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8 敵意と悪意ー6

「も~、雅人くんどこ行ってたの。ずっと捜してたんだよ」


「え? え?」


「勝手にどっか行ったらダメじゃない。心配したんだから」


 そんな状況を打破しようと同居人が行動を起こす。甘ったるい声と共に腕を引っ張ってきた。


「あ、木下くんと一緒にいたんですか。こんにちは」


「ども」


「すいません。実は私達、従兄妹なんです」


「あ、そうなんだ」


「黙っていてごめんなさい。驚きました?」


 そのまま次から次へと嘘を連発。予想もしていなかった展開に思考がまるで追いつかなかった。


「いや~、まさか見つかってしまうとは思いませんでした」


「ん…」


「な、なんか恥ずかしいなぁ。ね、雅人くん?」


「そ、そうですね」


 とりあえず颯太には自分達が親戚という設定で通すつもりらしい。彼女の口から出る出任せに適当に相槌を打って答えた。


「この衣装も雅人くんに着せられたんですよぉ」


「へぇ、でも似合ってるよ」


「そうですか? ありがとうございます、ふふふ」


「……いやいや」


 いつの間にか従姉妹にコスプレさせる変態に仕立て上げられる。とはいえ反論する権利は与えられていないので2人の会話をただ黙って傍観する事に。


「あ……ごめんなさい。私、もう着替えないと。雅人くん、こっち」


「え? あ、うん」


「すいません、ちょっと更衣室に行って来ますね」


 黙り込んでいると華恋さんが再び腕を引っ張ってきた。汗で湿った手で。


「ね、ねぇ」


「……ん」


 彼女に呼びかけるが全てスルー。聞こえていないのか意図的な無視なのかは不明だが。


 解放されたのは更衣室近くの場所までやって来た時。人が少ない壁際へと連れて来られたタイミングでようやく問い掛けに答えてくれた。


「ごほっ!?」


「アンタねぇ、友達がいるならいるってちゃんと言いなさいよ」


「ゲホッ、ゲホッ…」


 腹部に強烈なパンチが飛んでくる。本気ではなかったが怒っている心境が窺える攻撃が。


「どうしてくれんのよっ! 見つかっちゃったじゃない」


「いや、そんなこと言われても」


「しかもよりによってクラスメートに……はぁ。最悪だわ」


「仕方ないじゃん。人が集まるイベントなんだからさ」


 彼女の手が額に移動。露骨に不満をぶちまけてきた。


「仕方なくないわよ! アンタが勝手にどっか行ったりしなければ木下くんに会う事もなかったでしょうが」


「悪い…」


「おかげでこの格好も見られちゃったし……恥ずかしい」


「……む」


 ならイベント自体に参加しなければ良かっただけの話。もしくは1人で足を運んでいたか。そもそも散々この格好で歩き回っていたクセに注目されて恥ずかしいはおかしかった。


「着替えてくるから鍵返して」


「うぃっす」


「……ったく。またフラフラどっか行ったりするんじゃないわよ」


「へいへい…」


 持っていたポーチを投げる。鬱憤を晴らすようにやや乱暴に。どうやら颯太の所へは戻れず、ここで待機していなくてはならないらしい。


 それから待たされる事20分。私服に身を包んだ華恋さんが姿を現した。



「あ、あれ?」


「ん? 何よ」


「どうして戻っちゃってるの? コスプレは?」


「はぁ? クラスメートに見つかっちゃってんのに着れる訳ないでしょ。もう終わりよ、終わり」


「そ、そうなんだ」


 予想を裏切る展開が訪れる。自分にとっては良い意味で。


「ちなみにもう1着の衣装ってどんなの?」


「うららちゃんの魔法使いバージョン」


「へ、へぇ……見てみたかったな」


「前に見たじゃない。家で着てた時に」


「あぁ、あれか。ヒラヒラの衣装」


「そう、それ」


 以前に目撃した恥ずかしい服だった。思い出されるのはステッキで殴られた時の苦い記憶。恐らくうららちゃんは杖を使って敵をボコボコにするキャラなのだろう。


「あ~、アレも着たかったなぁ。くそっ」


「……まだ言ってるし」


「誰かさんのせいで台無しだわ。魔法使いバージョン」


「えぇ…」


 合流したので元いた場所に戻る。その最中も彼女はずっとグチグチ文句を垂れ流し続けていた。


「あのさ、最初から自分でポーチ持ってれば良かったんじゃないの?」


「はぁ?」


「そうすれば仮にはぐれたとしても着替える事が出来たじゃん。でしょ?」


「……アンタになら預けても良いかなぁって思ったのよ」


「え…」


 あまりにも我慢が出来ず抱えていた不満をぶつける。しかし顔を赤らめる彼女の仕草に言葉を紡いでいた口の動きが停止。


「ん…」


 こういうリアクションは反則だった。しおらしい態度をとられたら心を動かされずにはいられないから。


 とはいえ感情と本題は別。失敗の挽回は自己責任だった。


「そんなこと言って実は自分で持つのが面倒くさかっただけでしょ」


「あ、バレた?」


「やっぱり…」


 追及に対して彼女が表情を変化させる。悪びれる様子のない笑顔へと。


「お待たせ」


「おう。意外に時間かかったんだな」


「あれ? なんで顔に絆創膏貼ってるの?」


「ん? 婦警の格好したお姉さんに警棒で叩いてくださいってお願いしたら何故かビンタされたんだよ」


「……何してるのさ」


 キャリーバッグをガラガラ引きながら友人の元へと戻って来た。どうやら何人かの参加者に写真を撮らせてもらっていた様子。


 その後は3人で歩き回る事に。時間が進むにつれ会場内の熱気は増大。けれどやはり重たい荷物を持ちながらの歩行は厳しい為に外へと脱出する事にした。


「歩き回ったから足がパンパンです。疲れちゃいました」


「もう帰る?」


「そうですね。帰って夕御飯の支度もしないといけないですし」


 華恋さんが帰宅を意味する台詞を吐く。本人がそう言っているのだから従った方が良いのだろう。


「颯太はどうする? 僕達はもう帰るけど」


「俺はまだ残ってくよ。夜のライブとかあるし」


「そっか。なら悪いけど先に帰らせてもらうね」


「おう。また婦警コスのお姉さん追いかけてくるわ」


「……本物を呼ばれないように気を付けてね」


 声優さんだかを呼んでイベントが行われるらしい。今日はそれを楽しみにここまで足を運んで来たんだとか。まだまだ疲れを見せていない様子の友人を残して会場を後にした。

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