16 家出と幽霊ー3
「晩御飯はどうしよう? どこかに食べに行く?」
「天気悪いからあんまり外に出たくないなぁ」
空腹感を感じ出した頃に食事の協議を始める。それぞれの好みや事情を交えた話し合いを。
「私が作ります。材料まだあったハズだし」
「え? でもバイト終わりだから疲れてるんじゃないの?」
「大丈夫。いつもやってるから慣れてるし」
「う~ん……でもお邪魔しといて晩御飯まで作ってもらうのは悪い気がする」
「そんな事ないよ。平気だってば」
華恋が率先して意見を発信。体裁の為というより客人に気を遣っているように見えた。
「ならピザは? 出前なら楽だよ」
「良いけど自分でお金出しなよ」
「え~、なんで私だけ。皆で割り勘しようよ」
「なら多数決で決めよう。ピザが良い人」
「はいっ!」
「香織1人しかいないけど」
「うえぇっ、皆の裏切り者!」
妹が安直な提案を掲げるが却下される。無言の空気によって。
「むぅ……どうしよっかな」
「ピザにしよ。私、マヨコーン食べたい」
「でもピザ高いんだよなぁ。チラシあったかな」
智沙はコンビニ弁当案で、華恋は自炊を強く推奨。意見がバラついているので平行線を辿っていた。
「はい。チラシ」
「サンキュー。とりあえずピザで決定?」
「一応持ってきただけ。どうするかは相談して決めよう」
外は雨なので外出したくないし、何かを作る場合は華恋の負担が大きくなってしまう。なので最終的にはどちらも回避出来るデリバリー案に到達。
電話をすると30分程で店員さんが登場した。Lサイズのピザを3枚持参して。
「ゲップ……苦しい」
「久しぶりに頼むけど美味しい。毎日食べたいくらい」
「そんな事したら太るよ。たまにだから良いんだよ、こういうのは」
「だね。それよりまた床にジュースこぼしちゃった、ゴメン」
「あぁあぁぁっ、カピカピになってるぅ!」
「あとベッドにもカスをたくさんこぼしちゃった。テヘッ!」
「可愛い子ぶってないでちゃんと拭いて!」
料金は4人で割り勘。男が出せというハラスメント意見を一蹴して無理やり徴収。
そして食後はテレビのある一階へと移る事に。心霊番組が放送されていたので皆で見始めた。
「ひぇーーっ!」
「いちいち大きな声出すんじゃないわよ。男のクセにうるさいなぁ」
「だって怖くない? リアルすぎるよ、コレ…」
「だからってそこまで怯えなくても」
リビングに悲鳴がこだまする。可憐な女の子の声ではなく野郎の雄叫びが。
香織はこういう類いは平気で深夜に単独で見る程。智沙も女の子らしくなく平然としていたのだが、意外な人物が約1名怯えていた。
「ひいぃぃぃっ!?」
「華恋ってこういうのダメなの?」
「……んっ」
問い掛けに対して無言の答えが返ってくる。首を上下に振る動作が。
「意外だ。一番平気そうなのに」
「え? どこが意外なのよ。むしろそのままじゃない」
「だってこの前も部屋で巫女服を着ながらナイフ振り回して……ぶわっ!」
友人に自宅での事情を暴露。その瞬間に同居人の投げたクッションが顔面目掛けて飛んできた。
「いったぁ…」
「おぉ、ナイスコントロール」
「持っていくなら投げないでよ…」
どうやら口止めの意味を込めてぶつけてきたらしい。近付いてきた華恋が素早くクッションを回収した。
「そういえばお風呂どうしよう?」
「私、これ見てから入る~」
「アタシはあんた達が入った後でいいわよ。最後で」
「本当? なら先に入ってくるわ」
「いてら~」
逃げ出すようにテレビ前のソファから離脱する。続きを見たい気持ちはあったが恐怖で動けなくなる前に入浴を済ませておきたかった。
「ふぅ、落ち着く…」
