16 家出と幽霊ー2
「やまないねぇ、雨」
「だねぇ」
週末の土曜日、貴重な休日だというのに朝からずっと部屋に引きこもる羽目に。原因は朝から続いている悪天候。
「てか何でここにいるの?」
「ダメ? ダメ? 良いでしょ、別に」
「自分の部屋に戻りなよ。勉強に集中出来ない」
「やだ~、今日はここにいる」
更に起きてからずっと隣の部屋の住人が居座っていた。両親や華恋が仕事でいないからか暇潰し目的で。
「香織もたまには勉強しなって。また赤点とるパターンになるよ」
「いや、ギリギリセーフだったじゃん。大丈夫大丈夫」
「前はセーフでも次は分からないから。ちゃんと前もって復習しときなって」
「ちゃ、ちゃんとテスト前になったらやるよ。だから今は勉強お休み中」
「いつもお休みなクセに…」
こうやって言う人間は大抵、土壇場になってもやらない。そういう友人を何人も知っているからだ。
「ん?」
「あれ? 誰か来たみたい」
「宅配便かな」
「もしかしてまーくんに会いに来た可愛い女の子だったりして」
「よし! ちょっと見てこよう」
意見をぶつけていると階下からインターホンを鳴らす音が聞こえてくる。持っていたペンをノートの上に放り投げながら素早く廊下へと移動した。
「う、うわああぁぁっ!?」
そのまま階段を下りようとするが足を滑らせて落下。壁に勢いよく激突してしまった。
「……いつつ」
強打した背中を押さえつつ玄関へと体を引きずる。腰痛持ちのおじいちゃんのように。
「はいはい」
「おっす!」
「え? 智沙?」
誰なのかを確かめずに扉を開けると赤い傘を差した人物を発見。その正体は駅から毎日一緒に登校している友人だった。
「……なんだ、可愛い女の子じゃなかった」
「あぁ!?」
「何か用? とりあえずこんな所で立ち話もなんだから帰りなよ」
「ほ~い……ってオイ!」
「ぐふっ!?」
ボケに対してツッコミが入る。軽めの肘鉄が。
「何それ?」
「お? これ?」
彼女の肩からブラ下がっているボストンバッグを発見。傘からはみ出ていたのか端の方が濡れてしまっていた。
「へっへっへ、秘密」
「ふ~ん。気になるなぁ」
「ところで今日っておじさん達いないんだよね?」
「ん? そうだよ。夜勤って言ってたから」
「ふむふむ、そうか」
質問の答えに対して納得する声が返ってくる。顎に手を当てて頷く動作と共に。
「ねぇ、今日ここに泊めてくれない?」
「え? いきなり何?」
「いやぁ、じつは家出してきちゃって」
「家出…」
そして続けざまに衝撃発言を口にしてきた。突発的すぎる提案を。
「香織も二階にいるから。とりあえず上に行こう」
「ん。華恋は?」
「バイト。今は僕達しかいないよ」
「2人でイチャイチャしてた訳か。禁断の兄妹ラブ」
「もうそのネタやめようよ。気まずくなる」
「え~、アタシの中では鉄板なんだけどなぁ」
訪問者を引き連れて階段を上がる。途中、後ろからシャツを掴まれたので転びそうになった。
「お客さんだよ~」
「ん?」
声をあげながら自室へと戻ってくる。ついでにノックも付け加えて。
「あれ? ちーちゃん!」
「かおちゃん!」
「もしかして私に会いに来てくれたの!?」
「そうよ。可愛い可愛い後輩の顔を拝みに来たんだから!」
「嬉しいぃぃぃーーっ!!」
「よしよし」
女子2人が大きな声を放出。恥ずかしげもなく熱い抱擁を交わした。
「あ~、疲れた。重かったぁ」
「家出してきたって本当?」
「家出!? 何々、なんの話?」
「それは今から本人が話してくれる」
一段落つくと用件を聞き出す事に。簡易的な事情聴取を開始した。
「ん~と、お母さんと喧嘩した」
「どういう理由で?」
「それは話すと長くなるんだけど。とりあえず今日1日だけ泊めてほしいのよ」
「う~ん、でも寝る場所がないし…」
彼女は母親と2人で暮らしている。詳しい経緯は不明だが母子家庭だった。
「あぁ、大丈夫。寝床は廊下貸してくれれば良いから」
「そんな事したら風邪引いちゃうって」
「ならこのベッドはどう? ここなら気持ちよさそう」
「ダメだよ。僕の寝る場所が無くなる」
「え? でも雅人はいつもかおちゃんの部屋で一緒に寝てるんじゃないの?」
「そうなんだよ。けど最近お漏らしが酷くて困っててさ」
「ちょっと適当な事言わないでよ!」
次々にボケを炸裂させながら盛り上がる。本筋から逸れまくった話題で。
「友達の家は? 泊めてもらうなら女子の方が良いでしょ」
「ダメダメ、突然だから断られまくっちゃった」
「ならやっぱりお母さんと話し合って仲直りしなよ。家出なんて良くない」
「や~よ、今日だけは絶対に帰らないんだから。もう着替えも持って来ちゃってるんだし」
「頑固だなぁ、もう…」
彼女は要領が良いのに融通が利かない。昔から頭だけは固かった。
その後も様々な反対意見を出すが聞き入れてもらえず。全てスルーされてお仕舞い。
「いいなぁ、一軒家」
「僕は人が近い団地やマンションの方が落ち着くけど」
「玄関を開ける音とか丸聞こえよ? 上から足音が響いてきたり、騒いだりしないように気を配らなきゃだし」
「好き勝手生活するには不便かぁ…」
ベッドや床に座って日常会話に花を咲かせる。友人が大量に持参してきたお菓子を片手に。
「ただいま」
「おかえり~、お疲れ様」
「あ、智沙さん来てたんだ」
「お邪魔してま~す」
しばらくするとメンバーが1人追加。バイトが終わって帰宅した華恋が中に入って来た。
「楽しそう。私も混ざって良い?」
「どうぞどうぞ。こんな場所で良かったら」
「いやいや、ここ智沙の部屋じゃないし」
「良いじゃない、細かい事なんか気にしなくても。ねぇ?」
「ねぇ」
皆で床に座ってお菓子を囲む事に。人口密度が高いせいかいつもより狭く感じてしまった。
「ベッドの上でお菓子食べないで。後片付けが大変だから」
「漫画読んで良~い?」
「手を洗ってからにしてくれ。ページが汚れちゃう」
「あ、ゴメン。床にジュースこぼしちゃった」
「拭いて拭いて」
「やっべ。これ雑巾かと思ったら雅人のトランクスだった」
「あぁあぁぁ、もぉおぉぉっ! 全員出ていってくれよぉっ!!」
女性陣が好き勝手に暴れだす。遠慮のないテンションで。
女子相手だが不思議と緊張感は無い。男友達と喋っている感覚だった。




