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15 偽妹とお兄ちゃんー5

「部屋に来たは良いが何するんすか」


「さぁ?」


「とりあえず腕離さない?」


「やだ」


「くっ付いてたいのは分かるけどさ、このままだと動きにくい」


「あ…」


 自室にやって来るとベッドに腰かける。隣同士で並んで。冗談めいた台詞をぶつけるが予想に反して戸惑うリアクションが返ってきてしまった。


「……ねぇ」


「は、はい」


「やっぱり男っぽい女って嫌い?」


「へ? なに、突然」


「すぐ手を出したり、乱暴な口調で喋ったり……そういうのってダメかな」


 困惑していると彼女が1つの疑問を投げかけてくる。脈絡の無さすぎる話題を。


「ダメっていうか、あの……どうしていきなりそんな事を聞いてくるの?」


「……私さ、男子に告白されたじゃん」


「あぁ、3年生の先輩にね」


「学校じゃ大人しくしてるからそれはまだ分からなくもないんだけど…」


「ん?」


「アンタは私の家での態度を知ってるわけでしょ? 変な趣味の事とか」


「自分で変って言わなくても…」


 きっとアニメやコスプレの事を指しているのだろう。あまり大声を出して自慢出来ない活動を。


「それなのにアンタは私の事を好きって言ってくれた。それが良く分からなくて…」


「いや、だからその言葉に深い意味はなくて」


「で、でもさ! 自分で言うのもおかしいけど、普通こんだけ邪険に扱われたら嫌いにならない?」


「……確かに」


「でしょ? なら何でアンタはいろいろ優しくしてくれるの? 納得出来ないんだけど」


「う~ん…」


 そう言われたら不思議だった。指摘された通り普通は険悪な関係になっていてもおかしくはない。


 事あるごとにすぐ暴力。何かあれば本人の意向を無視した強制命令。例え相手が恋人や親友だったとしてもこんな扱いをされれば嫌になるのが必然だった。


「誰にでも優しくしろってのが母さんの遺言だから」


「……は?」


「だから例え華恋が残虐非道で傍若無人な性格だとしても僕は普通に接してあげるのさ」


 口から適当な言葉を発する。本心を濁すように。


「そういうボケはいらないから。私は真面目に聞いてんのよ」


「ボケとは失礼な。大真面目だし」


「真剣な話だっつってんでしょうが! ちゃんと答えなさいよね」


「だから何度も言うけど…」


 ふと横にいる彼女と視線が衝突。そこにあったのは今までに見た事がない真剣な眼差しだった。


「えと、その…」


 適当にはぐらかそうと思っていたのに。その表情を見て意識の中に疑問が発生してしまった。


「……だからだよ」


「ん?」


「華恋の事が好きだから」


「……それはやっぱり家族として?」


「う~ん、どうなんだろう」


 頭を捻るが出せない。この疑問を納得させるような明確な答えが。


「どっちなの? ハッキリしてよ」


「心の中がモヤモヤしてて分からない」


「あぁ……やっぱりダメだ、この男」


「そっちはどうなのさ。なんでいきなりそんな質問してきたの?」


「そ、それは…」


「人に尋ねる前に自分が答えておくれよ」


「え~と…」


 取り調べから逃げ出すように攻守を逆転させる。対話相手の肩を掴んで同じ質問をぶつけた。


「教えて」


「い、言えない…」


「黙秘権はダメだよ。答えるまで部屋から出さないから」


「そんな……実力行使ってズルくない?」


「散々人を問い詰めといて、いざ自分が質問されたら逃げるのはズルくないの?」


「だ、だって…」


「好きか嫌いかで言ったらどっち?」


「くっ…」


 静かな攻防戦を展開する。刑事と犯人を入れ換えたやり取りを。


「私は……アンタのこと嫌い」


「あ…」


「だから離して」


 強気な姿勢を貫いていると彼女が小さな声で呟いた。期待とは正反対の答えを。


「ゴメン、私が変なこと聞いちゃったせいで」


「い、いや……こっちこそ無理やり問い詰めて悪かったよ」


「……ん」


 部屋に気まずい空気が流れる。1時間ほど前の砕けた関係からは考えられないような雰囲気が。


「アンタも私のこと嫌いになって良いよ。気を遣ってくれなくても」


「え?」


「やっぱり嫌でしょ? 私みたいな女」


「別に…」


 嫌いになれと言われて気持ちを動かせるほど人間の心は器用ではない。好意も嫌悪も本能に従っての行動だからだ。


 今のやり取りを記憶の中で無かった事にしようとする。しかし心に受けた動揺は止められなかった。


「やっば!」


「……え?」


「ちょっと、どいてどいて」


「な、何?」


