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10 利子と利息ー4

「久しぶりだね~。いつ以来だろう」


「母さんと3人で行ったのが最後だから3年ぶりじゃない?」


「もうそんなに経つんだ。あれから一度も行ってないの?」


「行ってないよ」


「女の子とは?」


「くっ…」


 相方が肩を掴んで揺らしてくる。いやらしい笑みを浮かべながら。


「ねぇねぇ、教えてよ~」


「そうだなぁ。高校入ってから20回くらい行ったかな」


「あっそ」


「う、うぇえっ…」


 涙腺にダメージが発生。見栄を張ったのに軽くあしらわれてしまった。


 会話で盛り上がっている間も電車は順調に進む。目的の駅へ到着した後はバスに乗り替えてテーマパークへとやって来た。


「うわぁ、入場料高いね」


「こんなもんだよ。じゃあチケットまとめて買ってくるからお金を」


「え? 代わりに出してくれるんじゃないの?」


「……は?」


 入口に立つと隣に手を伸ばす。精算を一括で済ませる為に。


「優しい優し~いお兄様が私の分も出してくれるかと思ってたんだけど」


「それは嫌だ」


「ケチケチケチ」


「うん」


「あぁ、もうっ! 女の子に優しく出来ない男は嫌われるんだよ!」


 彼女が大声で文句を放出。続けて取り出した財布から叩き付けるように2枚のお札を差し出してきた。


「お釣りはちゃんと返してね」


「うい。背が小さいから子供料金でいってみる?」


「絶対やだ」


 渡されたお金を受け取る。とりあえず一旦仕舞おうと自分も財布を取り出しながら。


「あ、あれ?」


 しかし中身を見て違和感が発生。そこには1000円札が1枚だけしか入っていなかった。


「何故だ…」


 必死に意識の時間を遡る。1日前に中古の店でゲームを購入した時のやり取りを。どうしてもやりたかったソフトとその本体を買った事は記憶。ただしその代償として所持金をほとんど失ってしまっていた。


