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12 返済と義務ー4

「あれ?」


 自宅へと帰ってくると妹の靴が無くなっている事に気付く。どうやらどこかへ出掛けてしまったらしい。


「……ま、いっか」


 そして日没頃になると華恋も帰宅。よほど楽しかったのか今までに見た事のないぐらいの笑顔を浮かべていた。


「どこに行ってたの?」


「ん~? 服とかアクセのお店」


「ほう。何か買ったの?」


「買ってないわよ。ただ見てただけ」


「なんだ、冷やかしか…」


 来られた店側もさぞ迷惑だったろう。店内で騒ぎに騒いで退店したと予測。


 その後は泊まりの仕事で帰って来ない両親の分を除いて3人分の食事を用意する事に。後はお出掛け中の妹の帰りを待つだけ。しかしいくら待っても肝心の本人が帰って来なかった。


「遅いなぁ……何してるんだろ」


「どこに出掛けたの、あの子?」


「分からない。僕も昼間外出してて、その間に家からいなくなってた」


「連絡は? 着信とか」


「え~と…」


 スマホの画面を確認する。めぼしい情報は無し。


「アンタが帰って来たのって何時ぐらい?」


「夕方の4時ぐらい。今が9時だから…」


「じゃあ少なくとも5時間以上は出掛けてるって事になるわよね」


「だね。買い物ならここまでかからないハズだし」


「もしかして何かに巻き込まれたとか…」


「まさか」


 知らない人に付いて行ってしまうような年齢ではない。いくら背が低いにしても。


「そういえばこの辺に通り魔が出るって聞いた事あるんだけど」


「誰に?」


「智沙さん」


「えぇ…」


 彼女の台詞を聞かされた瞬間に嫌な光景が思い浮かんだ。ドラマ等で見かける残虐なシーンが。


「とりあえず連絡取ってみなさいよ。何かわかるかも」


「あ、うん」


 アドバイス通りにメッセージを送る。現在地を尋ねる内容の文章を。だが5分待っても10分待っても反応は無し。電話もかけてみたが繋がらなかった。


「どうしよう。おばさん達に連絡する?」


「いや、まだ何かあったと決まったわけじゃないし」


「でももう10時過ぎてるのよ? マズくない?」


「ちょっと近所のコンビニに行ってみる。帰って来たら連絡して」


「あ、うん」


 いてもたってもいられなくなり捜しに行く事を決意。財布を取りに二階を目指した。


「ん?」


「あ、香織ちゃんからだ」


「え? ちょ……早く出て」


 廊下へ出た瞬間に着信音が鳴り響く。自分のではなく華恋のスマホから。


「もしもし?」


「ん…」


「はい、帰って来てないですよ。お2人とも仕事ですから」


 対応している彼女の口ぶりから察するに受話器の向こうにいるのは本人と予測。ただその声が聞こえてこなかった。


「分かりました。伝えておきます」


「お?」


「はい。ではおやすみなさい」


 それからすぐに通話は切断。どうやら用件を聞き終えたらしい。

 

「何だって?」


「明日は日曜日だから友達の家に泊まるって」


「はぁ?」


 耳に入ってきた報告に呆れた声を出してしまう。予想との落差が激しすぎて。


「本人からの電話だったの?」


「うん。向こうが騒がしくてこっちの声がなかなか聞こえてなかったみたいだけど」


「もう1回かけ直してくれないかな。今度は僕が出るから」


「え? あ、了解」


 彼女からやや強引にスマホを強奪。コール音を確認すると耳元に移動させた。


「おかしいな。出ない」


「アンタのからかけてみたら?」


「そ、そだね」


 いつまで経っても応答が無い。仕方ないので華恋に言われた通り自分の端末で再チャレンジ。ただやはり繋がる事はなかった。


「……ダメだ」


「向こうからかけてきたんだから電話に出れないハズないわよね」


「無視してるんだよ、絶対…」


「ねぇ、また喧嘩したの? 何かあったんでしょ?」


「ちょっと口論になっただけだよ。別にそんな大した事じゃないから」


「ふ~ん…」


 画面を戻すと椅子に座る。苛立ちと不安をごまかすように。


「くそっ…」


 今までに香織が外泊した経験はない。どんなに遅い時間になる時でも帰って来たし、連絡だってしてくれた。つまり初めてとなる反抗期。その理由はこの家に帰って来たくないからなのだろう。




「む…」


「コラコラコラ」


 そして翌日の夕方に彼女は帰宅。何食わぬ顔で姿を見せた所を二階の廊下で引き止めた。


「あのさ、泊まるなら先に言っといてくれよ。こっちは食事を用意したままずっと待ってたんだから」


「そんなの私の勝手じゃん。別に先に食べてれば良かったんだし」


「何かあったのかって華恋と心配してた。あと電話かかってきたらちゃんと出て」


「友達の家に泊まるって連絡したじゃん。なのにどうしてまたかけ直してくるわけ?」


「そっちが一方的に用件だけ伝えてきたから言いたい事があったの」


「どうせまた2人でイチャついてたクセに。じゃあね!」


「あ…」


 しかし僅かに言葉を交わしただけで話し合いは終わる。思い切り閉められたドアの音が辺りに響き渡った。


「はぁ…」


 反省の色がまるで見られない。こんなにも生意気な言動を振り撒いてくるのは初めてだった。


 それから3日後、またしても父さん達が帰って来ない日に香織が無断外泊を決行。友達の家に泊まり、そのまま学校に行こうとしていたらしい。


 さすがにそれはマズいと思い両親の存在を脅迫材料にして強制帰宅させた。けれどその行為により自分達の関係はますます悪化する事に。もはや話しかけても返事すらしてくれなくなってしまった。

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