エピローグー10
「いちち…」
上半身を起こして背筋を伸ばす。カーテンの隙間から漏れる朝日を感じながら。
「何だ、こりゃ…」
すぐ横には寝相の悪い人物を発見。両手両足を大きく広げ、口からはヨダレを垂らしている女の子がいた。
「お~い、朝だよ」
「……ふぇ?」
「出掛けるんでしょ。いつまで寝てるつもりなのさ」
肩を揺さぶって起こす。やや強めに。
「……今、何時?」
「もう8時過ぎてる」
「うぅ~ん……眠たい」
「都内を案内してくれるって言ったじゃん。ほら、起きた起きた」
今日は2人であちこちを探索する予定。夜には向こうに帰ってしまうので自由に動き回れる時間が限られていた。
「気分はどう?」
「……無理やり叩き起こされたから最悪」
「いや、そうじゃなくて…」
「でも雅人がいたから幸せかも。デッヘヘへ」
「……元気そうで何よりです」
どうやら昨夜に催した吐き気は完全に治まった様子。2日酔いの兆候もなく、体調は完全に元通りになっていた。
簡単な支度を整えた後は2人で外へ。近くのファミレスに入って朝食を済ませた。
「ねぇねぇ、どこ行きたい?」
「ん~、とりあえず景色が綺麗な場所」
「ならお台場かな」
「行き先は華恋に任せる。どこに何があるかよく分かんないし」
「ん、了解」
電車に乗ってあちこち回る。都心の生活に慣れた相方に案内されながら。見る物の全てが刺激的で新鮮。気分は常に高揚感に包まれていた。
「ここって埋立地らしいよ」
「へぇ、そうなんだ」
「昔は砲台として使ってた場所らしい。当時の人が見たら驚くだろうね」
「確かに」
目的地にやって来た後は当てもなくブラつく。大きな商業施設や観覧車を。
「うおぉ、高い」
お台場を見学すると次は東京タワーに移動。高い場所から見下ろす街並みに興奮が止まらなかった。
「そういえば私もここ来るの初めて」
「あれ? 今まで来なかったの?」
「基本的に秋葉か原宿ばっかり行ってたからなぁ。それか池袋か」
「趣味全開の都内散策だ。小田桐さんに何か言われなかった?」
「ぜ~んぜん。むしろメイド服を着せたりして遊んでたよ」
「着せ替え人形じゃないんだから…」
その時の光景を想像するが微笑ましい。少しばかりいやらしく感じるやり取りが。
「綺麗だね」
「うん…」
しばらくはその場で景色鑑賞を続行。喉が乾いたら自販機で購入したジュースを飲んだ。
「……何時頃に帰るの? 向こうに」
「ん~、遅くても20時台の新幹線には乗りたいかな。あんまり遅くなると明日起きるのが辛いし」
「もう1日ぐらい泊まっていけば良いじゃない。講義なんかサボっちゃってさ」
「無理だよ、着替えも1日分しか持ってきてないし。それに明日は華恋がバイトあるからどのみち一緒に行動出来ないじゃん」
「それはそうだけどさぁ…」
離れ離れになるのが淋しいから残ってほしいのだろう。だが帰還を引き伸ばしたとしても、また別れ際に辛くなるだけ。予定を何日先にズラそうとも。
どうするか決まっている時は少しでも早く行動した方が良い。躊躇いが後悔に変わってしまう前に。
「……お腹空いたなぁ」
夕方になるとタワーを出て近くを散歩。昔ながらの洋食屋に入ってオムライスを食べた。
腹ごしらえを済ませた後はお土産を買う為に東京駅へと移動。地下街を見て回った。
「何を買っていこうかな…」
適当に目に付いた菓子類を手に取る。カラフルなタワーや駅舎の模型を。
「……本当に帰っちゃうの?」
「まだ言ってるし」
「だってさぁ…」
相方がワガママ発言を連発。場所が移り変わるにつれテンションが下がっていた。
「またすぐ遊びに来るって」
「本当に?」
「うん。バイトを見つけてからになると思うけど」
「……なら我慢する。毎週会いに来てくれるっていうなら」
「交通費いくらになると思ってんすか…」
購入品を決めると精算を済ませる。数人の客がいるレジに並んで。
「あと向こうに帰ってからもあんまり女の子と仲良くしないでほしい…」
「ほ?」
「2人っきりで行動するの本当にやめてよ。特にあの子とか」
「う、うぃっす…」
流れでとある人物の存在が登場。名前は出さなかったが誰の事なのかは瞬時に理解出来た。
「優奈ちゃんは華恋に会いたいって言ってたよ」
「え?」
「今度は一緒に連れて来てもいい?」
「……そうね。茜っちも誘って4人で遊ぼっか」
「男1人かぁ。バランス悪いから鬼頭くんにも声かけようかな」
「なら智沙も連れてきてよ」
「ふ~む、そうなると颯太や紫緒さんにも声かけないといけないか…」
友人達の名前を出して盛り上がる。本人達の意向を無視して。
不思議な関係を実感。何度も別れたり、嫉妬したりする繋がりを。
そしてそれは目の前にいる妹だけでなく知り合った家族や友人達も。人生という物の意味が少しだけ理解出来た気がした。




