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11 頼まれ事と頼み事ー6

「華恋さんもアニメとか見たりするんですか?」


「あ、はい。雅人くんにいろいろ勧められて見たりしてます」


「くっ…」


「あれ? 雅人、あんたアニメとかに興味あったっけ?」


「……いやぁ、実は最近目覚めちゃって」


「へぇ~、知らなかったわ」


 場の雰囲気を壊さないように話を進める。犯人を睨み付けてやったが華麗にかわされる結果に。


 それから辿り着いた店内をブラブラ。しかしまたしても男女で別行動になってしまった。


「おい、雅人。いつになったら華恋さんと2人っきりになれるんだ?」


「知らないよ、そんな事」


「さっきからずっと智沙にくっついてばかりじゃないか。どうしてあんな奴まで誘ったんだよ」


「自分で2対2を提案したクセに…」


 思惑通りにいかないからか友人が苛つき始める。口周りにハンバーグのソースを付着させながら。


「これ可愛い~」


「ですよね。色違いのもありますよ」


 そんな状況も知らないで盛り上がる女子2人。呑気にキーホルダーを物色していた。


「なぁ、雅人。智沙を連れてどこかに行っててくれないか?」


「えぇ…」


「頼む! 自分勝手なお願い事してるのは重々承知なんだ」


「でもどうやって連れ出せば良いのさ。あの2人ずっとべったりだし」


「きびだんごあげれば付いて来るだろ?」


「付いて来るわけないじゃないか」


 店内でちょっとした口論を繰り広げる。周りにいたお客さん達の視線を集めてしまう声の大きさで。


「……少し落ち着こうか」


「そうだな…」


 この会話を本人に聞かれたら元も子もない。ただ彼女は颯太の気持ちに気付いてるので無駄な隠蔽行為だった。


「とりあえずこの店での別行動は諦めてよ。どこかで隙を見て連れ出してみるからさ」


「おう。じゃあ任せたわ」


「はぁ…」


 外の人混みを利用すれば上手くバラけられるだろう。予め行動を決めておけば颯太がいる場所と違う所に智沙を連れ出せるハズ。


 彼女に協力を仰いでも手を貸してはくれない。どちらかといえば颯太と華恋を2人っきりにする事に反対みたいだから。やるなら自分達だけで実行するしかなかった。


「じゃあ、そろそろ出るか」


「次どこ行くの?」


「あっちにも似たような店あるんだよ。そっちも寄ってみようぜ」


「はいはい。あんた本当にアニメとか好きね」


「そりゃ、どこかの暴力女と違って魅力的な子がたくさんいるからな。やっぱり二次元は最高だ」


「んだとゴラァッ!!」


「ギャアアアアァァーー!?」


 颯太と智沙が漫才のような掛け合いを見せる。基本的に会話の中心はこの2人。


「はぁ…」


 多くの人が行き交う通りへと出た。ここで自分が智沙の腕を引っ張り、無理やり離れ離れになる予定。もはや作戦なんて立派なものではなく、ただの力業だった。


「……やだなぁ」


 彼女の性格を考えたら確実に何かしらの文句を付けられる。暴力は無いにしても。


 だがいつまでもウジウジしていては先に進めない。意を決して友人の腕を掴んだ。


「え……ちょ、ちょっと!」


「……ん」


「雅人!」


 振り返らずにただ前だけ見て進む。背後からの言葉には耳を貸さずに。そのまま人混みをかきわけるように移動。そして近くにあった店へと飛び込んだ。


「ふぅ…」


「コラコラコラ!」


「えっと、ごめん…」


 事情を説明しようと振り返る。しかしそこにいてはいけない人物の姿を発見。


「あ、あれ?」


 何故か華恋も後ろに立っていた。しかも智沙と2人仲良く手を繋いだ状態で。


「アンタ……何考えてんのよ」


「いや、あの…」


 すぐに失態に気付く。これだと別行動をとった意味がない事に。


 彼女達の後ろを確認するが颯太の姿が見当たらなかった。どうやら彼だけがはぐれてしまったらしい。


「これは何かのジョーク?」


「へ?」


 戸惑っていると友人が疑問の言葉を発する。不満を孕んだ強気な口調で。


「げっ!」


 最初は意味が分からなかった。ただ強引に引っ張られたからそういう表情をしているのだとばかり。


 けどそうではない。ここは自分が来てはいけない場所。男だけで入ったら怪しまれてしまうお店だった。


「バカな…」


 辺りをキョロキョロと見回す。カラフルな布地がたくさん置かれている店内を。


「あの、智沙さん…」


「……何よ」


「もし良かったらここで下着とか見ていきませんか?」


「アホか!」


「いでっ!?」


 顔面に強烈なビンタが飛んできた。手加減なしの制裁が。


「いちち…」


 それから逃げ出すようにランジェリーショップを退店すると颯太に通話。近くにあったファーストフードの入口で合流する事が出来た。



「どうしたんだよ、雅人。顔色が悪いぞ?」


「いや、何でもないんだ…」


「肌が緑色になってるぞ。大丈夫か?」


「……多分、それは颯太が病気だよ」


「あれ? 周りにいる人達もみんな緑色に見える。どうなってるんだ、これ」


