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10 利子と利息ー3

「あ…」


 電車が徐々にスピードを落としていく。そして下車する駅へと停止。


 考え事をしていたら地元に辿り着いたらしい。ホームに降りて帰路に就いた。


「ただいま~」


「おかえりなさい」


「あ、うん」


 玄関で靴を脱いでいるとリビングから出迎えの挨拶が飛んでくる。女の子の優しい声が。


「香織は?」


「まだ部屋で寝てるわよ」


「やっぱりか…」


 問い掛けに対して返ってきたのは予想通りの答え。時刻はまだ午前10時過ぎ。用事でもない限り彼女が起きている訳がなかった。


「アンタ、どこ行ってたの?」


「病院。父さんの着替え届けてきた」


「そう。お疲れ様」


「どうも…」


 会話中、華恋さんから不意を突く台詞が飛んでくる。労いの言葉が。


「ご飯は? 何かいる?」


「いや、出かける前にパン食べたから良いや。それより寝坊助を起こしてくる」


 照れくささを隠すように彼女の隣をすり抜けた。そのまま階段を駆け上がって二階へと移動。部屋へとやって来た後はノックもせずにドアノブを捻る。そこには豪快に布団を蹴っ飛ばして寝ている妹がいた。


「グガガガガッ!」


「相変わらず寝相の悪い娘じゃ」


 学習机に近付くとペン立てに手を伸ばす。太いマジックペンを掴んで装備した。


「うぉっと!?」


「……か~」


「まだ起きないし」


 顔に落書きしようとした瞬間にトラブルが発生した。部屋主がベッドの端から落ちそうになるアクシデントが。


「お~い、起きなって。朝だよ」


「……んん」


「今日、凄く良い天気。どこかに出掛けよう」


「すぅ…」


「ダメだこりゃ」


 肩を掴んで揺さぶる。しかしまるで覚醒する気配を見せない。失礼とは知りながらも脇腹に触れてみた。


「こちょこちょこちょ」


「……んんっ」


「お?」


 目の前の体がクネクネと動き出す。蛇のように。


「んっ……んんっ」


「ほらほら、起きなさい」


「んんーーっ!」


「いって!?」


 静かなる拷問を続けるも彼女の振り回した手が顔に直撃。予想外の反撃を喰らってしまった。


「……なに?」


「あ、起きた」


 頬を手で押さえていると声が聞こえてくる。自分の悲鳴が目覚まし時計の役割を果たした事で。


「どっか遊びに行こ。寝てたらもったいない」


「やだ」


「ちょっ…」


 言葉を交わすが彼女はすぐに寝返りを打ってしまった。顔を背けるように。


「いい加減起きなって。どう考えても寝過ぎ」


「やあぁあぁだぁ!」


「休日に引きこもりとか若者らしくないよ」


「別にお婆ちゃんで良いもん。早く出てけ」


「パンツが見えてるんだけど」


「……っ!」


 耳元に近付くと小声で囁く。セクハラにもとれる台詞を。


「やっと起きたか。さぁ出掛けよう」


「えっち、スケベ…」


「不可抗力じゃないか」


「む~…」


 どうやら体を動かしているうちにズレてしまった様子。ズボンの下から薄い水色の生地が露出していた。


「出掛けるってどこに?」


「それはまだ考えていない」


「ダメじゃん…」


「とりあえず着替えよう。ご飯食べながら決めればいいや」


「……はぁ、仕方ないなぁ」


「じゃあ先に下行ってるから。二度寝するんじゃないよ」


「分かった、分かった」


 釘を刺して一階へと下りる。しかし途中で段差を踏み外して転落。


「ぐわぁあぁぁっ!?」


 油断したせいで腰と背中を強打する羽目に。ダメージを負いながらもどうにかしてリビングへと移動した。


「いつつつ…」


「大丈夫?」


「へ、平気。それより今から出掛けようかと思ってるんだけど一緒に行く?」


「どこに?」


「ん~、それはまだ決めてないんだよね。とりあえずどこかの繁華街に行こうかと思ってるんだけど」


「繁華街…」


 3人目のメンバーに声をかける。ソファに腰掛けてテレビを見ていた華恋さんに。


「別に無理に付いて来なくても良いよ。家にいたかったらいれば良いし」


「そうですね。せっかく誘ってもらったとこ悪いですけど、私は遠慮しておきます」


「……そっか」


 この前の様子を見て声をかけてみたのだが。本人がこう言ってるなら仕方ないだろう。強引に誘っては悪いので大人しく引き下がった。



「華恋さんは一緒に行かないの?」


「はい。せっかくですからお2人で楽しんで来てください」


「えぇ、そんなぁ…」


「私の事は気にしなくても平気ですから」


 3人でリビングの椅子に座ると外出の話題で盛り上がる。熱々のフレンチトーストを頬張りながら。皿を空にした後は部屋に退散。身支度を整えて再び玄関に集まった。


「じゃあ行って来る。多分、帰って来るのは夕方かな」


「はい、行ってらっしゃいませ」


「仮に早く帰って来るとしても必ず連絡いれるから」


「あ、はい」


「母さんも夕方までは帰って来ないハズ。だから1人でのんびりしてて良いよ」


「は、はぁ…」


「行ってきま~す」


 これでもかというぐらいに念を押す。同居人に自由時間を作ってあげようと全力で支援した。


「華恋さん、本当に良かったのかなぁ…」


「良いんだって。僕達が家にいるとかえって気を遣わせちゃう事もあるでしょ」


「それもそっか……そうだね」


 家を出た後は2人で住宅街を歩く。朝にも通った道路を。


「で、どこ連れてってくれるの?」


「ん~、逆に聞くけどどこに行きたい?」


「宇宙!」


「数十年後に期待しようね」


 朝食を食べている間に話し合うつもりが終始華恋さんの話題で大盛り上がり。結果、目的地が定まらない状態で自宅を出発する羽目に。


「どこでも良いの?」


「まぁ予算と時間次第だよね。さすがに温泉旅行とか言われたら困る」


「あ、なら遊園地はダメ?」


「遊園地?」


「うん。昔、3人で行った時の事が夢に出てきてさ。久しぶりに行ってみたくなって」


「……へぇ」


 自分も先程その時の事を思い出していたというのに。怖いぐらい偶然が重なっていた。


「え~と、電車で1時間ってとこかな」


「今から行けば昼ぐらいには着くね」


「そうだなぁ…」


 時刻はまだ11時過ぎ。正午頃に到着するなら充分遊べるだろう。


「よし、なら行こっか」


「やった!」


 事前の計画無しにレジャー施設へと遊びに行く事が決定。駅から電車へ乗り込むと途中からいつもとは違う路線に進んだ。

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