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14 手紙と告白ー6

「お?」


 帰宅すると自室に引きこもる。そして大した時間も経っていないタイミングでドアをノックする音が反響した。


「ただいま~」


「……なんだ、こっちか」


「何よ……私は帰って来たらダメなの?」


「いや、悪かった。おかえり」


 廊下に立っていたのは期待していた人物ではなく妹だった。調理実習でお菓子を作ったのでお裾分けに来てくれたらしい。


 結局、華恋が姿を見せたのはそれから約1時間後。彼女は帰宅するなり部屋に籠もりきりとなっていた。


「どうしようかな…」


 わざわざ足を運んで経緯を尋ねるのもおかしいだろう。朝に軽くケンカしたばかりなのに。気にはなるがスルーする方針で決定。意識の中から手紙の興味を消し去った。


「……えぇ」


 しかし忘れようとしているタイミングで話題を振られる。同居人から部屋へ来てほしいという内容のメッセージが送られてきてしまった。


「う~ん…」


 悩みはするが無視するわけにもいかない。恐れているのは理不尽な報復。


 廊下に出ると転ばないように階段を下りて一階へ。ソワソワする気持ちと葛藤しながら客間へと向かった。


「き、来たよ!」


 外から呼びかける。少しばかり張り上げた声で。


「……あ」


「入っても良い?」


「う、うん」


 返事がないので自分で襖をスライド。中には正座している華恋の姿があった。


「また何かの相談?」


「まぁ…」


「とりあえず座った方が良い?」


「あ……うん」


「よいしょっと」


 許可を貰ったので腰を下ろす事に。仕返しや脅迫を警戒しながらも。


「えと、えと…」


「ふぅ…」


「……その」


「ん?」


「何ていうか…」


 どんな発言をされるかを待ち構える。なのに彼女はなかなか言葉を発してはくれなかった。


「はぁ…」


 このままでは埒があかないと判断。仕方ないので意地悪作戦を実行した。


「話がないならもう戻るよ」


「え!? ちょっと待ってよ」


「だっていつまで経っても用件言わないじゃん」


「そ、それは…」


「あんまりこの部屋に長居したくないんだけど。華恋だってそうでしょ?」


「ぐっ…」


 なんとなく呼び出された理由は分かってくる。手紙の相手に関する相談だろう。正直、聞きたくなかった。羨ましいし妬ましいだけだから。


「これ……今日、下駄箱に入ってたヤツ」


「見ていいの?」


「……うん」


 さっさと出て行ってしまおう。そう思っていると目の前に1枚の封筒が登場した。


「あ、やっぱダメ」


「うわ!?」


 しかし伸ばした手は空振りに。掴む前に引っ込められてしまった。


「見られるの恥ずかしい…」


「ずっこけるとこだったじゃないか!」


「あの……さ。私、今日この手紙の人に会ってきた」


「え? これ書いた相手に?」


「……ん」


 問い掛けに対して彼女が目線を逸らす。頬を赤らめながら頭を上下に動かした。


「放課後の教室に残っていてほしいって書いてあって。だからずっと待ってたの」


「それから?」


「つ、付き合ってほしいって」


「あぁ…」


 問い掛けに対して返ってきたのは予想通りの内容だった。やはり告白されていたらしい。


「じゃあ華恋はどう答えたの?」


「明日まで待ってほしいって…」


「明日……保留って事?」


「……うん」


 ゆっくりと会話を進める。穏やかな口調を意識して事情聴取を執り行った。


「なら相談ってのはその事について?」


「まぁ…」


「いや、それは自分で考えなよ。こっちに相談されても困る」


「そうじゃなくて代わりに断って来てほしいの」


「へ?」


 俯いていた彼女が顔を上げる。膝に手を添えたまま。


「代わりに振ってこいって事?」


「そう」


「え、え……つまりその差出人と付き合う気はないって事?」


「当たり前じゃん。なに言ってんのよ」


「あ……そうなんだ」


 てっきりどうするかの協議だと思っていたのに。どうやら既に答えを出していたようだった。


「また明日も放課後に教室に来るって言ってたから、その時に…」


「ちょっと待って。その人と付き合うつもりなんか無かったんでしょ? ならどうして断ってこなかったの?」


「そ、それは…」


「明日に引き伸ばしなんて手間のかかる事しなくてもさ。呼び出された時にハッキリ付き合えませんって言えば済んだ話じゃないか」


「私だってそうしたかったわよ。でも…」


「でも?」


「やっぱり恥ずかしいし…」


「……小学生ですか」


 態度が覚束ない。行動の節々が不自然で不審。


「ア、アンタに断ってもらおうとしたの。なのにアンタ、サッサと先に帰っちゃうし」


「人のせいにしないで…」


