18 思い出と記憶ー1
「う~ん…」
自室で1人悩み続ける。これからどうするべきなのかを。
「1人暮らしかぁ…」
勢いで口にしてしまったが、華恋を追いかけるという事は住んでいる家を出て行ってしまうという事。自立だった。
しかも彼女と違い、お世話してくれる人もいない。だから住居も働き口も自力で見つけださなくてはならない。
妹や同級生の所へ転がり込むのはいくらなんでも身勝手すぎる。図々しい居候だった。
「むぅ…」
更に地元を離れると颯太や智沙といった付き合いの長い友人達とも会えなくなってしまう。これまで共に暮らしてきた家族とも。
病気や怪我を負ったからといって助けてくれる人もいない。食事も全て自己負担。
上手くいかなかったからといって戻ってくるのも格好悪すぎる。やるなら二度と家族には頼らない強い覚悟が必要だった。
「お?」
妄想に浸っていると机の方から軽快なメロディーが鳴る。メッセージの受信を知らせる音か。
「……颯太か」
華恋からの連絡を期待しながらケータイを確認。しかし届いていたのは翌日に一緒に遊ばないかという友人からのお誘いだった。
付き合ってあげたいが今は外出するような気分ではない。何より少しでも長く妹の側にいたかった。
「おかえり」
「ん、ただいま」
そして翌日の昼過ぎに彼女は帰宅する。満足感に溢れた表情で。
「どうだった? 新しく住むアパート」
「結構綺麗だったよ。狭いのが難点だけど2人で暮らすなら大丈夫かなぁって思った」
「どんな感じの街だった? やっぱり人は多かった?」
「新幹線降りたらごった返してたけど、私達が住む街はそんなでもなかったかな。ここより少し都会な住宅街って感じ」
「ふ~ん、なら家賃も安そうだね」
「安くなきゃ困るわよ。じゃないと貧乏人は生きていけないもん」
話を聞くと小田桐さんの知り合いというお姉さんは豪快な人だったとの事。積極的な性格で既に家財道具一式を揃えてくれていたというのだ。
「ご飯も奢ってくれたりしてさぁ。凄く良い女性だったんだよね」
「へぇ、良かったじゃん」
「でも申し訳なく感じてきちゃって。お金貯まったらちゃんとお礼しないとなぁ」
「バイト先はまだ決まってないんだよね? 向こう行ってから探すの?」
「うん、早いとこ見つけないと家賃も払えないから困るし。貯金、そんなにあるわけじゃないからさ」
「……そっか」
今なら引き止められるかもしれない。仕事場が決まってない今なら。
「と、ところでいつ向こうに行くの?」
「ん~……明後日」
「え?」
「荷物は既に纏めちゃってるし」
「は、早くない? もう少しさ…」
「それに私と違って茜ちゃんは専門に通わないといけないから。ちょっとでも早く向こうに移りたいハズなんだよね」
「……あ」
確かにそれならすぐにでも新居に向かいたいハズ。新しい生活に慣れる為に。
けれどそれは小田桐さんの事情であって華恋の事情ではない。2人には別々に上京してもらう方法もある。ただその願望はいつまでも妹にしがみつこうとしている情けない兄貴の都合でしかなかった。
「頑張らなくちゃな、私も」
「ん…」
もう引き止める事すら許されない。そして後を追いかける事も。
自分がしなくてはならない事は旅立つ妹の後押し。そして彼女からの自立だった。