「立って、ほら早く」


 落胆しているとドアノブに手をかけていた華恋が振り返る。何故か慌てた様子で。


「香織ちゃんが来ちゃった。アンタ、適当にごまかしといて」


「え? え?」


 そのままベランダへと移動。干してあった布団を回収したかと思えば豪快にベッドへとダイブした。


「げっ!」


 耳を澄ませると確かに聞こえてくる。階段をゆっくりと上がってくる音が。


「うぉっと! どうしたの?」


「あ、やっぱり帰ってたんだ」


「うん、さっきね。香織は寝てたみたいだから起こさなかったけど」


 すぐさま扉の前に移動。体を使ってシールドを張った。


「まーくん、1人?」


「そだよ。何で?」


「華恋さんは? 下にいないんだけど」


「あ……えと、また出かけるって言ってどこか行っちゃった」


「へぇ、そうなんだ」


 会話しながらも訪問者が隙間から中を覗こうとしてくる。姿勢を上下左右に動かしながら。


「そういえばもうご飯食べた? 蕎麦とパイシューなら冷蔵庫に入ってるよ」


「あ、まだ食べてないや。なら今から食べようかな」


「そっかそっか。じゃあ食てら」


「まーくんは? お昼まだだよね?」


「え? そ、そうね」


「じゃあ一緒に食べよ。お腹空いちゃった」


「……よ~し、遅めの昼食をとるとしますかね」


 本当は空腹なんか感じていない。けれどここで誘いを断れば駆け引きが長引いてしまうだけ。躊躇いはあったが一階へと下りる事にした。


「え~と…」


 冷蔵庫からコンビニで買ったきた食料を取り出す。ペットボトルのお茶で口の中を潤すとカツサンドの袋を急いで開封した。


「ちょっと、そんな一気に食べて大丈夫なの?」


「モゴモゴモゴ」


「喉につっかえちゃうよ。慌てて食べなくても盗ったりしないのに」


「うげっほ!?」


「ぎゃーーっ、汚い!!」


 しかし無理やり口に放り込んだせいか途中で盛大に吹き出す羽目に。テーブルの上は悲惨な状態になってしまった。


「あのさ、今から猛烈に勉強するから部屋には入って来ないで」


「え? どうしたの、急に?」


「集中したいんだよ。分かった!?」


「わ、分かった」


 食べ終わった後はテーブルに手を突いて勢い良く立ち上がる。牽制の言葉を場に残しながら。


「ゲプッ…」


 飲みかけのお茶とゆでたまごを持って廊下へ。階段をゆっくりと上がると二階に戻ってきた。


「……何これ」


 部屋に入った瞬間ある違和感に気付く。不自然に盛り上がっている布団の存在に。


「お~い、起きなって。いつまで隠れてるのさ」


「ちょっと座んないでよ。重たいじゃない!」


「1つ残念なお知らせがある。外から見たらバレバレだよ、コレ」


「え? マジ?」


 押し潰すようにその上に着座。中からは間抜けな忍者が姿を現した。


「どうして前みたいにベッドの下に隠れなかったの?」


「だって狭いし。胸が挟まって窮屈なんだもん」


「サイズ大きいですもんね」


「セクハラか、この野郎っ!!」


「うわぁっ!? すいませんすいません!」


 乱暴に胸倉を掴まれてしまう。顔に唾がかかる距離まで引き寄せられながら。


「もしかしてさっき香織ちゃんに見られちゃったかな?」


「大丈夫じゃない? それより下からゆでたまご持ってきたけど食べる?」


「お、サンキュー」


 コンビニ袋から透明なパックを取り出した。先程購入したばかりの食料を。


「おいひぃ」


「コンビニのゆでたまご食べてる人とか初めて見たよ」


「そう? 結構イケるけど」


「オッサンみたいな女子高生だ」


「うっさいな。ちょっとそのお茶ちょうだい」


「え? いや、これは…」


「いいから、ほらっ!」


 伸ばしてきた手に強引にペットボトルを奪われる。彼女はキャップを外すとそのまま口をつけた。


「んぐっ、んぐっ」


「あ…」


 躊躇う事なく一気飲み。その様子を隣で黙って観察した。


「はい、サンキュー」


「……うん」


「あぁ、美味しかった。でもこれからどうしよう」


「とりあえず下に戻ったら?」


「私、出かけてる設定だから見つかるとマズいんだけど…」


「あ、いけね。そういやそうじゃん」


 もうコレは彼女をベランダから突き落とすしかないのだろうか。アリバイ工作の為に。


「……はぁ」


「とりあえず香織には部屋入って来るなって言っておいたからさ。しばらくここにいれば良いよ」


「そう。ありがと」


「ん…」


 気を遣う発言をするが会話は途中で座礁。つい数分前まで気まずい話をしていたのだから当たり前だった。

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