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17 父と子ー3

「……またいなくなっちゃうわけか」


 そして翌日に華恋は自宅を出発。旅行にでも行くようなテンションで家族に挨拶しながら。


 彼女の部屋に残されたのは様々な荷物を詰め込んだダンボールのみ。生活感がほとんど消えていた。


「お~い、雅人」


「何?」


「今、ヒマか?」


「ヒマだよ。明日もヒマだし明後日もヒマ」


 茫然と突っ立っていると声をかけられる。いつの間にか後ろに立っていた父親に。


「なら良かった。今から父さんとドライブに行かないか?」


「は? どうして?」


「暇なんだろ? だったらたまには男2人で仲良く出掛けようじゃないか」


「え~、やだよ。外寒いし行きたい場所もないし」


「何故だ! たまには父さんと親子の仲を深め合おうと思わないのか!」


「だって父さん、いっつも恋愛ゲームやってるじゃん。食事中もテレビ見てる最中も」


「それは仕方ない。何故なら父さんの嫁はケータイの中に存在しているからだ」


「そんな事ばかり言ってるから母さんにビンタされるんだよ…」


 医者なんだから頭は良いハズ。なのにどうしてこんな残念な中身になってしまったのかが分からない。


「はぁ……仕方ないなぁ」


「飯は途中、どこかで食べよう」


「へいへい」


 嫌がってはみせたものの特に予定もなかったので提案を了承する事に。普段はあまり乗り込む事のない自家用車を使って自宅を出発した。


「こうして父さんと2人で過ごすの久しぶりな気がする」


「そういえばそうだな。家の中だと常に誰かがいるし」


「昔は2人でファミレスに行ったよね。ラーメン屋とか牛丼屋とか」


「俺は料理が苦手だったからなぁ。自炊した方が健康的だと患者には勧めていたんだが、自分自身は外食にばかり頼っていた」


「医者の不養生おつ」


 不器用ながらに頑張っていた姿を思い出す。頼りなさげに感じていた背中を。そして自分がそんな父親の年齢に近付いていく実感が少しずつ湧き出していた。


「ちなみにドライブはいいけど、どこに行くつもりなの?」


「ん? 全く考えてないぞ」


「なら今どこを目指して走ってるわけさ。当てもなくさ迷ってるの?」


「あぁ、もちろんだ。父さんはいつだって考えるよりも先に行動するタイプだからな」


「いくらなんでも無計画すぎるよ。せめて漠然とした予定でも決めて出発すれば良いのに」


「男は時にガムシャラに突き進む事も必要なんだぞ。迷ったら悩め、失敗したらやり直せ」


「はいはい…」


 車内で熱い議論を交わす。そしてガムシャラに突き進んだ車は料金所へと突入してしまった。


「……しまった。うっかり高速に入ってしまった」


「何やってるのさ。街からどんどん遠ざかるじゃないか」


「まぁ間違えてしまったものは仕方ない。このまま突き進む事にしよう」


「とりあえずお腹空いたから何か食べよ。次のサービスエリアに入ろうよ」


「そうだな。父さんもそろそろ小腹が空いてきた頃だ」


 そのまましばらく無意味に走り続ける事に。休憩所を見つけると迷わず突入。だが間違えて出口へと直行してしまった。


「……しまった。駐車場を探してたら出口にまで来てしまった」


「何やってるんだよ。これじゃあ何の為に立ち寄ったかが分からないじゃないか」


「また次のサービスエリアを探そう。さすがにこの場所でバックは危険だ」


「はぁ…」


 腹ごしらえもトイレ休憩も出来ないままオアシスを通過する。虚しい気分に苛まれながら。


「ちなみにこれってどっち方面? 東京?」


「いや、岐阜の方だな。北上してる」


「残念…」


 華恋達との偶然の遭遇を期待するがすぐに頓挫。そして次のジャンクションで下りようとしたが車線変更に失敗。出口を通過してしまった。


「……しまった。下りようと思ってたのに通りすぎてしまった」


「もう何やってるんだよ。またしばらく走り続けないといけないじゃないか」


「とりあえずどこかでガソリンスタンドに入ろう。そろそろ残りの燃料がヤバい」


「次のサービスエリアにあるみたい。そこに立ち寄ろう」


 これでもかというぐらいの災難続きなドライブ。計画が上手く捗らない。


 そして次のサービスエリアでようやく休憩に成功する。トイレに行った後に食堂まで移動し、2人でラーメンを注文した。


「ふぅ……やっとご飯にありつける」


「父さんの体もガス欠寸前だったからな。ギリギリセーフだ」


「自業自得だよ」


「わっはっは!」


 妙な高笑いがテーブルに響く。まるで反省の色が見えない態度が。


 周りを見回すと自分達以外のお客さんはほとんどいない。春休み前の平日だからかガラガラだった。


「お? この辺りは温泉があるのか」


 父親が近くに置かれていたチラシを手に取る。観光客用のパンフレットを。


「もう少し進んだ場所にあるらしいな。行ってみるか?」


「行って何するの? ただ入るだけ?」


「それはもちろん温泉に浸かる為よ。日頃の疲れを削ぎ落とすのさ」


「別に僕はそこまで疲労してないから興味はないんだが…」


「まぁまぁ、せっかくだから寄っていこうじゃないか」


「仕方ないなぁ…」


 強引に目的地を決められてしまう。抵抗の意思を無視して。


 食べ終わった後は空の食器をレジ横の棚へと返却。隣接されていたスタンドでガソリンを補給し、更に山奥を目指した。


「おぉ、ここだ」


 そして車を数十分走らせて辿り着く。緑に囲まれた田舎町に。


「見ろ、この綺麗な景色。大自然が作り出した宝物だ」


「雲と霧で何も見えないんだけど」


「くそっ、なんとタイミングの悪い」


「日頃の行いのせいかな」


 妖怪の類いでも現れそうな悪天候。温泉を案内する看板を見つけた後は指示に従って施設へと移動した。


「お? 露天風呂があるじゃないか」


「みたいだね」


「そこのドアから外に出られるみたいだな。じゃあ早速行ってみよう」


「いやいや、その前に体を洗わないと」


「おっと、うっかり。わっはっはっ」


 受付を済ませると奥の浴場に突撃する。湿度が異様に高い空間に。


「どうだ。気持ちいいだろ?」


「いや、分からないよ。温泉を求めてるほど疲れてもないし」


「自然の景色を眺めながらの入浴。最高じゃないか」


「モヤで何も見えないけどね」


 男2人でまったりとした時間を堪能。何物にも束縛されないひと時を過ごした。


 それからサウナやマッサージ機を一通り巡って外へ。特に遊べそうな場所もなかったので自宅へと引き返す事になった。


「ただ温泉入りに来ただけじゃん…」


 ほとんど蜻蛉返りに近い。天候のせいで景色も微妙。店先で並んで写真を撮ったが、成果の見出せない暇潰しとなってしまった。

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