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15 偽妹とお兄ちゃんー4

「……ん?」


「げっ!」


 廊下の方から何かが聞こえてくる。誰かが階段を下りて来ている音が。互いにすぐその異変に気付き、慌てて距離を置いた。


「ふぁあ……はよ」


「お、おはよ」


「あれ? 2人とも起きてたんだ」


「……まぁね」


「ふ~ん…」


 寝ぼけ眼の香織と目が合う。明らかに疑惑の念を抱いている鋭い眼差しと。


「2人で何してたの?」


「いや、特には。ね?」


「う、うん」


 続けて質問が飛んできた。明らかに異変を察知しているであろう台詞が。


 万が一さっきの失態を目撃されていたらマズい。今の自分達に出来るのはバレてないように祈る事だけ。


「さ~て、部屋に戻ろうかな」


 ワザとらしい独り言を発する。ソファから立ち上がるとリビングを脱出した。


「くっ…」


 そのまま階段を上がって自室へ。外界との接触を断つように勢い良くドアを閉めた。


「ひいぃいいっ!」


 ベッドのシーツに顔を埋める。声が漏れないように口元には枕を押し当てて。


 先程のやり取りはどう考えても普通ではない。冷静になってみてどれだけ異常事態だったのかを思い知らされた。


「……ん?」


 悶え苦しんでいると何かが聞こえてくる。ドアをノックする音が。


「どっちだろう…」


 両親は不在なのだから選択肢は2つしかない。訪問者を確かめる為にベッドから起き上がった。


「うぉっと!?」


 しかしノブに手をかける前に扉が開いてしまう。訪れた人物の手によって。


「な、なんで1人で逃げちゃうのよ!」


「別に逃げたわけじゃ……ていうか華恋までココに来たらマズいし」


「だって…」


「下に戻ろう。今は2人一緒にいるのヤバい」


 掴まれた肩が痛い。力の込め方が目の前にいる人物の焦り具合を表していた。


「やだ、アンタも一緒に来てよ」


「だから2人揃ってるのがマズいんだってば。それぐらい分かるでしょ?」


「……恥ずかしくてあの子を面と向かって見れない」


「同じく…」


 お互いに過剰なスキンシップを反省。溢れてくる羞恥心と葛藤する羽目に。ただ部屋に一緒に籠もっている訳にはいかないので再びリビングへと戻る事にした。


「あれ? もう下りてきたの」


「う、うん。華恋がご飯作ってくれるって言うからさ」


「そういえばもうお昼だね。私もお腹空いてきちゃった」


 適当に嘘をつく。ラーメンを食べたばかりなのだからお腹は空いていないのに。


「香織は何食べたい?」


「ん~、特には。ていうか作るの華恋さんでしょ?」


「ラーメンぐらいならお兄ちゃんでも作れるぞ」


「私でも作れるよ。お湯入れるだけだもんね」


「コンビニ行って来る。サンドイッチ食べたくなってきちゃった」


 とりあえずこの場にいたくない。面倒な外出をしても構わないので家から出たかった。


「あ、ならついでにソバも買ってきて」


「おっけ」


「あとパイシューもお願い」


「へいへい」


「それから優しいお兄ちゃんも欲しいなぁ」


「幻想だから諦めて」


 注文を聞くと頭の中にインプットする。貴重品を持って玄関へと移動した。


「あの、私も付いて行きます」


「え? 1人で大丈夫だから留守番しててよ」


「いえ、付いて行きます」


「……マジっすか」


 靴を履いていると華恋が追いかけてくる。正直、同行はしてほしくないのだが不毛な言い争いをする方がマズいので提案を受諾した。


「ふぅ…」


 外に出ると明るい光が視界に飛び込んでくる。目が眩んでしまうような日差しが。天気は良いが気分は晴れ晴れとしない。その原因は自身の置かれている状況だった。


「な、なんか喋りなさいよ!」


「そっちこそどうしてずっと無言なのさ」


「アンタが黙ってるからでしょうが。普通、こういう時は男が気を遣って声かけるもんなんじゃないの?」


「自分で付いて来るって言い出したクセに」


「うぅ…」


「……はぁ」


 隣からは乱暴な台詞が飛んでくる。恥ずかしさを悟られたくない心境が窺える言葉が。家を出た瞬間から互いに無口に。歩幅も微妙にズラしていた。


「あっ!?」


 思わず駆け出す。気まずい空間から逃げ出そうと。


「待ちなさい、コラ! 何で逃げるのよ!」


「げっ!」


