14 手紙と告白ー7
「ふぅ…」
翌日は約束を実行するため教室で待機する事に。華恋や日直当番には先に外へ出てもらい1人きりで。
藤崎という先輩が来たら伝言を伝える。やっぱり付き合えませんと。
「まだかな…」
教室の時計をチラチラ見ながら時間を潰していた。外から聞こえる運動部の掛け声をBGMに。
「……あ」
そして20分程が経過した頃に状況が変化する。見覚えのない男子生徒が入口に姿を現した。
「あの、藤崎先輩ですか?」
「え?」
「ち、違いますか?」
「いや、えと…」
席から立ち上がって話しかける。声を震わせながら。
「すみません。僕、白鷺さんの代理で…」
「え?」
「彼女の代わりに返事をしに来ました」
「は、はぁ…」
戸惑っている反応で本人と確信。続けて要件を切り出した。
「実はその…」
「彼氏ですか?」
「へ? 違います。ただの知り合いで…」
「ダメって事ですよね。わざわざ代理をよこしたって事は」
「えと、まぁ……はい」
どう告げようか迷っていると相手に先に答えを言われてしまう。どうやら振られたと気付いてしまったらしい。
「はは……多分、ムリだろうなとは思ってましたから」
「すみません」
「いや、呼び出したのは僕の都合なんで。こちらこそすみませんでした」
「はぁ…」
玉砕したというのに悪態をつかない。彼からは修羅場に慣れていそうな雰囲気が溢れ出ていた。
「わざわざありがとうございます。彼女を大切にしてあげてください」
「ど、どうも…」
「それじゃあ」
そして一礼すると廊下へと引き返す。去り際に勘違い満載な発言を残していきながら。
「大人だ…」
見た目も中身も格好いい。華恋が言っていた通り爽やかさ溢れる好青年だった。
「ふいぃ…」
1人教室で立ち尽くす。終わってしまうと案外呆気なかった。待機中はガチガチに緊張していたのに。
用を済ませた後は教室の施錠をして退出。職員室へ鍵を返して外に出た。
「お~い」
「……あ」
「お待たせ」
「ど、どうだった? 上手く断れた?」
「もち。バッチリよ」
校庭脇にいた待ち人に声をかける。右手でOKサインを作りながら。
「そ、そっか」
「凄い爽やかな人だった。好青年って感じ」
「あ、うん。イケメンだったでしょ」
「男の自分でも見惚れるぐらいの面構えだった」
少女漫画にでも登場しそうな美形。自分がもし女だったら速攻でなびいてるかもしれない。そう思わせるだけの好印象な先輩だった。
「なんか損した気がする。あんな良い人を振ってしまうなんて」
「別に損なんかしてないわよ」
「うわっ、凄まじく嫌味なセリフ。私はいつでもあのレベルの男と付き合えますよってか」
「ちっがあぁぁーーう! 誰もそんなこと言ってないし」
「当選した宝くじを捨ててしまったような気分だ。もったいない」
「そんなに心残りがあるのならアンタが付き合ってみなさいよ」
「あっ、ならそうします」
振り返って引き返す素振りを見せる。しかしすぐに後ろから首根っこを掴まれてしまった。
「冗談よ。本気にするな」
「分かってるよ。こっちだって男なんかお断りだ」
「もしアンタが野郎と付き合い始めたらマジで縁を切るからね」
「……冷たい」
普段通りの乱暴な口調が飛んでくる。ついでに鋭い目つきも。どうやらいつもの華恋が戻ってきたらしい。
「でも、ま……これで無事にミッション達成出来たわけだ」
「そうね、助かっちゃったわ。ありがと」
「後は何でもお願い事を叶えてくれる権利だけが残ってるね」
「……くっ」
校外に出ると本題に突入。その瞬間に隣の人物の表情が苦々しい物へと変化した。
「どんな内容にしようかなぁ」
「な、何の事かしら」
「とぼけても無駄だよ。約束だから、コレは」
「ちぇっ…」
更に舌打ちまで飛ばしてくる。取り決めを反古しようとする台詞と共に。
「やっぱり無かった事に出来ない?」
「出来ないっていうか、そんな事になったら僕のさっきの頑張りが無駄になる」
「む~」
「自分で言い出したんじゃないか。約束は約束だよ」
反論はしてみたものの無策の状態。昨夜、ベッドの中で様々な妄想をしてみたのだが特に思いつかなかった。ロクな考え以外。
「言っとくけどエロいのは無しだかんね」
「分かってるって。そんな事お願いして、もし母さんにバレたら何て言われるか」
「家まで鞄を持ってあげるってのはどう?」
「そんなの嫌だよ。全然嬉しくないし」
「じゃあ部屋の片付けしてあげるとか」
「それはダメ。許さない」
「なら…」
「どうして勝手に決めようとしてるのさ。自分で考えるからいいって」
このままだとうやむやにして終わらされそうな予感がする。彼女の性格を考えたら。
「う~ん…」
駅へとやって来た後は改札をくぐってホームに移動。電車に乗ってからも思考を働かせ続けていた。
「ねぇ、アンタって妹属性なんでしょ?」
「へ?」
「なら明日1日だけ妹になってあげるってのは?」
「えぇ…」
「お兄ちゃんって呼んであげる。それなら良いでしょ?」
「……妹」
悩んでいると思いがけない提案を持ちかけられる。台詞に反応してその時の状況を想像。華恋に慕われている光景を思い浮かべた。
「いや、やっぱり却下で」
「な、なんでよ?」
「だってもう妹ならいるし。それに華恋にお兄ちゃん呼ばわりされると背中がゾワッとするもん」
「はぁ!?」
「だから別のを考える」
せっかくなので少しでも有効に使いたい。便利な権限なのだから。
「私の妹役のどこが不満だって言うんだ、コラァッ!!」
「ぐわぁっ!?」
「ハッキリ言ってみろ!」
「こういう所だよぉぉぉ!」
隣から飛んできた手が胸倉を掴む。至近距離で罵声を浴びせられた。
その後も2人して何度も意見を交わす事に。けれど結局、何も決まらないまま家へと帰り着いてしまった。




