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2 渇きと潤いー2

「たまには先に起きててもいいものなんだが…」


 階段を一段ずつ上がっていく。再び転落しないように注意しながら。


「おらおらっ、サッサと出てこんかい! 中に隠れてるのは分かってんだぞ!」


 そして部屋の前までやって来るとドアをノック。ドラマに出てくるヤクザを意識して呼びかけた。


「あ、違う。ここ自分の部屋だ」


 しかしすぐに勘違いに気付く。隣に移動して再度ドアをノックした。


「おらおらっ、サッサと出てこんかい! 中に隠れてるのは分かってんだぞ!」


 同じ作業を繰り返すのは辛い。眠気もあってか思考回路が停滞気味だった。


「やっぱり…」


 数秒待ってみるが物音一つしない。ドアノブを捻ると恐る恐る扉を開けて中へ。そこには首の筋肉だけを支えに壁に逆立ちしている女の子の姿があった。


「グガガガカッ!」


「……どうしたらこうなるんだ」


 寝相の悪さを露呈してしまっている。ヨダレとイビキを暴走させながらの睡眠。


「ほら、起きて。朝だよ」


「う、う~ん…」


「どんな体勢で寝てるのさ」


 すぐに彼女に近付いて体を揺さぶってみた。遠慮なく強引に。


「うりゃっ!」


「ぅあっ…」


「起きないと窒息するよ」


「……ふがっ、がっ」


 更に鼻をつまんで攻撃開始。豚を連想させる苦しそうな呼吸が聞こえてきた。


 けれどそれでもターゲットが目を覚ます気配は皆無。よほど深い眠りについているらしい。


「はぁ…」


 呆れるように溜め息をつく。脱力して床の上に正座した。


 彼女はいつもこう。朝起こしに来てくれる事も無いし、お弁当を作ってくれた事もない。


 共同生活を始めたばかりの頃、緊張と戸惑いで興奮した記憶はある。なのに驚くほど恋愛関係に発展する事は無かった。その原因はお互いの容姿や性格。


 物語にはある程度、登場人物の魅力やスキルが必要なのだろう。平々凡々な人間同士では特別な世界が生み出せないと知っただけの結果となった。


「よいしょっ……と」


 小さな体を抱きかかえる。ベッドまで運ぶとやや乱暴に投げた。


「先に行ってるよ」


 このままここにいても無駄な時間を過ごすだけ。一足先にリビングへと戻る事にした。


「うわあぁあぁぁっ!?」


 しかし途中でトラブルに見舞われる。二度目となる階段からの転落に。


「……いちち」


 強打した腰を手で押さえた。ただ日頃の行いが良いのか今回も怪我を負った様子は無し。


「あぁ~、目が覚める。サッパリするなぁ」


 リビングに戻って来ると椅子には座らず洗面所へ。冷たい水で顔を洗った。


「雅人、香織は?」


「うん? 逆立ちしてたよ」


「はぁ?」


 タオルで水滴を拭っていると母親が声をかけてくる。手に包丁を持ちながら。


「起こしてきてって言ったでしょ!」


「ごめん、無理だった」


「……あ?」


 更に続けて威圧的なオーラを放出。鬼のような形相で睨み付けてきた。


「う、うわあぁあぁぁっ!!」


「ん?」


 再びミッションに向かおうと考えていると階段の方から声が聞こえてくる。激しい轟音に混じった甲高い悲鳴が。


「……くくく、朝っぱらから深刻なダメージを負ってしまったようだ」


 どうやら二階の住人が同じ過ちを繰り返してしまったらしい。パジャマ姿で鼻血を垂らした女の子が姿を現した。


「お、おはよ」


「大丈夫? 早く顔洗ってらっしゃい」


「ねぇ。うちの階段、急すぎない?」


「そんな訳ないでしょ。普通よ、普通」


「う~ん、絶対おかしいと思うんだけどなぁ…」


 母と娘が言葉を交わし始める。実の親子らしく親しげに。


「おはよぉ」


「はよ」


「さっきさ、私の部屋に来て何かしなかった?」


「パンツずり下ろしてやった」


「やっぱり! 何かおかしいと思ってたんだよね、このスケベ!」


「……鼻をつまんだだけだってば」


 続けてこちらにも接近。ジョークを挟んだ挨拶を済ませた。


「いただきま~す」


 それから家族4人でテーブルを囲んで食事を開始。サラダや目玉焼きを次々に口の中に放り込んでいった。


「香織。アンタ、ちゃんと宿題やった?」


「あはは。やるわけないじゃん、私が」


「前からやりなさいって言ってるでしょ! 楽をしてたらその分だけ後で自分が苦労するのよ?」


「う~ん……だってまーくんが夜に部屋に来て変な事しようって誘ってくるから」


「人のせいにしないでくれ。ていうか嘘をつかないでくれ」


 他愛ない話題で大盛り上がり。義理の家族だがお互いの間に壁は無い。


「そういえばアンタ達に大事な話があるんだけど」


「え? 何?」


「ん~と、説明するの面倒だから帰ってからにするわ」


「なんじゃ、そりゃ」


 母親が意味深な台詞を投下。返事を待つが肝心の内容は濁されてしまった。


 全て食べ終えるとそれぞれ身支度を開始。鍵を閉めて全員で自宅を出発した。

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