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エピローグー1

「ん、んんっ…」


 体に異変が起きる。振動と思われる不自然な現象が。


「……と」


「んんっ…」


「……さと」


「う~ん…」


「雅人っ!」


「へ?」


 間近で名前を呼ばれたので慌てて返事。間抜けな声が口から出た。


「アンタ、いつまで寝てんのよ。学校遅刻するわよ」


「……はぇ?」


「お父さんもお母さんもとっくにリビングにいるからね。まだ寝てるのアンタだけだから」


「あ、そうなんだ」


 目を開いた瞬間に1人の人物が視界に飛び込んでくる。ロングヘアーの女の子が。


 瞼を擦ってその正体を確認。揺り起こしてきた家族だった。


「どうせまた夜更かししてたんでしょ。まったく……何回言っても聞かないんだから」


「えっと……今、何時?」


「はぁ? もう7時過ぎてるわよ。目覚ましの音、聞こえなかったの?」


「ごめん。鳴った事すら気付かなかった」


「それじゃあ意味ないじゃないの。私が起こしに来なかったらまだ寝てたわけか」


「……面目ないです」


 すぐ横に座っていた彼女が立ち上がる。真っ赤な制服に身を包んだ状態で。


「あれ?」


 同時にある疑問が発生。それはどこからどう見ても女子高の制服だった。


「ん? どうかした?」


「あのさ、なんでその服着てるの?」


「はあぁ? アンタ、寝ぼけてんの? 学校行く為に決まってんでしょうが」


「そうじゃなくて、いつもと違わない?」


「何言ってんのよ。寝不足で頭おかしくなっちゃったか」


「いやいや、そんなハズないし」


 しかし上半身を起こした所で別の異変にも気付く。よく考えたら学校はとっくに卒業。今さら制服を着る意味は無い。


 また何かのコスプレなのだろうか。様々な憶測を巡らせていると視界に広がる部屋の様子が更に脳の思考を混乱へと陥れた。


「……どこ、ここ」


 いつもと違う。本棚や机の配置、入口のドア。自分がいるベッドも窓にかかっているカーテンも。全て意識とは違う場所にあった。


 辺りを見回すがおかしな部分は見当たらない。普段通りの自室。けれど何かがおかしい。心の中にある違和感が拭えなかった。


「大丈夫? もしかして寝てる時に頭ぶつけた?」


「……ねぇ、華恋だよね?」


「はぁ?」


「偽物……なわけないか。こんな狂暴な人間がそうそういるハズないし」


「どうして呼び捨てにしてんのよ! 姉ちゃんでしょうが、お姉ちゃん!」


「いてててっ!? ごめんなさい!」


 部屋から出て行こうとしていた彼女が引き返してくる。そのまま足の爪先でお腹をグリグリと回してきた。


「ボケッとしてないでサッサと起きなさい。遅刻したら私がわざわざ起こしに来た意味がないでしょ」


「わ、分かったよ。とりあえず足をどけてくれ」


「……ったく」


 痛みは感じないがくすぐったい。制裁を済ませた暴行犯は不機嫌な様子で部屋を退散した。


「姉ちゃん…」


 確かにそうだ。彼女は自分の姉で家族。それ以外の何者でもない。


 ならなぜ今、無意識に名前で呼んでしまったのか。不思議な感情が心の中で渦巻いていた。


「ううぅ、寒っ」


 シャツを脱ぎながらクローゼットの前に移動する。肌に当たる冷たさのせいで少しずつ意識がハッキリとしてきた。


 自分は双子の姉がいる高校生。父親はサラリーマンで母親は普通の専業主婦。


 頭の中に入っている当たり前の情報を1つ1つ確認する。長い夢を見ていたせいか置かれている状況がどうにも受け入れられないでいた。


「おはよ」


 着替えを済ませた後はリビングへとやって来る。食事を始めている家族がいる空間に。


「おはよ、雅人。早く顔洗ってきてご飯食べちゃいなさい」


「うん、分かった」


「パンで良いわよね? 菓子パンとトースト、どっち食べる?」


「トーストで。マーガリン両面つけて焼いておいて」


「はいはい、本当にタップリ塗るの好きなんだから」


 母親と会話を交わしながら洗面所に直行。顔を洗った後は再びリビングへと引き返した。


 父親はニュースを見ながら独り言をペチャクチャ。母親はそんな父親の言葉に頷くだけ。向かいに座っている姉は眉間にシワを寄せてケータイを弄っていた。


「いただきます」


 3人にやや遅れて朝食をとり始める。いつもとなんら変わらない朝の風景に身を投じて。


「んむっ…」


 自然体を装っていたが違和感は未だ存在。状況だけではなく周りにいる家族に対しても。


 正しい構図なのに何かが足りない。いつもすぐ隣にいたハズの誰かがいない気がしていた。


「またボケーっとしちゃって」


「へ?」


「早く食べないと遅刻しちゃうわよ。お姉ちゃん、もう食べ終わったから」


「あ…」


 母親に指摘されて向かいの席に視線を移す。空になった食器を手際良く積んでいる姉の方へと。


「んぐ、んぐっ」


 置いてけぼりを喰らうわけにはいかないので食事をするペースをアップ。パンを口の中に押し込むとコーヒーを使って無理やり奥に流し込んだ。


「忘れ物……ないよね」


 自室に戻って来た後は荷物を確認する。大雑把に詰め込んだ鞄の中身を。


「あ、あれ……姉ちゃんは?」


「お姉ちゃんならもう出てったわよ。雅人を待ってたら遅刻するからって」


「えぇ、そんな…」


 そしてリビングに引き返してきたが既に父親と姉が不在。どうやら一足先に出発したらしい。


「行ってきま~す」


「気を付けてね~」


 2人の後を追いかけるように自分も登校開始。玄関の扉を開けてマンションの共有廊下へ飛び出した。

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