「ヤバい…」


 これは小銭を合わせてもチケット代にギリギリ届くか届かないかの金額。仮に入場料を払えたとしても無一文じゃ中で何も出来やしない。


「あ、あの……香織さん」


「なに?」


「やっぱり遊園地入るのやめませんか?」


「はぁ!? ここまで来て何言い出してんの」


 素直に自身が置かれた状況を打ち明ける。当たり前だが怒りのリアクションが返ってきた。


「というわけでお金がない」


「……ちょっと待って。金欠なのに遊びに行こうって言い出したの?」


「そ、そうなるよね」


「あ?」


「ひいいぃっ…」


 突き刺さるような視線が痛い。そこにあったのは暴力的な同居人を彷彿とさせる冷たい表情だった。


「はぁ、仕方ないなぁ…」


「ごめん。せっかくここまで来たっていうのに」


「私が2人分出しといてあげる。それで良いでしょ?」


「え?」


 怯えていると彼女が予想外の意見を掲げてくる。年下とは思えない提案を。


「そんなに持ってるの?」


「あるよ。誰かさんみたいに高いもの買ったりしないし」


「やった! 助かる。なら悪いけどお願い」


「言っとくけど奢りじゃないからね。ちゃんと後で返してよ?」


「……はぁい」


 人には出させようとしていたクセに。なんという似たり寄ったりの思考。だが今だけはそのありがたい申し出を受け入れる事にした。


 情けなさを感じながら妹に買ってもらったチケットで手に装備する。意気揚々とゲートをくぐった。


「人、多いなぁ。さすが日曜日だ」


「アトラクションとか並ばないと乗れないかもね」


「うわぁ……行列とか勘弁」


 目的地も決めずブラブラと歩く。どこに行っても騒がしい空間を。


「お腹空かない?」


「え? 朝、食べて来たのに?」


「パンだとどうしてもすぐに消化されちゃうんだよねぇ」


 なんやかんやで既に正午過ぎ。いつもなら昼食をとっている時間。匂いに誘われて一番近くにあった売店へとやって来た。


「香織はどれにする?」


「どれにするって、まーくんお金持ってんの?」


「い、いや…」


 持ってはいるが使うわけにはいかない。帰りの電車賃に充てる予定なので。


「……はぁ。何食べるの? 私が買ってきてあげるよ」


「ごめん。なら焼きそばとフランクフルトとたこ焼きと…」


「良いけどそれ後で全部返してもらうからね?」


「焼きそばだけにしておきます…」


 買い物は彼女に任せて自分は席の確保にまわる事に。なかなか空席が見つけられなかったが食べ終わった親子連れからテーブルを譲ってもらった。


「食べたらどこに行く? まーくんは何に乗りたい?」


「ん~、特にはないかなぁ。香織に任せる」


 冷めて味の落ちた麺をズルズルとすする。一緒に買ってきてもらった烏龍茶を口に含みながら。


「ならジェットコースター」


「却下」


「ならフリーフォール」


「却下」


「なら重力体感マシン」


「却下」


「どうして全部却下なの!? それじゃあ何にも乗れないじゃん」


「いや、だって絶叫系は苦手だし」


 昔からこの手のアトラクションは乗った事がない。三半規管が弱いので。何故わざわざお金を出して怖い思いをしなくてはいけないのか。とても理解に苦しむ行動だった。


「むぅ……じゃあどれなら良いの?」


「そうだなぁ。ゴーカートとかメリーゴーランドとかなら平気かな」


「メリーゴーランドって恥ずかしくない? 私達、高校生だよ」


「そう言われたらそうか。ならメリーゴーランドは香織1人で乗るって事で」


「やだよ…」


 とりあえず双方の合意の上でゴーカートに乗る事に。焼きそばを食べ終えると乗り場へと移動。行列が出来ていたが5分ほど並ぶだけで順番が回ってきた。


「いやぁ、楽しかった~」


「何度も壁にぶつかってたクセに」


「……耐久テストに耐えられるあのマシンは最高だ」


「壊したら弁償だよ。分かってるの?」


「ひぇっ…」


 1台いくらぐらいするのかが分からない。どこで販売しているかも不明なので。


 それから迷路やシューティングゲーム等、あまり激しくないアトラクションを巡った。比較的、子供が多い施設ばかりを。


「そろそろお金がヤバいかも…」


 しばらくすると財布担当がギブアップ宣言を出す。2人分を支払っているのだから当然だった。


「ならもう帰る?」


「ん~、最後に何かもう1つ乗って行こうよ」


「じゃあゲーセン行こう。ゲーセン」


「どうしてわざわざここまで来てゲームなのさ…」


「え? ダメ?」


 遊園地に来たら100円玉を握り締めて屋内で大暴れ。これは常識だと思っていたがどうやら違うらしい。性別が違うせいか思考にズレがあった。


「あっ! アレ乗ろ、アレ」


「ん?」


 彼女が指差す先を見る。ゆっくりと回転する巨大な円形の建造物を。


「観覧車か…」


 これならそんなに怖くない。むしろ景色を見渡せるから望む所だった。


 途中、自販機で飲み物を買いながら乗り場へとやって来る。入口には結構な数の人が並んでいた。


「どうしよう。20分待ちだってさ」


「どうしようって、せっかく来たんだから乗ろうよ」


「了解しました」


 お金を出してもらっているので逆らう訳にはいかない。従者のように妹の後ろを歩いた。


「もう少し観覧車の回転スピード上げてくれないかな」


「どうして?」


「そうすれば行列の待ち時間が減るじゃないか」


「だね。でもそうしたら私達が乗った時もすぐ終わっちゃうよ」


「その時はスピードを緩めてもらう」


 身勝手な持論を力説する。夏の太陽が空から照り付けていたので水分補給は怠らなかった。


「ねぇ~。私、疲れちゃったぁ」


「あとちょっとだって。もう少しの我慢」


「ぶ~、ぶ~」


 牛歩戦術のような領域に身を委ねているとすぐ目の前に並んでいたカップルがイチャつき始める。20代と思しきアフロ髪の彼氏と金髪の彼女が。


「もう足パンパン。おんぶしてぇ」


「え~、こんな場所で勘弁しろよ」


「やだやだ、おんぶ~」


 どうやら女性は立っている事に疲れたらしい。小さな子供を彷彿とさせるワガママを連発しだした。


「仕方ねぇ。ならちょっとだけな」


「やったーーっ!」


「やるんかいっ!!」


「え?」


「い、いや……なんでもないです」


 彼氏の言動に思わずツッコミを入れてしまう。周りの人間達の視線を集めてしまうボリュームで。


「ひぇ~」


 更に2人は抱き合いながら唇と唇を密着。刺激の強い光景に隣にいた純朴な妹が驚きの声をあげた。


 その後、気まずい空気のまま行列が進行。10分ほどの時間を費やして前のバカップルの次のゴンドラへと乗り込んだ。

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