脱衣場にいる時もリビングからは悲鳴が連発。そのほとんどが香織の声。超常現象に恐怖感を抱いていない彼女にとってそれはただの悪ふざけだった。
「あがったよ~」
「アンタ、長すぎ。いっつもこんなに長風呂なの?」
「いや、今日はたまたまだって。それより次、誰か入ってきなよ」
そして30分程が経過した頃に帰還する。テレビ画面を見て先程の番組が終わった事を確認した。
「あ、じゃあ私入る。ちーちゃんも一緒に入ろ」
「え? いいの?」
「良いよ。合宿の時に背中洗いっこしたじゃん」
「そういえばそうね。なら混浴しちゃおっかな」
夜になっても友人と妹はテンションが高め。彼女達は部屋から着替えを持ってくると本当に2人でバスルームへと突入してしまった。
「家の浴槽じゃ2人は狭いよ…」
片方が体を洗っている間にもう片方が湯船に浸かるしか方法は無い気がする。その光景を想像してみたがまるでドキドキしなかった。
「大丈夫だった?」
「うぅ…」
静かになったリビングで声をかける。ソファで未だ怯え続けている人物に。
「どうしてこんなの見せられなくちゃなんないのよぉ……寝れなくなっちゃうじゃない」
「あれ演技じゃなくマジだったんだね。本気でビビってたんだ」
「当たり前じゃない! あんな映像見せられて平気でいられるわけないでしょ」
「まぁ僕も得意な方ではないけどさ。上には上がいたとは」
「ううぅ、もうトイレもお風呂もお嫁にも行けない…」
「最後の関係なくない?」
クッションを抱きかかえたまま狼狽。普段の強気な姿勢が嘘のような態度だった。
「ああぁあぁあぁぁ、どうしようどうしようどうしよう…」
「平気だって、今この家には4人の人間がいるんだからさ。お化けもビビって近寄ってこないよ」
「べ、別に幽霊とかの存在を信じてるわけじゃないし…」
「……言葉と体の動きが一致してないのだが」
彼女をからかうネタが出来たのかもしれない。新たな脅迫材料が。
「実はね、華恋が寝泊まりしてるあの部屋……出るんだよ」
「な、何が?」
「前にこの土地に住んでいた女性の……いや、やっぱりやめておこう」
「ちょ、ちょっと! ハッキリ言いなさいよ」
「これ以上は言えない。知らない方が良いと思うから」
「ひいいぃぃっ!?」
耳元に近付いて囁く。明らかに嘘と分かるネタを投下。
「やだやだ、もうあそこの部屋に行けないじゃない!」
「大丈夫だって。夜中に目を開けさえしなければ何もされないから」
「目を開けるとどうなるの!? ねぇ!」
「……じゃあ僕そろそろ部屋に戻りますね」
「あ、コラッ! 逃げようとすんな」
質問には答えず振り返った。笑いを堪えきれなくて。
「本当に何にもないから。怖がりすぎだって」
「だ、だだだだって! もし変なのが出てきちゃったらどうするのよ!」
「玄関から入ってきたら一階にいる華恋が真っ先に狙われるね」
「ひいいぃぃっ!?」
2人きりになった空間で大騒ぎ。傍から見たらコントにしか思われないやり取りだった。
「アンタ……今晩、私が眠りにつくまで部屋にいて」
「え? 一緒の布団で寝るの?」
「そうじゃなくて枕元に座ってて。出来れば朝まで」
「どこの用心棒なのさ」
「だってそうでもしないと寝れそうにないし」
「はぁ…」
ガックリと肩を落とす。脳裏に浮かんだ都合の良いシチュエーションが外れて。
「そんなに嫌なら見なければ良かったのに」
「だって皆が集まってるのに別行動とか淋しいじゃない。部屋に1人っきりって方が怖いし…」
「知ってる? お化けって怯えてる人の所に集まってくる習性があるらしいよ」
「う、うわああぁあぁぁぁっ!!」
室内に幾度目かになる悲鳴が反響。それから30分程が経過した頃に入浴組が戻ってきた。




