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13 チャレンジとダウンー2

「聞いて聞いて、さっき合格の電話かかってきた」


「おぉ、良かったね。おめでとう」


 それから数日後、華恋は焼き肉屋の面接を受けに行く事に。サービス業の仕事は嫌だと渋っていたが、好条件の場所を見つけられず。なのでやむなく近場で妥協する事にしたのだ。


「へっへ~。週に3回ぐらい出てくれれば良いっていうし、案外いけるかも」


「そっか。まぁ頑張って」


「よ~し、稼ぐぞぉ。そして新しいコスチュームを……デヘヘ」


 まだ働いてもいないのに顔が綻んでいる。オモチャを買い与えられた子供のように。


「こっから近いんだっけ?」


「そうよ。駅のすぐ側」


「ふ~ん…」


「あぁ、ヤベッ。緊張してきた」


 人見知りという言葉を知らない彼女の事だから平気で飛び込んでいけるだろう。多少は不慣れな環境にも。


 そしてその週の土曜日に早速初出勤。緊張の色を見せていたが、ご機嫌で玄関を出ていった。




「なに難しい顔してるの?」


「いやぁ、将来の自分の事について考えててさ」


 リビングでテレビを見ていると妹が話しかけてくる。板チョコにボリボリと噛みつきながら。


「将来? 大人になってからの事?」


「そうそう。どんな風になってるのかなぁと思って」


「そんなの分かんないよ。実際になってみないと」


「でも全く考えないより予想してみるのも楽しいじゃないか」


「まぁね」


 以前に担任の先生に言われた事があった。アルバイトは社会の厳しさを学べる良い人生経験になると。


 学生のうちに労働経験をしておけば社会人になった時に幾分かは楽かもしれない。だが自分はその考えを真っ直ぐ受け止められなかった。単純に怖かったからだ。


 学校とは同じ年代の人達と勉強したりお喋りしたりする場所。しかし働くいう事は世代も価値観も違う人達と何かに取り組むという事。


 失敗すれば責任を取らされるし叱られもする。面倒くさいからサボるなんて真似は出来やしない。お金を払って学ぶ事と、お金を貰って労働するという事は全くの別物だった。


「まーくんは普通にサラリーマンやってそう」


「だよねぇ。それが一番無難かも」


「あと結婚出来ずに一生独身」


「やめてやめてやめて」


 本当にそうなりそうで怖い。自分が誰かと結婚して家庭を築いてる姿が想像出来なさすぎて。


「結婚願望とかあるの?」


「人並みには」


「へぇ、それは知らなかったなぁ」


「……何さ?」


「べっつにぃ~」


 彼女が意味深な目で見てくる。言葉にはしなかったが何を言いたいのかは理解出来た。


「将来はどんな人とご結婚なさるおつもりで?」


「そんなの分からないよ」


「年上? 年下?」


「う~ん、どちらかと言えは年上かな」


「どうして?」


「しっかりしてそうだし。迷ってる時はグイグイ引っ張ってくれそうだから」


 気が小さい自分には強気な姉御肌が合っている。そのような指摘を以前に颯太にもされた覚えがあった。


「いや、年下にしときなよ」


「理由は?」


「な、なんとなく…」


「でも理想は同い年かな。その方がお互い気を遣わなくて済みそうだし」


「あーーっ! 今、華恋さんのこと考えたでしょ!」


「違うって。一般的な理想論をだね…」


「へぇ、へぇ、へぇ~」


 他愛ない話題で盛り上がる。本人は不在の場で。


「もしまーくんがお嫁さん連れて来たらイジメてあげる」


「や、やめてくれ」


「この家のしきたりを徹底的に叩き込んであげるわ」


「どうか勘弁してやってください」


 自分にとって最大の障壁となる小姑がここに。もし付き合うとしたら香織の嫌がらせに耐えられる強い女性じゃないといけないらしい。


「強い女性ねぇ…」


「ん? 何?」


「いや、それより香織はどうなのさ。こういう人と結婚したいっていう理想像とかないの?」


「料理が上手い人」


「それから?」


「掃除が好きで、買い物にも行ってくれる人」


「……あのさ、それ自分が家事サボりたいだけでしょ」


「そうだよ。あっはははは~」


「ダメだこりゃ…」


 彼女は結婚する気なんかサラサラないと判明。きっと花嫁修行も行わないのだろう。




「……ただいま」


「おかえり。大丈夫?」


「う、うん。平気…」


「とてもそうは見えないけど。忙しかったみたいだね」


「はぁ…」


 翌日の日曜日、夕暮れ時に帰宅した華恋を廊下で出迎える。その表情は今までに見た事ないぐらいにゲッソリしていた。


「お風呂沸いてるから入ってきなよ」


「ありがと…」


「ご飯は? まだ?」


「肉の匂いでお腹いっぱい……何にも食べたくない」


「そっか。お疲れさま」


 食欲が無くなるほど疲弊したらしい。いつものような覇気が感じられない。


「湯船の中で寝ちゃダメだよ~」


「む…」


 部屋から着替えを持ってきた彼女に注意を呼びかける。しかし大した返事は返ってこなかった。


「大丈夫かな…」


 よっぽどキツかったのだろう。リビングには両親もいたのに敬語を使う素振りを見せない。


 風呂から出て来ると彼女はそのまま部屋に戻り就寝。少しだけでも良いから何か口に入れた方が良いと勧めたのだが拒まれてしまった。

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