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8 敵意と悪意ー7

「良かったの? イベント」


「仕方ないでしょ。キャリー持ったまま会場内を歩き回る訳にもいかないし」


 電車に乗って地元の駅を目指す。来る時とは違いガラガラの車内に座って。


「あ~あ、見たかったなぁ。アニソンライブ」


「また次があるさ」


「次なんか中々こないわよ。来年よ来年? また1年待たないといけないのよ」


「そ、そうなんだ」


 もし颯太と鉢合わせしなければ例のフリフリ衣装を着て会場でハシャいでいたのかもしれない。想像した彼女の姿は中々凄いものだった。


「それよりアイツ大丈夫なの」


「アイツ?」


「木下くんよ。今日の事バラしたりしないかしら」


「あぁ。口止めしておいたから大丈夫だよ」


 今日バッタリ遭遇した事と、華恋さんのコスプレの件。それらを内緒にしておいてほしいと頼んでおいた。


「それにしてもよく殴らなかったじゃん。コスプレ見られたのに」


「当たり前じゃん。周りに人がたくさんいたのよ」


「な、なら周りに誰もいなかったとしたら?」


「はぁ? フルボッコに決まってんでしょ」


「それ犯罪だから…」


 友人が知らず知らずのうちに命拾いしていた事が判明。周りにいた数多くの参加者に感謝せずにはいられなかった。


「ふぅ…」


 席に座りながら窓の外の景色を眺める。綺麗なオレンジ色の夕焼け空を。


 お互いに疲れてしまったからか口数が次第に減少。最後の乗り換えを済ませる頃には会話がゼロになっていた。


「ん?」


 ふと肩に重みを感じる。隣に意識を移すと華恋さんが体にもたれかかっていた。


「お~い」


 どけようと頭に触れる。僅かな恐怖感を抱きながらも。


「……すぅ」


「もしかして寝てる?」


「んんっ…」


 至近距離で寝息が聞こえてきた。普段の荒々しい口調とは違う色っぽい声が。


「……しょうがないな」


 揺り起こそうとしていた手を下げる。間近にあるのは幼さを感じさせる表情。どこか懐かしさを覚える端正な顔立ち。


「大人しくしてれば可愛いんだけどなぁ…」


 はしゃぎ疲れてしまったのだろう。朝からずっとテンションが高かったし。こんな無防備な姿を見せてしまうなんてよっぽど眠気を堪えていたに違いない。


「お母さぁん…」


「ん?」


「……むにゃ」


「なんだ、寝言か」


 肩にかかる重さに耐えながら景色の観賞を続行。それから地元の駅に到着するまで彼女が目を覚ます事はなかった。

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