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10 利子と利息ー2

「結婚!?」


 その報告を受けたのは買い出しの帰り道。ファミレスでの食事中だった。


「どうしていきなり…」


「実は前から付き合ってる人がいて」


「本当に結婚するの?」


「あぁ。すぐではないが入籍するつもりだ。いずれ一緒に住もうかとも考えている」


「えぇ…」


 相手は同じ職場で働いている2つ年上の女性。しかも事情を聞くと自分の1学年下に当たる子供までいるとか。何から何までが突拍子もなかった。




「ど、どうも」


「初めまして。アナタが雅人くん?」


「えっと、はい…」


 そして週末の日曜日に相手の女性と食事をする事に。お互いの顔合わせも兼ねて。


「……やっぱり似てるわね」


「え?」


「うぅん、何でもないの」


 小さく呟いた女性の第一印象は優しそうな人。その背後には隠れるように1人の女の子が存在していた。


「ほら、アナタも挨拶しなさい」


「んんっ…」


「香織!」


 おさげ髪が左右に揺れている。振り子のように何度も。


「は、はじめまして…」


「どうも…」


 そして彼女が口にしたのは名前を告げないシンプルな挨拶。羞恥心を押し殺して発した台詞だった。


 その後は4人で食事に。初顔合わせ自体は数時間で済んだが、それから2人と会う機会が頻繁に訪れた。


 初めはぎこちなかった会話も回を重ねる毎に少しずつスムーズに。同じ家に住むようになった頃には女性と顔を合わせてもほとんど緊張しなくなっていた。


「はぁ…」


 とはいえ思春期真っ只中の男子中学生。同じ家に同世代の女の子がいる状況は看過出来ずにはいられなかった。


 当時の香織と顔を合わせても会話はほとんど無し。声をかけられても当たり障りのない返事をするだけ。家にいるより学校や友達の家にいる方がよっぽど落ち着いたほどだ。


 彼女も同じように感じているらしく対応の差は歴然。自分に対する態度と両親に接する口調はまるで違っていた。


 なぜ自宅に帰って来る事を苦痛に感じなければならないのか。そう思い父親を恨んだ事もある。家出をしようとまでは考えなかったが、非行少年達の気持ちが少しだけ理解出来たような気がした。


 お互いに会話のない兄妹。そんな関係性を見かねて救いの手を差し伸べてくれたのは義理の母親だった。


「今度、みんなで遊園地に行きましょう」


「は?」


「ね、いいでしょ?」


「いやいや…」


 突発的な提案で県内のテーマパークへと遊びに行く事に。父親は仕事が入っていた為、メンバーは3人だけ。ただ正直あまり乗り気ではなかった。


 相手は元他人でもある女性とその娘。しかも中学生なので楽しみな場所という訳でもない。


 それでも無理やり引っ張られたものだから渋々付き合ってあげた。苦手なジェットコースターに乗ったり、コーヒーカップを回しすぎて気分が悪くなったり。散々な目に遭ったのをハッキリと覚えている。


 そして一番ハシャいでいたのは誰でもなく母さんだった。移動中も食事中もずっと笑顔。この日だけで何枚の写真を撮っていたか分からない。


 だがその成果なのか最初は無愛想だった自分と香織の距離も大接近。帰る頃には仲の良い友達へと近付いていた。




「どうだった、今日は?」


「ん? 楽しかったよ。ちょっと酔ったけど」


「そうか…」


 帰宅後は父親に遊園地での出来事を報告。楽しそうに聞いていた父さんから今度は母さん達の話を聞かされた。


「……てな感じだったらしい」


「へぇ、そうなんだ」


「どう思った?」


「なんていうか……ちょっと予想外」


 前の旦那さんとは子供が小学生の時に離婚してしまったという事。それからは女手一つで娘を育ててきたという事。どうやら香織も小学生時代は鍵っ子だったらしい。


 仕事が忙しく休みの日にどこかへと遊びにも連れて行ってやれない毎日。なので遊園地への外出は久しぶりに堪能出来た娘との時間だった。


「ん…」


 それは当時の自分にとってかなりショックを受ける情報だった。2人を見ているとそんな苦労を経験してきたようには感じなかったから。


 帰って来ても誰も出迎えてくれない家。そんな淋しさを知っているからこそ片親の大変さがよく分かった。




「お、おはよ」


「……はよ」


 その日を境に香織と積極的に交流をとる事に。けれど自分から声を話しかけるのは恥ずかしく、挨拶以外の会話は短い物だけ。だから質ではなく数を増やした。


 毎日ではないが2人で学校まで登校したり、リビングでテレビを見たり。一緒に暮らし始めて1年が経つ頃には他人の壁は取り除かれていた。


 香織が部活で知り合ったという智沙とは共通の知り合いに。いつの間に進学先まで同じという腐れ縁になっていた。

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