットボトルを持つと二階へ移動。乾いた喉を潤してベッドに倒れ込んだ。


「おやすみ…」


 ダウナーな気持ちをリセットする為には眠るしかない。楽しい夢を見られれば気分も変わるハズ。小さな願いを込めながらゆっくりと目を閉じた。


「……ん」


 しばらくすると階下から玄関を開ける音が聞こえてくる。両親は今日も夜勤なので妹か同居人のどちらかなのだろう。


 うつ伏せを維持しているとだんだん意識が朦朧状態に。夢と現実の世界を何度も往復。


 まどろみの中は心地よかった。子供の頃に戻れたようで。


「ふぅ…」


 起床した後はベッドの上であぐらをかく。頭を抱えながら。よりにもよって一番見たくない物を見てしまった。公園で見知らぬ女性と遊んでいる夢を。


「あ~あ…」


 この思い出は嫌いではない。どこか懐かしい気持ちに浸れるから。だが気分を明るく変えたいと思っていた現状では精神が追い込まれる内容だった。


「ん?」


 時間を確認する為にケータイを手に取る。すると届いていた新着メッセージを発見。差出人を見ると華恋だった。


「えぇ…」


 バイトが8時に終わるから迎えに来てほしいらしい。たまにあるワガママにも近い催促。


 ただ時計を確認するとそもそも不可能だという事に気付く。表示されていた時刻は8時5分。約束のタイムリミットを過ぎていた。


「……ま、いっか」


 迎えに行けないからといって特に困るような事は無い。寝起きなのであまり体を動かしたくないし。


「うわぁあぁあぁぁっ!?」


 重い体を引きずって部屋を出る。しかし階段付近までやって来た所で足を滑らせて転落してしまった。


「いつつ…」


 手足を激しく強打する。ダメージを負いながらも這いずるように廊下を移動した。


「……グガガガガッ!」


「どんな寝相…」


 リビングに到達するとやかましいイビキが響いてくる。妹がテレビに抱き付く形で爆睡していた。


「お~い、起きて~」


「……ん、んん」


「もう8時。華恋も帰ってくるよ」


「まーくんの大福に毒を仕込んでおかなくちゃ…」


「え? 何、この寝言。怖い」


 彼女の肩を掴んで揺り起こす。こんな情けない兄妹の姿なんかとても見せられない。今日も両親は仕事で不在。生活リズムが違うせいでここ数日は朝にしか顔を合わせていなかった。


「華恋さん、遅いね~。何かあったのかな」


「寄り道でもしてるんじゃない? コンビニで立ち読みとか」


「かなぁ」


 ソファに腰掛けながらバラエティ番組を視聴する。バイト娘が姿を見せないので2人きりで。


「……あ」


 様々な憶測を巡らせているとある事を思い出した。先ほど届いていた1件のメッセージの存在を。


「やべ…」


 まだ返事を返していない。文章を確認しただけで閉じてしまっていた。


「ちょっと迎えに行ってくる」


「あ、うん。気をつけてね」


 もしかしたらどうしていいか分からず動けないでいるのかもしれない。バイトが終わった店先で。


「あぁ、嫌だ嫌だ…」


 だとしたらかなり怒っているだろう。不機嫌な同居人の姿が容易にイメージ出来た。


「あ…」


 玄関でスニーカーに足を通す。その瞬間に外側からドアが開いた。


「お、おかえり」


「……何で来てくれなかったの」


「ゴメン、ちゃんと返信すれば良かったね。うっかり忘れてた」


「また女の子を追いかけ回してたの? そうなんでしょ」


「え? いやいや、違うって。帰って来てからずっと部屋で寝てたんだよ」


「ふんっ……どうだか」


 対面早々に不躾な態度をぶつけられる。迎えに行こうとしていたその人に。


「本当に悪かったです。だからそんなに怒らないで」


「別に怒ってないし。普通だし」


「眉間にシワ寄せるとせっかくの可愛い顔が台無しですよ、姉御」


「う、うっさいなぁ…」


 機嫌を取ろうと必死になった。後で殴られたくないので。


「あ、おかえりなさい。お疲れ様」


「ただいま。今から晩御飯作りますね」


「ありがとうございます。いつも助かります、エヘヘ」


 軽く口論しながら2人してリビングへとやって来る。そしてドアを開けた瞬間に彼女がいつもの営業スマイルを振りまいた。


「雅人さんは食べてきたから晩御飯いらないんですよね?」


「いや、いります。何も食べてないのでお腹空いてます、はい」


「あれ? でもさっきはお嬢様学校の生徒とファミレスに行ったから何もいらないって…」


「そんなこと言ってませんよね!? 言ってないですよね?」


「……お嬢様学校?」


 事態が悪い方へと転がっていく。前日の行動を遠回しに暴露されて。


 かといって自分には反論する権利が与えられていない。文句でもつけようものならば晩御飯抜きでは済まなくなるからだ。


「僕も手伝うので何か作ってください。お願いします」


「は~い、分かりました」


「ほっ…」


 不本意ながらも頭を下げる。それが効いたのか彼女は野菜炒めを作ってくれる事に。


「げっ…」


 しかし自分の目の前に出されたのは別のメニュー。前日の残り物のパスタだった。


「……まっず」


 食べ物を粗末にするわけにはいかないので我慢して箸を動かす。味の落ちた麺を泣きながら口にした。

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