「だって昨日言ったじゃん。私の事、す、す…」


「それは忘れて! 出任せだから」


「……出任せ」


「いや、出任せって言うか勢いでついポロッと出ちゃった言葉って言うか…」


「は?」


「ほら、アレだよ。子供がカレーライス好きとか、動物好きっていうアレ」


 威圧的な視線が飛んでくる。狼狽える側が入れ替わっていた。


「じゃあ昨日のはウソ?」


「嘘じゃない。嘘はよくつくけど」


「……どっちなのよ」


「好きは好きだけど、その手紙の持ち主の好きとは違うって事さ」


 彼女の意識を逸らすように手を伸ばす。目の前にあった白い封筒に向かって。


「華恋だってそうじゃん。アニメとか漫画とかコスプレとか、みんな好きでしょ?」


「うん…」


「そんな感じ。だからあまり深く考えないで。ね?」


「……分かった」


「ふぅ…」


 どうやら拙い言い訳に納得してくれた様子。一瞬、また拳が飛んでくるんじゃないかとヒヤヒヤした。


「なら私どうすれば…」


「ハッキリ付き合えませんって言ってきなよ。それか教室に残らずさっさと帰ってしまうか」


「バックレろって事?」


「だね。そうすれば向こうも振られたんだと気付くだろうし」


「それはヤダ……変な噂流されたら困るし」


「あぁ、そっか」


 失恋した男がヤケになって悪評を流すかもしれない。ある事ない事、様々な情報を。


「やっぱりお願い。アンタ、代わりに断って」


「えぇ……それはちょっと」


「アンタしかいないのよ。こういう頼み事が出来るの」


「けどそれ相手の人に悪いし…」


「一生のお願い! やってくれたらアンタの言うこと何でも聞いてあげるからさ」


「へ?」


 なぜ男が男にゴメンナサイとしなくてはならないのか。そんな悲しいシチュエーションを浮かべているとまたしても別の提案を持ちかけられた。


「本気で言ってるの、それ?」


「も、もちろんよ。当然じゃない」


「じゃあ、お風呂で背中流してくれって言ったらやってくれるわけ?」


「……アンタがやってほしいのなら」


「マジすか…」


 一体何を考えているのか。ボケに対してツッコミすら返ってこない。


「いつもの嘘じゃなくて!?」


「私を狼少年みたいに言うなや」


「うぇぇ…」


 あまりにも出来すぎた展開。ただ代わりに男を振るだけで魔神のランプを手に入れられるなんて。豪華すぎるお礼につい頬の筋肉が緩んでしまった。


「ほ、本当に何でも言うこと聞いてくれるんだよね!?」


「……うん」


「よ~し」


「え? ならやってくれるの」


「まぁ、そんな簡単な事で良ければ」


「やった!」


 確認作業を終えると決意を固める。思考を下心に塗れさせながら。


「ちょっ!?」


「嬉しいっ、ありがとぉ!」


「あ、あの…」


「あははははっ!」


 直後に彼女が急接近。首に腕を回して抱き付いてきた。


「と、とりあえず離れて」


「あっ……ゴメン」


「いや、大丈夫」


 もったいないとは思いながらも引き離す。なるべく体に触れないように気をつけて。


「ちなみにその相手って違うクラスの人?」


「うん。ていうか3年生」


「え? 先輩なの?」


 彼女は部活動に参加していない。それなのに上級生に目を付けられるとはどういう事なのか。


「だから余計に断るのが怖くて……変な事されちゃったらどうしようかとも思っちゃったし」


「あぁ、なるほど」


「ビクビクしながら待ってたけど意外に紳士的な先輩で助かっちゃった」


「へぇ、イケメン?」


「まぁ……そこそこイケてたかな」


 よっぽど顔に自信がなければ接点の無い人間に告白しようだなんて思わないだろう。ドラマに出てくる二枚目アイドルを思い浮かべた。


「でも本当に何でも言うこと聞いてくれるの?」


「しつこいな。だからそう言ってるじゃん」


「だってもし僕が理不尽な要求をしたらどうするのさ」


「それは大丈夫よ」


「なんで?」


「だってアンタなら変なお願いしてこないと思うし。私の中でアンタは一番頼りになる男の子って事になってるから」


「ぐっ…」


「ね、雅人くん?」


「……はは」


 あらかじめ釘を刺されてしまう。もしかして最初からそういう作戦だったのかもしれない。牽制されては迂闊な発言が出来なくなってしまうから。


「仕方ないなぁ。じゃあ明日は代わりにごめんなさいしてこようかな」


「助かりま~す」


「ちなみにやり方は自分で決めて良い?」


「それは状況次第。どんな風に断るつもりなの?」


「アナタが好きになったあの女は七股をかけてるクソビッチでして…」


「おらぁっ!!」


「ぶぐっ!?」


 強烈な回し蹴りが脇腹に炸裂。捲れたスカートから水色の下着が見えてしまった。

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