11 頼まれ事と頼み事ー2
「何の用?」
「悪いね。わざわざ」
帰宅するとターゲットを部屋へと呼び出す。自分が客間へと向かおうとしたのだが断られてしまったので二階を打ち合わせ場所とする事に。
「別に。ちょうどこれも返したかったし」
「ちょ……また勝手に持ち出したの?」
「なに言ってんのよ。ちゃんと借りるって報告しておいたでしょうが」
「だからって本人がいない時に持っていかないでくれよぉ…」
入って来た途端に彼女が2冊の本を差し出してきた。無断でレンタルしていた漫画を。
「で、話って何?」
「あぁ……うん。てかさ、人には部屋に来るなって言っておきながらそっちは頻繁にここに来るよね」
「アンタが話あるって言うから、こうしてわざわざ足を運んであげてんでしょうが!!」
「そ、そうでした…」
机を叩く音が室内に響き渡る。ヒビでも入りそうなボリュームの破壊音が。
「さっさと用件言いなさい。早くしないと香織ちゃんがお風呂から出てきちゃう」
「う、う~ん…」
「どうして黙りこくってんのよ。喋らないと何も伝わってこないじゃない」
「待って待って、どうやって話そうか頭の中で作戦会議してるから」
「はぁ?」
何と切り出せば良いのか。呼び出しはしたが打ち明ける算段は考えていない。
それにまず先に確かめなくてはならない事があった。彼女の恋人の有無を。
「質問あるんだけど良い?」
「質問?」
「華恋ってさ、好きな人とかいる?」
「なっ…」
もしそういう相手がいるとしたら問答無用で頼み事は破棄に。彼氏がいる子をデートに誘うなんて非常識すぎるから。
「付き合ってる男子とかいない? 前の学校から仲良くしてる人とか」
「アンタ……話ってそれなの?」
「え~と、全く無関係とは言わない」
「それ聞いてどうするわけ?」
「その答え次第で変わってくるんでございます」
彼女が戸惑いのリアクションを見せる。普段の強気な姿勢とは真逆の態度を。
「……答えたくない」
「え?」
「アンタには教えたくないって言ってんの!」
「な、何で!?」
「なんでも! アンタに話す義務なんかないでしょうが」
「でも隠さなくちゃいけない理由もないでしょ? どうしてダメなのさ」
「うるさいっ!」
続けて振り上げた手を後方に移動。顔面目掛けてビンタを飛ばしてきた。
「うわっ!?」
「ちっ…」
「な、何するのさ!」
「避けんなっ!」
「いや、避けないと痛いし」
飛んできた平手が髪の毛をかすめる。寸前の所でかわす事に成功した。
「……帰る」
「え? 待ってよ。まだ話終わってないんだけど」
「ちょっと離してよ!」
「離したら出て行っちゃうじゃないか」
「あったり前でしょーが! アンタと話す事なんかこれ以上ないもん」
「そんなこと言わずに頼むから聞いておくれぇ…」
更に振り返ってドアの方に歩き出す。咄嗟に腕を掴んで引き留めた。
「しつこいわね、このっ…」
「お願いします。3ヶ月だけで良いですから」
「新聞の勧誘か!」
何故か負けず嫌いな性格が湧き出してくる。彼女の体に近付くと腰周りをガッチリとホールドした。
「きゃっ!?」
「残ってくれる?」
「嫌だっつってんでしょうが。つか離れろ、スケベ!」
「仕方ない…」
「は?」
「うぉりゃーーっ!」
「キャァアァアアァ!!?」
拘束して問い掛けるが無慈悲な回答しか返ってこない。やむを得ず実力行使に出た。
「……いったぁ」
「ふぅ」
体にしがみついたまま後ろに倒れ込む。バックドロップの形で彼女をベッドの上へと移動させた。
「いてっ!?」
「なんて事すんのよ、このバカ!」
「け、蹴るのは勘弁…」
「うるさい! いきなりやるもんだからビックリしたじゃないの!」
大技を決められた悦に入っていると背中にダメージが発生。容赦のない蹴りを浴びせられてしまった。
「なんとなく華恋なら平気そうな気がして」
「あぁ!?」
「いや、ごめん。頭とかぶつけてないよね?」
「ぶつけた。背中ぶつけた」
「ベッドの上じゃん。なら大丈夫じゃないか」
もし壁に頭とか打ちつけていたのならさすがに悪い。衝突しないように位置調整はしたが。
「アンタ、女の子に乱暴して許されると思ってんの!?」
「だって逃げ出そうとするから…」
「だからってこんな真似する馬鹿がどこにいんのよ!」
「ん…」
ここにいるぞと言い返そうかと思ったが寸前で留める。そんな台詞を口にしたら再びビンタが飛んでくるかもしれないので。
「やられた分はキッチリやり返す」
「え? ちょ…」
立ち尽くしていると彼女が勢いよくこちらに突撃。ラガーマンのように胴体に抱きついてきた。
「な、何する気さ!」
「言ったでしょ。やられたらやり返す!」
「待って待って、この体勢はマズい」
この位置から投げられたら壁に激突してしまう。近くに窓ガラスもあるので危険度は大きい。
「コラッ、触んな!」
「冷静に。まずは落ち着いて話し合おうじゃないか」
「話す事なんかない! 大人しく投げ飛ばされなさい」
「こんのっ…」
技をかけられる前に反撃開始。再び彼女の体に腕を回した。
「何これ?」
「はぁ? 知らないわよ。アンタがやり始めたんでしょうが」
「うぐぐぐ…」
なぜ部屋でお互いにプロレス技をかけあっているのか。こんな事をする為に彼女を招き入れた訳じゃなかったハズなのに。
「と、とりあえず手を離さない?」
「アンタが先に離しなさいよ」
「分かったってば…」
「隙あり!」
「え? ちょ…」
「どりゃあぁーーっ!!」
「う、うわぁあぁあぁぁ!?」
休戦しようと妥協案を出す。その瞬間に意識がグルリと一回転。
「ふんっ、思い知ったか」
「いってぇ…」
同じ技をかけられ背中からベッドに落下する羽目に。更に頭頂部を壁に擦ってしまった。




