11 頼まれ事と頼み事ー4
「で、どうだった?」
「え? 何の事?」
翌日もいつも通りに登校する。しかし休み時間になると颯太に連れられ強制的に廊下へと移動した。
「とぼけんな! 昨日言った事だよ。まさか話してくれなかったのか?」
「いや、する事にはしたんだけど…」
「けど? 何だよ?」
「ん~…」
何と言えば良いかが分からない。上手く断る為の理由をまだ考えていなかった。
「ダメ……だったんだな」
「えっと、まぁ」
「はぁぁぁ…」
言いよどんでいる様子を見て彼が状況を理解する。溜め息をつきなからガックリと落胆した。
「別に嫌いとかそういう訳じゃないらしいんだよ」
「なに!?」
「ただ2人っきりっていう状況が苦手というか恥ずかしいというか」
「なら2人っきりじゃなかったら良いのか!?」
「さ、さぁ…」
どうにかして彼女の面子を保たなくてはならない。そうしなければ自分自身の身が危うかった。
「じゃあ雅人も付いてきてくれよ。それなら良いだろ?」
「えぇ……それってデートって言わないんじゃ」
「な? な?」
「ダメだよ。颯太は華恋と2人っきりで出掛けたいんでしょ?」
「でもそれは無理なんだろ? なら雅人アリでも良いからお出かけしたい」
「それだと僕が邪魔じゃないか…」
何が悲しくてデートの付き添いをしなくてはならないのか。保護者という訳でもないのに。
「分かった。だったらこうしよう」
「何?」
「もう1人女の子誘って2対2のデートだ」
「えぇ…」
「な? それなら雅人がハブれたりしなくて済むだろ」
友人がさも名案であるかのように意見を挙げる。リア充感満載の提案を。
「嫌だよ。別にデートとかしたくないし」
「何でだよ。女の子と手を繋いでみたいとか思わないのか?」
「そ、それは…」
「じゃあそれで決定な。よろしく~」
本心をごまかしながらもすぐに反論。けれど返事をする前に彼は立ち去ってしまった。
「女の子ねぇ…」
女子と手を繋いでいる自分の姿を想像する。相手の子に笑われているイメージしか湧いてこない。
それよりも華恋にこの事をどう話せば良いのか。断るどころかオマケで付き添う流れになってしまったなんて。
『何してんのよ、この馬鹿! ちゃんと断ってこいって言ったでしょ!』
彼女が凄まじい剣幕で激怒。そんな姿が容易に想像できた。
「あぁ……嫌だなぁ」
また確実にグチグチ言われる。夜の事を考えると胃がキリキリしてきてしまった。
「何してんのよ、この馬鹿! ちゃんと断ってこいって言ったでしょ!」
「……すいませんでした」
帰宅後に同居人に思い切り怒鳴られる。慣例化されつつある部屋での話し合い中に。
「しかも何でアンタまで付いて来る事になってんのよ。は~、信じらんない」
「いや、僕は反対したんだよ。なのに颯太が強引に話を進めるもんだからさ」
「なら強引に断ってきなさいよ」
「そんな簡単に言わないでくれ…」
「私、行きたくない。絶対行かないわよ」
予想通り彼女は拒絶の意志を見せてきた。腕と足を豪快に組みながら。ただ自分には1つだけその頑固な心を動かす秘策があった。
「颯太がさ、アニメのグッズとか売ってるお店に行きたいんだって」
「……え」
「ほら、前に服買いに言った所にあったじゃん」
「あ、あぁ……あの街ね」
「あそこに欲しいグッズが売ってるらしくて。キャラクターのコスチュームもあるとかなんとか」
「へぇ…」
趣味の話題を持ち出す。緊迫した空気を打破するように。
「どうしてもそこに行きたいって言うんで一緒に付いて来てくれそうな人を探してるんだよ」
「それが私?」
「華恋ならアニメとかゲームに詳しそうかなぁと思って」
「……ん」
「でも行きたくないって言うなら仕方ない。残念だけど颯太と2人で…」
「ま、まぁどうしてもって言うなら付いて行ってあげなくもないけど」
「え? 本当?」
「しょうがないわね。特別に付き添ってあげるわよ」
思っていたよりも単純だった。意外と扱いやすいタイプなのかもしれない。心の中で小さくガッツポーズを決めた。
そして翌日、デートの約束を取り付けられた事を颯太に報告。その情報を聞いた彼のリアクションはそれはそれは凄いものだった。
「という訳で智沙は今度の週末って暇?」
「いや、突然そんなこと言われても意味わかんないから」
1人で席に座っていた女子生徒に声をかける。ショートヘアの友人に。
「もし予定ないなら一緒に出掛けない?」
「え? それってデートのお誘い?」
「うん、そうだよ」
「……どうした。何か辛い事でもあったのか」
目を丸くしている彼女に簡単な事情を説明した。友人が華恋に惚れた件と、2対2のデートを提案してきた点を。
「なるほど。それでアタシに声をかけてきたってわけか」
「そうなんだよ。颯太の奴、発案者なのに『もう1人の女の子は自分で誘ってくれ』だよ?」
「あはは、アイツらしいわね」
「結局のところ僕だけが頑張って本人は何にもしてない」
これだけ苦労しておきながら楽しめるのは彼1人だけ。割に合わなかった。
「で、どう?」
「そうねぇ。コレって一応デートなのよね?」
「ん? そうなるのかな」
「じゃあ雅人はアタシに何か奢ってくれたりするのかしら?」
「……や、やっぱりこの話は無かったという事で」
相談を打ち切って後ろに振り返る。気まずい空気から立ち去る為に。
「待て、コラ」
「は、離せ。何をする!」
「どこ行くのよ。まだ協議の途中でしょうが」
その瞬間に全身の動作が停止。背後から伸びてきた手に肩を掴まれてしまった。
「もうこの話終わり。終了」
「ちょっとちょっと、そっちから誘ってきておいてそれは無いんじゃない?」
「今、金欠なんだよ。何かを奢ってあげる余裕がないんだってば」
「わーーかったわよ。別に奢ってくれなくて良いから付き合ってあげるっつの」
「え? 本当?」
「……ったく、この甲斐性無しが」
どうやらただの同行という条件で承諾してくれるらしい。彼女以外に誘えそうな女の子がいないから正直助かった。




