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17 駆け引きと逃走ー3

「うおりゃあっ!! 理科の授業始めるぞ、うおりゃあっ!!」


 翌日もいつも通りに学校に行き授業を受ける。そして放課後になると友人と2人で学校を出た。


「本当に行くの? 昨日行った女子校」


「もちろん。約束しただろ? 明日またここに来ようって」


「僕はしてないよ。颯太が勝手に決めたんじゃないか」


 自転車に乗る彼を走って追いかける。鞄はカゴに入れさせてもらったので手ブラで。


「ここからだとちょっと遠くない? 颯太は自転車だから良いけど僕は徒歩だし」


「頑張れ。辿り着いたらご褒美がもらえるぞ」


「可愛い女の子がたくさん見られるとか言い出すんでしょ? そんなに興味ないよ」


「だって1人で校門に立ってたら不審者になるじゃん」


「2人でも変わらないよ。あぁ、しんどい…」


 激しく息を切らして走り続けた。途中の信号で何度も休憩を挟みながら。しばらくすると目的の場所に到着した。


「おぉ、やっぱり昨日と違ってたくさんいるな」


「ねぇ、やっぱり帰ろうよ。先生や風紀委員の人が来たらどうするのさ」


 来る前も不安でいっぱいだったが実際にその場に立たされると恐怖感が倍増。すれ違う女子生徒達の突き刺さるような視線が痛い。


「もう少し離れた方がいいかも。ジロジロ見られてる」


「そんなの気にするな。何も悪い事なんかしてないんだし」


「いや、微妙にやってしまってる気が…」


 校門付近に警備員の人が立っている。このままウロついていたら声をかけられるかもしれない。


「ならせめてあそこに行こうよ」


「ん?」


 道路の反対側にあったファミレスを指差した。建物内ならさすがに警備員の人もやって来ないだろうとの判断で。逃げ出すように歩道橋を渡って移動した。


「中にも何人かいるのな」


「だね。けどさすがに近くにいる人をジロジロ観察するわけにはいかないでしょ?」


「仕方ねぇ。とりあえず窓際の席に行くか」


「へいへい…」


 店員さんにお願いして外を見渡せるテーブルに座る。日差しが当たって眩しい場所を陣取った。


「おぉっ、あの子可愛い」


「どれ?」


「歩道橋の左側にいる3人組。一番手前の子」


「あぁ、確かに可愛いかも」


 そのまま目的の観察を開始する。ドリンクバーのジュースを飲みながら。


「刑事の張り込みじゃないんだから…」


 こんな場所までやって来て一体何をしているのか。考えれば考えるほど虚しい気分になってきた。


「女子だけってのは良いなぁ。カップルを見なくて済む」


「はいはい」


「俺もここに通おうかな。カツラ被ってスカート穿いて」


「……あの、そろそろ付いて行けなくなってきたんだけど」


 ひたすらジュースを飲み続ける。喉が乾いていたというのもあるがそれぐらいしかやる事がないので。


「おっ、あの子凄いぞ」


「うん?」


 やれやれと思いながら友人の声に反応。だが窓の外に視線を移した瞬間、全身が硬直した。


「あ…」


「な? 綺麗だろ」


「う、うん」


 油断していたというのもある。自分と彼とでは女の子観察に対して温度差があるから。けれど目に入ってきたその子は明らかに今までの子とは別格。ストレートな好みのタイプだった。


