13 チャレンジとダウンー5
「はぁっ、はぁっ…」
駅から電車に乗った後は地元へ。陽射しの強い道路を全力で駆け抜けた。
「……暑っ!」
もしかしたら彼女は怒るかもしれない。余計なお世話だと。それでも不思議と見捨てようとは思わなかった。どれだけの苦労や辛さを味わいながら生きているかを理解していたから。
ひょっとしたら今朝だって家に残っていてほしかったのかもしれないのに。何故その気持ちに気付いてあげられなかったのか。
「華恋っ!!」
彼女にはいつも家事の事で世話になりっぱなし。だから今日は自分が助ける番だった。
「……え」
「あ、あれ?」
名前を叫びながら玄関の扉を開ける。しかし何故か廊下でその張本人と遭遇した。
「ちょ……起き上がってて大丈夫なの?」
「んっ…」
「おっと!?」
靴を脱いで中へと上がる。同時に彼女がもたれかかってきた。
「ゴホッ、ゴホッ!」
「フラフラじゃないか。無理してないで寝てないと」
「……お手洗い、行ってたの」
「あ、なるほど。それは悪かった」
倒れそうになる体を両手で支える。熱のせいで熱い全身を。
「よいしょ、っと」
「ハァ…」
「熱まだ下がってないみたいだね。何か食べた?」
質問に対して彼女が首を横に振って返答。背中に手を回す形で客間へと移動した。
「ならご飯食べよう。おかゆで良いよね?」
「食べたくない…」
「苦しいけど何か胃の中へ入れないと。体力が持たないって」
「……ん」
「新しいシートも持ってくる。少し待ってて」
本人の意思を無視して話を進める。強引な態度で。
「ほら、頭こっち向けて」
「んっ…」
「よしっ、と」
気分は保健室の先生か病院の看護師。こうして誰かの看病をするのは生まれて初めての経験だった。
「あのさ、冷却シート切らしちゃったからコンビニ行って来るよ。何か欲しい物ある?」
「……水」
「水? あぁ、水分か。分かった」
「んんっ…」
「すぐ戻って来るから。大人しく寝てるんだよ」
ズレた布団をかけ直すと再び玄関へ。鍵をかけないまま近所のコンビニへとダッシュした。
「ひいっ、ひぃっ…」
息切れが止まらない。電車を降りてから走りっぱなしなので。
店に到着した後は冷却シートと一緒に水や食料を購入。こんな時間に制服姿で入る事に抵抗はあったが店員には何も言われなかった。
「寝ちゃったか…」
帰宅すると寝息を立てている同居人を発見する。起こすのは可哀想なのでそのままにしておく事に。
「あっつ…」
買ってきた物を冷蔵庫に仕舞った後は自室で着替えた。半日も着ていないのに上下共に汗でグッショリな制服を。
「んむっ、んむっ……ぷはぁーーっ!」
その後、一階へと戻って来てスポーツ飲料水を一気飲み。乾ききった喉を全力で潤した。
「ふぅ…」
初となる自主早退を経験。まともに受けた授業は一教科だけ。
「……ん」
「お? 起きた?」
それから2時間ほどが経過した頃に華恋が目を覚ます。不測の事態を考え、ずっと彼女の側で待機していた。
「調子はどう? まだ頭痛い?」
「んん……ボーっとする」
「そっか。とりあえずおかゆ食べよう。今、持ってくるから」
台所のレンジでパックの中身を解凍する。冷えた部分が無い事を確認すると茶碗へ移した。
「ほい、お待たせ」
「ありがと…」
「自分で食べる。それか食べさせてもらいたい?」
「……自分で食べる」
彼女が体を起こす。苦しそうに呼吸しながらゆっくりとしたスピードで。
「これアンタが作ったの?」
「いや、コンビニの。レンジで温めただけ」
「……なら食べる」
「どういう事?」
凄く失礼な発言をされたが今は気にしていられない。セクハラにならない程度に背中に手を添えて支えた。
「美味しい?」
「まぁまぁかな…」
「レトルトだからね。味はそんなものだよ。他に何か欲しい物ある?」
「……ごま塩が欲しい」
「台所にあったハズ。取ってくるわ」
やはりお腹を空かせていたらしい。スプーンを次々に口へと入れている。その姿はまるで早食いにチャレンジしているフードファイターのようだった。
「んむ、んむ…」
「よく噛んで食べるんだよ。おかゆだからって飲み込むと体に悪いし」
「んむ…」
「それだけで足りる? もう1つあるけど」
「……おかわり」
「え?」
目の前に茶碗を差し出される。冗談半分で聞いたのに彼女は食欲旺盛だった。
それから新たに解凍した2杯目のおかゆも綺麗に完食。ついでに風邪薬も飲ませた。




