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12 返済と義務ー2

「はぁ…」


 せっかく気を遣って声をかけたのに。寝起きという要素を考慮したとしても酷すぎる。


 二階へと戻っていった妹の事は忘れて調理開始。テレビを見ながら昼食をとった。


「んむんむ…」


 両親は2人揃っていない。帰宅するのが面倒らしく病院に隣接された寮に泊まりっぱなし。


「あはははは」


 食後はソファに座ってテレビ鑑賞。二階の住人もそのうちお腹を空かして下りてくるだろう。そう思っていたがいつまで経っても姿を現さなかった。


「しょうがないな…」


 どうせ二度寝してるか部屋でケータイを弄ってるに決まってる。暇潰しも兼ねて注意しに行く事にした。


「お~い」


 階段を上がると真っ直ぐ彼女の部屋の前に移動。声をかけながら扉をノックした。


「いるんでしょ? 返事してよ」


 何度か呼び掛けるが中からは応答が無い。大きめの声を発しても。仕方ないので無理やり進入する事にした。


「うりゃっ!」


「ちょっと何で勝手に入って来てるの!?」


「そっちが返事返さないからじゃないか。何か起きたのかと思ったし」


 中へ入ると予想していた光景が視界に飛び込んでくる。ベッドに寝転んでケータイを弄っている妹の姿が。


「お腹空かないの? もう昼過ぎだよ」


「空いてない。食べたくなったら後で勝手に食べる」


「せめて着替えなよ。いつまでパジャマのままなのさ」


「うるさいなぁ、私の勝手じゃん。ほっといとよ」


「今日は母さんも華恋も出掛けてていないからね。腹減ったら自分で何か作りなよ」


「はいはい、わっかりましたぁ」


 投げやりな返事をすると彼女は寝返りを打ってしまった。目線を逸らすように壁際の方を向いて。


「はぁ…」


 まともに言葉を交わす事すら難しい。少し前まではプロレス技をかけあうぐらいに親しかったのに。


「用ってそれだけ?」


「ん? そうだけど」


「なら早く出てってよ。そこにいたら着替えられないし」


「……いや、やっぱりまだある」


「はい?」


 引き返そうとしていた足の動きを止めた。彼女に言っておきたい事があったから。


 今まであまり話題にしなかったが、さすがに周りの人達もこの険悪化した関係に気付いている。よそよそしい態度でその心情が察知出来た。


 家族や友人達にこれ以上迷惑をかけない為にも一刻も早く仲直りしなくてはならない。家で2人っきりになった今がそのチャンスだった。


「最近さ、その…」


「何?」


「なんていうか、え~と…」


 だがいざ喋ろうとすると上手く言葉が出てこない。思考回路がパンクしてしまって。


「ほんっと昔っからハッキリしない性格だよね」


「う、うるさいなぁ」


「言いたい事あんならさっさと言いなよ。いつまでもそこにいられたら邪魔」


「それだよ、それ!」


「はい?」


 彼女のツッコミに対して即座に反論。伸ばした指で顔を指した。


「乱暴な口調。おかしいじゃん」


「別におかしくないよ。フツーだし」


「どこがさ。少し前なら絶対そんな言い方しなかった」


「少し前っていつ?」


「……2週間ぐらい前とか」


 それは遊園地に遊びに行った時の記憶。今までの人生の中でトップクラスに後悔した日だった。


「ふ~ん。ならどうして2週間前から態度が変わったと思うの?」


「そ、それは…」


「ねぇ、何で?」


「え~と…」


「黙ってたら話が進まないよ。何か喋りなよ」


「ぐっ…」


 尋問する側とされる側が入れ替わる。気まずい空気の中で。


「言わなくても分かってるでしょ。どうしてわざわざそんな質問してくるのさ」


「え~、言わないと分かんないなぁ」


「あのさぁ…」


「そういえば私も言いたい事あったんだけど。いつになったらお金返してくれるの?」


「……あ」


 続けて話題が別の方向へと転換。5000円近くの借金を抱えている点を思い出した。


「もうちょっと待ってて。お小遣い貰ったら返すから」


「やだ。今すぐ返して」


「いや、だから持ち合わせが無いんだよ。来月まで待ってください」


「そんなの知らないし。私、欲しい物あるからすぐに返してよ」


「無理な物は無理なんだってば。悪いけど見逃してくれないかな」


 重ねた両手を前方に差し出す。申し訳ない気持ちを込めながら。


「ふ~ん、華恋さんに使う為のお金はあっても私に返すお金はないんだ」


「ど、どうしてそこで華恋の名前が出てくるのさ」


「だってよく一緒に出掛けてるじゃん」


「だからそれはクラスの皆と遊んでるんであって…」


「夜になると部屋にも連れこんでるみたいだし」


「……もしかして気付いてたの?」


 ずっとバレてないと思っていた。誰にも見つかっていないと安心していた。自分も華恋も。


「まさか隠せてると思ってたの? バカじゃん」


「バカって…」


「前から気付いてたよ。気付いてないフリしてあげてただけ。優しいでしょ?」


「いつから知ってたのさ?」


「あれ? 否定しないんだ。やっぱり本当なんだね」


「げっ…」


 どうやらカマをかけられたらしい。まんまと引っかかったマヌケになってしまった。


「おかしいとは思ってたんだよね~。女の子が苦手なクセに呼び捨てにしたりするから」


「そ、それは…」


「どっちから告白したの?」


「だからそういうんじゃないってば」


「嘘。じゃあいつも部屋で何してるのさ?」


「えっと…」


「エッチな事?」


「違うっ!」


 彼女の一言に激しく動揺する。思わず大声を出してしまう程に。


「じゃあ私も部屋に男の子連れ込もっかなぁ」


「おいおい…」


「別に良いでしょ? まーくんもやってるんだし」


「そういうのやめなよ。自分が傷つくだけだって」


「……クラスの皆もやってるもん」


「皆って誰さ。友達? クラスメートが全員そういう事やってるの?」


「うるっさいな、もう出てってよ!」


「あ……ちょっ!?」


 質問に対して今度は彼女の態度が急変。ベッドから起き上がるとこちらに接近してきた。


「まだ話終わってないってば」


「出てけ、出てけ!」


 そのまま強く背中を押されてしまう。抵抗するが聞く耳を持ってくれない。


「お~い」


 そして反論も虚しく廊下へと追い出されてしまった。閉められたドアを叩くが無反応。再び開けようとしたが中から鍵をかけられてしまった。


「……ちぇっ」


 結局まともな話し合いをする事なく終了。むしろ悪化させてしまった気さえする。


 無理やり入るわけにいかないし、入れたとしても口を利いてくれないなら意味がない。口論をしに来たわけじゃないのについカッとなって責め立ててしまった。


「はぁ…」


 肩を落としながらリビングへと戻る。どうにかしたいのに何も出来ないもどかしさが充満。自身の無力さを痛感した。


「……相談してみよっかな」


 1人で考えていても悪い考えばかりが浮かぶだけ。このままでは埒があかないので友人に助力を求める事に。スマホを手に取り連絡を取った。

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