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17 駆け引きと逃走ー2

「ただいま~」


 家に帰ってくると鍵のかかっていないドアを開ける。中に一歩足を踏み入れた瞬間に香ばしい香りを感じ取った。


「この匂い……カレーかな」


 靴を脱いだ後は廊下を駆け抜けて奥へ。一目散にキッチンを目指した。


「あ、おかえり~」


「ただいま。カレー作ってるの?」


「そうよ。今は私しかいないから暇だし」


「香織は?」


「友達と遊びに行くって出てったわね。とりあえず手洗ってきたら?」


「ん、そうする」


 鍋の前に立っている華恋を発見。どうやら今日の晩御飯を作っていたらしい。洗面所で手を洗うと食事用に使うテーブルの椅子に腰を下ろした。


「カレー大好きなんだよ。楽しみだわぁ」


「そ、そう? こんな手抜き料理でありがたがられるのも照れくさいんだけど」


「何を言ってるのさ。カレーこそ人類の生み出した偉大な発明品。歴史上、最も多くの人に愛されている食べ物なのだよ」


「そんな大袈裟な」


「だってカレーが嫌いな人って世の中にいないでしょ?」


「そりゃあ多くはないだろうけどゼロって事もないんじゃないの?」


「いや、絶対にいないって。もしいたら人間を辞めてもいいぐらいだから」


 カレーが嫌いという人に今まで会った事がない。家族はもちろん友人、クラスメート。給食で出されたカレーライスを残している不届き者なんか目にした事がなかった。


「アンタ、どんだけカレー信者なのよ」


「カレーを愛しています。カレーの全てを愛しています」


「……あっそ」


 熱弁に対して呆れ顔が返ってくる。面倒くさい心境が窺える酷い表情が。


「華恋もカレー好きでしょ? 名前も似てるし」


「名前は関係ないでしょうが。まぁ嫌いではないわよ。特別好きって事もないけど」


「え~、なら何が好きなの?」


「う~ん……海老フライとか?」


「海老フライ? あれって料亭とかで食べる高級品じゃん」


「それ天ぷらでしょ? フライと天ぷら勘違いしてない?」


「あ、あれ……そうだっけ」


 ミスの指摘に頭が混乱状態に。思考が小さく揺さぶられた。


「言っとくけど全くの別物だからね。味も調理方法も違うんだから」


「何が違うの? その2つは」


「フライはパン粉つけて揚げるの。天ぷらは小麦粉。似て非なる物なんだから」


「ふ~ん、ならうんこ付けたら?」


 適当に思い付いた単語を口にする。その台詞に反応して鍋を掻き回していた彼女の動きがピタリと停止した。


「……今なんて言った? 私、そういう下品なネタ大っ嫌いなんだけど」


「ご、ごめん。ちょっとしたジョークでした」


「この熱々のカレー、頭からぶっかけて良い?」


「本当に勘弁してください。反省してますから!」


 顔を見るが目が少しも笑っていない。どうやら本気で怒っているようだった。


「すいません。もう二度と言いません」


「……っとにもう。クソガキかっての」


「はは…」


 小学生の頃、頻繁にこんなくだらない話題で盛り上がっていた記憶を思い出す。ついでに女子には大不評なネタという点も。


「ねぇ、華恋は彼氏欲しいって思った事ある?」


「はぁ? 何よ、急に」


「ほら、華恋と彼氏って名前が似てるじゃん?」


「だから名前は関係ないっつってんでしょうがっ!」


「えっと、今日さ…」


 先程、外出中に起きた出来事を手短に話した。バッティングセンターで目にしたカップルや颯太との会話内容を。


「ふ~ん、健全な10代男子の思考だわね」


「まぁね、やっぱり女子もそうなのか気になってさ。いつも一緒にいてくれる男の子ってほしいものなの?」


「そりゃあ、いないよりいてくれた方が良いんじゃない? 友達に自慢も出来るわけだし」


「誰かに自慢する為に恋人を作るってのも嫌だなぁ…」


「見せびらかす奴はまだマシよ、のろけ話はウザイけど。それより恋人いるのに隠そうとする奴のが困る」


「なんで?」


 指を突っ込んで味見している彼女と視線が衝突。怒りの感情は消え去っていた。


「モテない奴は恋人いる事をひけらかす。モテてる人は恋人いる事を隠そうとする。これ私の持論」


「へぇ……詳しいね」


「ふふふ、伊達に恋愛相談とか受けてないし」


「でも自分が告られてた時はテンパってたよね。顔を真っ赤にしてさ」


「は、はぁ!? 別にテンパってないし。真っ赤になんかなってないし」


「いやいや…」


 態度をムキにして反論してくる。見事な矛盾が目の前に存在。


「だって僕に代わりに断ってくるよう頼んできたじゃないか」


「そ、それは…」


「あの告ってきた先輩はどうなの? 男として」


「あ~、ダメダメ。モテそうなクセして今まで彼女出来た事ないとか手紙に書いてたから」


「もしかしたら本当に交際経験が無かったのかもよ? 嘘かどうか分からないじゃん」


「誰かと付き合った事ない人間が会話した事もない女子に声かける? それに告白の仕方とか慣れてたし」


「う~ん……個人的にはあんまり悪そうな人には思えなかったけど」


 年下の自分に対しても敬語で対応。振られたと分かった後も紳士的だったので印象は悪くなかった。


「ともかく私はああいうモテそうな男は苦手なのよ。いつ浮気するか分かんないから」


「浮気しないイケメンだっていると思うけど…」


「アンタは可愛い子と普通の子ならどっちが良いわけ?」


「そんなの可愛い子一択」


「……即答しやがった、コイツ」


 質問に対して瞬時に返答する。同時に軽蔑の意味を込めた目で睨まれた。


「だって全く同じ性格なら見た目が良い方を選ぶでしょ?」


「じゃあ見た目美人だけど性格最悪な女と、見た目微妙だけど天使みたいな性格の子だったら?」


「どっちも嫌だ。両方とも選ばない」


「ふ~ん」


「アレみたいだ。カレー味のうん…」


 ふとある事を思い付いたので言葉に。直後に慌てて口を塞いだ。


「……え? あんだって?」


「いや、何でもないっす」


 再び冷ややかな視線が飛んでくる。思わず逃げ出したくなるレベルのメンチ切りが。


「あぁ、もうっ! アンタのせいでだんだん食欲が失せてきたじゃない。どうしてくれんのよ」


「あ、残すの? その時は僕が責任持って平らげるから安心してくれ」


「くっそ、七味を一瓶全てブチ込んでやろうかな」


「や、やめてくれっ! そんな事したら食べれなくなる」


 思わず椅子から立ち上がって制止した。平和な食卓を守る為に。


 それから1時間足らずの間に両親や妹も帰宅。華恋の作ったカレーは皆に大好評だった。しかしそれを作った本人は小食気味。食事中はずっと引きつった顔を維持していた。

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