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13 チャレンジとダウンー1

 夏休み直前の夜間。自宅で宿題に取り組む。梅雨明けの影響もあってか室内はジメジメした空気に覆われていた。


「私さ、バイトしようかと思うんだけど」


「え? なに、突然」


 部屋にやって来た華恋が椅子に腰掛ける。その口から発せられたのは小さな相談事だった。


「私もお小遣い貰っちゃってるけど、さすがに悪いかなぁ~と思って」


「いや、そんなの気にしなくても」


「それにホラ、放課後や土日は時間あるし何かしてた方が得じゃない」


「まぁね。クラスでも働いてる人とか結構いるし」


「だから私も何かしてみようかなぁと考えたの」


「う~ん、でもなぁ…」


「別にお金が欲しいって理由だけじゃないのよ。自分の趣味をもっと活かせないかなと思って」


「趣味…」


 彼女の言葉にあるイメージが浮かぶ。ヒラヒラ衣装を身につけて接客している華恋の姿が。


「メイド喫茶?」


「違うわよっ、バカッ!」


 怒鳴り声が辺りに反響。ついでに机を叩く音も響き渡った。


「あれ? 違うの?」


「当たり前でしょ。まぁ興味はあるけども」


「趣味を活かしたって言うから、てっきりコスプレの事かと思ってたんだが」


「そっちじゃなくて料理よ料理。私、何か作ったりするの好きだから飲食店で働けないかと思って」


「あぁ、なるほど」


 確かに彼女の料理の腕はかなりのものだった。リクエストすれば大抵の物は作ってくれるし、何より味が格別。同い年とは思えないスキルの持ち主だった。


「好きな料理やってお金貰えるんだし。一石二鳥じゃん?」


「でもさ、普通は女の子ってキッチンじゃなくてフロアに出されるものなんじゃないの?」


「そう言われたらそうね…」


「女の子に料理やらしてくれるお店って少ないんじゃないかな」


 大抵の飲食店は男性が中で女性は外。接客が男だらけだと華か無くなるから仕方ない配置なのだろうけど。


「あ~、くそっ! 男装して面接受けようかな」


「声でバレるって。華恋の声高いもん」


「なんか良い方法ないの? 女の私でも調理を任せてくれる方法とか」


「う~ん……てかバイトした事あるの?」


「あるわよ」


「え?」


 質問に対して毅然とした答えが返ってくる。その表情は自信と誇りに満ち溢れていた。


「スーパーで働いてたわよ。半年ぐらい」


「へぇ、レジも打ったりしてたの?」


「うん。主に陳列と在庫整理だったけど」


「トイレットペーパーをピラミッドみたいに高く積んだりとか?」


「しないわよ、そんな事」


 脱線した話題で盛り上がる。思い付いたジョークを織り交ぜながら。


「ならまたスーパーで良くない?」


「え~。だってやかましいオバサンとかいるんだもん…」


「あぁ、いるね。文句つけてくる人とか」


「あと結構、力仕事が腰にくるのよね。重い荷物運んだり」


「その時は私が揉んであげよう」


 ベッドから立ち上がり彼女の元に接近。指を激しく動かしていたらオデコを強く押し返されてしまった。


「近寄んな、スケベ」


「あんっ、冷たい」


「でも本当どうしよう。どこなら料理やらせてくれるかしら」


「そんなに厨房にこだわらなくても。他にも色々あるんじゃないかな」


「例えば?」


「ん~と…」


 コンビニやビラ配りに新聞配達。職種にこだわらなければ他にも働きやすい環境は必ずあるハズ。だがそのどれもを彼女は拒否してきた。


「だって私、力仕事とか苦手だしさぁ。客にペコペコ頭下げるのも嫌いだし」


「ムカついたらすぐ手を出しそうだもんね」


「そうなのよ。スーパーで働いてる時も何度店長を張り倒してやろうと思った事か」


「えぇ…」


 上司に殴りかかる女子高生の姿をイメージ。それはそれは壮絶な物だった。


「だから客を相手にするバイトは嫌なのよねぇ」


「なら働くの自体もうやめたら?」


「はぁ?」


 嫌味な自慢になってしまうが我が家は他の家庭に比べてお金はある。両親が医療関係の仕事に就いているから割と裕福。しかも共働き。お小遣いだってそれなりに貰っているから今までバイトをしようと考えた事が一度もなかった。


「お金ならそんなに困ってないでしょ? 華恋って無駄遣いしてるように見えないし」


「……いや、やっぱりバイトはする」


「一歩も引かないね。そんなにやりたいんだ」


「だって新しい衣装とか買いたいもん。バッグとか化粧品とか」


「衣装…」


 目の前にある表情が変化する。ニヤついて不気味な物へと。


「貴様のバイトへの欲求はコスプレに対する愛だったのか!」


「その通りよ。よくぞ見破ったわね」


「もう好きに働いてください…」


「さ~て、とりあえず履歴書でも書いてこようかなぁ」


 呆れる感情が止まらない。肩を落としながら部屋を出て行く後ろ姿を見送った。

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