 その瞬間に背後から彼女が追いかけて来た。近所迷惑も考えずに喚き散らしながら。


「ハァッ、ハァッ…」


「ゼェ、ゼェ…」


 結局、そのままの状態でコンビニへと辿り着く事に。2人して入口で息を切らせた。


「ん、んんっ」


 同世代と思しき店員さんから好奇な眼差しを注がれる。ごまかすように咳払いをすると店の奥へと進んだ。


「華恋も食べたい物ある?」


「ん~、ゆでたまご」


「し、渋い…」


 さすがに店内では口論を繰り広げたりはしない。あらかた商品をカゴに入れ終えるとレジで精算した。


「ごめん、先に帰ってて。立ち読みしてから帰る」


「え? ちょっと…」


「1人で持てるでしょ? 任せた」


「じゃあ私も立ち読みしてく」


「え? いやいやいや」


「人に荷物持たせて楽しようなんて、そうはさせないわよ」


「ぐっ…」


 袋を押し付けるが空気を読んでくれない。仕方ないので5分ほど意味のない読書をして店を出た。


「アンタ、さっきは何で突然走り出したりしたのよ?」


「いやぁ、最近体が鈍ってるから運動したくなって」


「嘘つけっ! 私から逃げ出したかっただけでしょうが」


「……分かってるなら聞いてこないでよ」


 どうやらワザと残っていたらしい。真意を理解した上で。


 彼女が一歩だけ近付いて来る。そのままシャツを力強く握り締めてきた。


「ア、アンタも共犯なんだから1人で逃げ出そうとするんじゃないわよ」


「はい…」


 逃走出来ないよう捕まえられたまま歩く。平和な昼下がりの住宅街を。




「こんな所にオッサンがおるぞ」


「……が~」


「うわっ、よだれ垂らしてる」


「何か体にかけてあげなさいよ。お腹出てるから風邪引いちゃう」


「ほ~い」


 帰宅するとソファに大の字で寝転がっている妹を発見。タンスからブランケットを持ってきて腹部に被せた。


「よし…」


 華恋は買ってきた食料を冷蔵庫に仕舞っている。屈んでいるのでこちらは見ていない。逃げ出す絶好のチャンス。足音を立てないように廊下を歩いた。


「……どこに行くつもりかしら、雅人くん」


「ちょ、ちょいとお友達の家に遊びに」


 しかし靴を履いている途中で背後に人の気配を察知する。振り返った先にいたのは冷たい目をした同居人だった。


「あらあら、私はそんな情報知らないわよ。今日は1日中ヒマだと聞いた気がするのだけれど」


「あれ? おかしいな。ちゃんと予定が入ってると言っておいたハズなのに」


「それは私と遊ぶ約束でしょ。もぅ……なに寝ぼけた事言ってるのよ、お兄ちゃんは」


「いててっ!?」


「あ、ゴメ~ン。ちょっと力入れすぎちゃった」


「絶対わざとでしょっ!」


 彼女の伸ばしてきた手が腕を固定。更に締め付けるようにギリギリと捻ってきた。


「ねぇ、頼むよ。家にいたくないんだってば」


「だからって逃げようとすんな。男でしょ、アンタ」


「……今だけ女になりたい」


「なんなら私が蹴り潰してあげましょうか?」


「ひいいいぃ!?」


 脅迫の言葉に思わず身を竦めてしまった。両足をガクガクと震わせながら。


「あの……二階に行って良い?」


「あぁん?」


「リビングより自分の部屋にいたい」


 伸ばした人差し指で頭上を指す。身動きが取れないながらも精一杯に抵抗の意思を示してみせた。


「ベランダから逃げるかもしれないからダメ」


「そんな事しないってば!」


「スニーカー燃やしておこうかしら」


「や、やめてくれよ!」


「両手両足を縛って、口をガムテープで塞いでも良いなら1人にしてあげる」


「それは監禁と言って犯罪の部類に含まれるんですが…」


 どうやら外出だけでなく自宅を自由に動き回る事もダメらしい。まさに絶体絶命の状態だった。


「でも下は香織がいるから嫌でしょ? いくら寝てるとはいえ」


「う~ん…」


「やっぱり二階だって」


「……仕方ないわね」


 リビングへと動かしていた足を階段の方へ向けなおす。方向転換するように。


「ちょっ……どうして付いてくるの?」


「またアンタが逃げるかもしれないからに決まってんでしょうが」


「そんな事しないって。部屋で大人しく漫画読んでるからさ」


「さっきは走って逃亡しようとしたじゃない。信用出来ない」


「えぇ…」


 けれど何故か華恋まで同行。監視をとことん徹底してきた。

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