 話しかけてきた友人にうすら笑いで返す。今の自分に出来る精一杯のリアクションで。


「はぁ…」


 作戦は見事に失敗。友人は軽く落ち込んでいたが、それ以上にダメージを受けている人間がここにいた。


 華恋まで連れ出してしまうだけならまだマシだったろう。よりにもよってあんな店に飛び込んでしまうなんて。


「華恋さん、次はこの店に行きましょ」


「あ、はい」


 颯太が意気揚々とお喋りしている。先程まで抱えていた不満を晴らすように。


 合流してから3人の会話にほとんど参加していない。ただ黙って後を付いて行くだけ。女性陣2人の突き刺さるような視線が痛かった。


「しにたい…」


 もうこの場にいる状況が耐えられない。今すぐにでも自宅へと逃げ出したい気分。


「雅人」


「……え?」


「いつまで落ち込んでんのよ、アンタは」


「智沙…」


 店の外で1人佇む。すると先程、頬を殴打してきた人物が姿を現した。


「何でさっきあんな事したの?」


「えっと…」


「まぁ大体の理由は見当つくけどね」


「へ?」


「そんなにアタシと2人っきりになりたかったのなら、そう言えば良いのに」


「はぁ…」


 大袈裟に溜め息をつく。彼女のからかってくる言葉に優しささえ感じてしまった。


「颯太に頼まれたの?」


「……そうだよ」


「ふ~ん、でもちょっと強引すぎない?」


「それは自分でも思った。でも他に方法が思いつかなかったし」


「せめてトイレ行ってる隙にしなさいよね。いくらなんでも無理やりすぎるわよ」


「うん…」


 まさか騙そうとしていた人物にミスを指摘されるなんて。どうやら彼女は全ての状況を見透かしているらしい。


「でも雅人は良いの?」


「何が?」


「華恋さんと颯太が、その……そういう風になっちゃったりしても」


「良いってどうして?」


「だからぁ、あの子をあんな奴にとられても良いのかって聞いてんの!」


「へ?」


 突き付けられた発言に戸惑う。口からは情けない声が漏れ出した。


「いや、だから僕達は従兄妹なんだってば」


「でもアンタ達には直接血の繋がりは無いんでしょ?」


「え?」


「じゃあ普通の男女と同じじゃない。ただの親族関係ってだけで」


「……まぁ、そういう事になるかな」


 言われてから気付く。同じ家に住んでいるとはいえ彼女とは赤の他人。もし全く違う出逢い方をしていたら恋愛関係にだって発展していた可能性もあった。


「俺、これ好きなんですよ」


「私も知ってます。主人公がお馬鹿なんですよね」


「そうそう。けどそれが彼の魅力なんす」


「あははっ、ですよね」


 店内にいる彼女に視線を移す。颯太と親しげに会話している女の子に。そこにあったのは無邪気な笑顔。初めて電車の中で会った時と同じ優しい表情を浮かべていた。


「……智沙」


「ん? 何?」


「やっぱりあの2人、邪魔しちゃおっか」


「お? 良いね~。ついにやる気になったか」


 別に華恋とどうこうなりたい訳じゃない。颯太に恨みがある訳でもない。ただ何となくこのままではいけない気がしていた。


 それから友人の励ましにより見事復活。皆の輪の中に溶け込む事に成功した。最初は遠慮していた華恋も帰る頃には颯太と親しげに。共通の趣味を持つ仲間と喋れて楽しかったのだろう。


 日が暮れ始めた後は電車に乗って地元の街に帰還。颯太も実家に寄って行くらしく同じ駅で降りた。


「どうだった、今日?」


「楽しかったわよ。予想してたよりね」


「それは何より」


 華恋と2人並んでのんびり歩く。夕焼けに染まった住宅街を。


「アイツ、思ってたより良い奴じゃない。なかなか見る目あるわ」


「そ、そっか」


「また一緒に行こうって言われちゃった」


「誘われたら行くの?」


「2人っきりじゃなかったらね。残念だけど顔はタイプじゃないし」


「……正直者め」


 ハッキリとした死刑宣告を聞いてしまった。本人が聞いたら絶句するような台詞を。


 だけど自分は2人っきりで出掛けた事がある。しかも本人からのお誘いで。家族という理由での同行だったが心の中で勝ち誇らずにはいられなかった。


「ただアンタの行動にはドン引きだわ」


「えっ!?」


「腕を引っ張ってきたかと思えば下着売ってる店に突入とか」


「す、すいません」


「そんな大胆な変態だったのね。信じられないわ」


「いや、あの…」


 なんとか言い訳しようとするも言葉が出てこない。全てを揉み消してくれる特殊な事情が。


「こっそり私の着替えとかも覗いてそう」


「してないよ。そんな事!」


「そういえば昨夜お風呂入ってる時に誰かの気配を感じたような…」


「だから違うってば!」


「次から一緒に出かける時は手錠かけとかなくちゃね」


「えぇ…」


 扱いが雑で悪質。もはや召使い以下の奴隷だった。


 友人達がいなくなった事で彼女がいつものように喋りかけてくる。ただその表情は家に帰るまでずっと晴れやかだった。

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