「今までで一番だな。ポニテの子、抜いたわ」


「ん…」


 密かにランキング付けをしていた友人の言葉も耳に入らず。彼女が視界から消えるまでずっと目で追いかけた。


「あ~、ああいう子が彼女だったら幸せなんだろうなぁ」


「分かる分かる」


「隣に並んで歩きてぇ。ついでに手も繋いじゃったりなんかして」


「青春だよね。毎日学校行くのが楽しみになりそうだ」


「そして卒業後に結婚して子供を作って、一緒に運動会の応援に行ったり」


「……飛躍しすぎじゃないかね」


「よし、ちょっとプロポーズしてくる」


「やめてくれ。捕まっちゃうよ」


 立ち上がる友人を制止する。周りから訝しげな視線を注がれながら。


 その後も1時間ほど張り込みを続ける事に。お腹が空いてきたので晩御飯もファミレスで済ませた。


 観察中に飲んだジュースの数は5杯以上。駅に戻るまでの間に猛烈にトイレに行きたくなってしまったのが辛かった。



「ただいまぁ」


 涼しい夜道を歩きながら帰宅する。玄関を開けると真っ直ぐにリビングへと向かった。


「なに作ってるの?」


「あ、おかえり」


 不在の母親に代わってキッチンに立っている華恋を見つける。ソファに座ってバラエティ番組を鑑賞中の妹も。


「パスタだって。私が食べたいって頼んだの」


「ふ~ん。あ、ファミレスで食べてきたから僕はいいや」


「え?」


 鞄を持ったまま用件を通達。ハンバーグ定食を頼んだので胃の中はパンパンだった。


「あの、もう3人分茹でてしまったんですけど…」


「ごめん。お腹いっぱいだから食べられそうにないや」


「……ぐっ」


「そ、そういう事で…」


 シェフが何かを訴えかけるような目つきで睨んでくる。その威圧に耐えられず慌ててリビングから脱出した。


 口には出さなかったが怒っていたのかもしれない。予め連絡を入れておけば良かったと後悔する。そして予想通り彼女は後から部屋へと乗り込んできた。


「アンタねぇ、食べてくるんなら先にそう言っておきなさいよねっ!」


「く、苦しいってば! 手を離してくれ」


「余った麺とソースはラップして冷蔵庫に入れてあるから。ちゃんと責任持って食べなさいよ!」


「ラ、ラジャー」


 胸倉を掴まれ怒鳴り散らされる。カツアゲでもされているかのように。


「ゲホッ、ゲホッ」


「アンタ、どこのファミレスに行ったの? 地元の駅前にはいなかったわよね」


「あぁ、電車に乗る前に行ってきたんだよ。学校から少し離れた所にある」


「どうしてわざわざそんな場所まで行ったのよ。何かあったっけ?」


「槍山女学園。昨日話したでしょ? その女子校にまた行っててさ」


「はぁ?」


 彼女が呆れたような声を出してきた。口をあんぐりと開けて。


「こんな時間までずっと女の子追いかけてたの? バカじゃん」


「う、うるさいなぁ。颯太に誘われて嫌々付いて行っただけだよ」


「それで警察にカツ丼を食べさせられたから晩御飯いらなかったというわけか」


「なんでそうなるのさ。そもそも実際の警察はカツ丼なんか出してくれないし」


「放課後に女の子追いかけまわすとかどんだけスケベなのよ。見損なったわ」


「す、すいません…」


 返す言葉もない。女の子に夢中になっていたのは紛れもない事実なのだから。


「で、でも結構キレイな生徒がいたんだって。モデル体型の美人とか」


「ふ~ん…」


「凄く可愛い子が目についた時は思わず後をつけようかと思っちゃったよ。ハハハ」


「よし、お巡りさんに通報してやる」


「や、やめてくれぇ!」


 彼女がポケットからケータイを取り出す。冗談だとは思うが一応止めておいた。


「下にいる香織ちゃんにバラしても良い? アナタのお兄さんが鼻の下を伸ばして女子高生を追いかけまわしてたって」


「出来れば内緒にしておいてくれると助かります。ついでに父さんや母さんにも」


「ならもう二度とこんな真似はすんな。分かったか!?」


「は、はいっ!」


 激しい叱責を喰らってしまう。同い年の同居人に。


「む…」


 うっかりバラしてしまった自身の軽率さを反省。同時にこの不満を解消する為の方法を頭の中で必死に模索した。


「じゃあ私、汗流してくるから」


「はい、行ってらっしゃいませ」


「仕返しに風呂場の電気消しに来たらブッ飛ばすかんね!」


「……はい」


 考えている事が読まれてしまう。まさか実行に移す前にバレてしまうなんて。相変わらず彼女の方が一枚上手なんだと気付かされただけで終わった。

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