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15 偽妹とお兄ちゃんー3

「あの……これいつまでやるの?」


「今日ずっと」


「そ、それはやめようよ。誰かに見られたらヤバいって」


「じゃあ皆がいない時だけ離れる」


「食事の時とかどうするのさ。動きにくいよ?」


「あ、そういえば朝ご飯まだだね。なんか食べる?」


「んと…」


 時計を見ると起きてから既に1時間近くが経過していた事が判明。さすがにそろそろ胃に何かを入れないと力が出ないだろう。


 リクエストを出されたのでラーメンと答える。陽気にキッチンへと駆けて行く後ろ姿をソファに座ったまま見送った。


「お待たせ~」


「お?」


 しばらくすると完成を表す声が飛んでくる。振り向いた先には湯気の昇っている熱々の丼があった。


「美味しい?」


「うん。ジューシー」


「ほうほう。ちょっと貰って良い?」


「いや……ダメです」


「なんでよ?」


 彼女と向かい合う形で食事する事に。ご機嫌で箸を進めていると理解不能な提案を持ちかけられた。


「ちょうだい!」


「やだ」


「よこせぇえぇえぇぇっ!!」


「ダメって言ってるじゃないか。兄貴の言うこと聞きなって」


「兄貴なら妹に優しくしなさいよ」


「そんなに食べたいならもう1つ作れば良いじゃん。まだ余ってたハズだし」


「お兄ちゃんのが食べたいの」


「……え」


 突き放そうとするが追撃の台詞を浴びせられる。手の動きを止めてしまうような言葉を。


「隙あり!」


「ちょっ…」


 直後に彼女が箸を強奪。ついでに丼の中の麺も奪われてしまった。


「あ、美味しい」


「……良かったね」


「私、やっぱり料理の才能あるかも」


「即席のラーメンなんだから誰が作っても同じですぜ」


 1つの食器類を使って食べ物を共有する。丼を空にした後は再びソファに移動した。


「……どうしてまたくっ付いてるの?」


「え? ダメ?」


「ダメっていうか…」


 しかし何故か再び密着する事に。情報番組が映し出されているテレビを前に。


「にゃ~ん」


「あ、あのさ……純粋な質問していい?」


「なぁに?」


「妹になりきるってのは分かったんだけど、ここまでやる必要ある?」


「ん~」


「いくら何でも過剰すぎると思うんだけど。今のコレとか」


「んん…」


 不透明な状況を直球に質問する。流されるだけの展開に精神が耐えられなくなっていた。


「お、お兄ちゃんの事が好きだから」


「いやいや…」


「だからだよ。こうやってずっと引っ付いていたいのは」


 しかし返ってきた答えにまたしても混乱が加速する。発言内容が有り得なさすぎて。


 とはいえ理屈と感情は必ずしも一致する訳ではない。彼女の台詞が引き金となり心の中で何かが弾けてしまった。


「こいつぅ~」


「えっ!?」


「うりうりうり~」


「ヤダ、ちょっと…」


 伸ばした手で掻き乱す。長くて綺麗なサラサラヘアーを。


「うりゃーーっ!」


「や~ん、髪の毛グチャグチャになっちゃう」


「なっちゃえ、なっちゃえ」


「やめてよ!」


 調子に乗るなと殴られるかもしれない。そう覚悟してのご乱心だった。


「ほらぁ、セット乱れちゃった」


 起き上がった彼女が前髪を整える。不機嫌な表情を浮かべながら。


「ん…」


 さすがにマズかったらしい。制裁を覚悟していると予想とは違う事が起きた。


「もっと頭ナデナデしてぇ」


「え?」


「だから頭。ナデナデして……ください」


 彼女が再び体に腕を回してくる。甘ったるい声を出すのと同時に。


「……これで良いの?」


「にゃ~」


「まるで猫みたいだ」


「にゃ~、にゃ~」


 リクエスト通りに頭を撫でてあげた。先程とは違い優しい手付きで。


 もしかしたらコレは何をやっても怒らないのかもしれない。そう理解した瞬間、気分がハイテンションになった。


「もう良い? 満足?」


「ダメぇ、まだまだ撫でてぇ」


「ワガママな猫だ」


「猫じゃないよ、妹だよ」


「ふぅ…」


 頬の緩みが止められない。きっと今の自分の顔を鏡で見たら不気味な表情を浮かべているのだろう。


「こちょこちょこちょ」


「やぁだっ、もぅ!」


「くすぐったい?」


「くすぐったいよ。お腹はやめて、お腹は」


 続けて過剰なボディタッチを開始。普段ならブッ飛ばされているようなセクハラ行為だが怒りの声は飛んでこなかった。


「凄く楽しい。小学生の頃に戻ったみたい」


「あっはははは、私も」


「こうしてるとさ、バカップルみたいだよね」


「はぁ?」


 ついうっかり大胆な単語を口に出してしまう。その言葉に反応して彼女の動きがピタリと停止した。


「いや、例えよ例え。別に変な意味じゃなくて」


「も~、カップルじゃなくて兄妹でしょ。何言ってるのよ、お兄ちゃんは」


「そ、そうだったね……はは」


 睨み付けてきたが態度は変わらない。奇妙な状況は相変わらず継続した。


「うへへ…」


 妹になると言われた時は何を考えてるんだと思った。怒りもしたし呆れもした。


 けれど今はこのシチュエーションを楽しんでいる。心の奥底から。


 ただあまりにも夢中になりすぎて忘れていた。もう1人の妹の存在を。

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