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16 雪解けと卒業ー5

「あれ、どこだ…」


 帰宅して真っ直ぐ部屋へと駆け込む。購入した漫画を机の上に投げ捨てると本棚を物色した。


「……おかしいな」


 しかし目的の物が見当たらない。たまに部屋を掃除してくれている華恋からも発見の報告は受けていなかった。


「ねぇ、僕の卒アル知らない?」


「はぁ? いきなりどうしたの?」


「探してるんだけど見つからなくてさ。間違えて持っていってない?」


 同じ場所だけを探していても埒があかないので範囲を広げる事に。とりあえず隣の部屋へと足を伸ばした。


「何をどうしたら間違えるというのさ。自分の分しか持ってないよ」


「ならこの部屋探索して良い?」


「ダ、ダメに決まってるじゃん。勝手に入って来ないでよ!」


「ベッドの下とか怪しい」


「うわあぁあぁぁっ!?」


 床に膝を突くと探し始める。様々な物が無造作に放り込まれている空間を。


「どれどれ……それらしき物は見当たらないな」


「何やってんの、もうっ!!」


「いっで!?」


 直後に側頭部に痛みが発生。部屋主による踏みつけ攻撃が始まってしまった。


「ちょ……足どけてくれ!」」


「まーくんこそ出てってよ。なに勝手に人の部屋を荒らそうとしてんのさ!」


「別に荒らそうとはしてないって。ただ探し物を…」


「だからこの部屋には無いって言ってんでしょ、出てけぇーーっ!」


「ぐわあっ!?」


 シャツの首根っこを掴まれる。小柄な人物とは思えないような怪力で。


「ちょっ…」


「ふんっ!」


「……やっぱり無断進入はアウトだったか」


 そのまま強制的に廊下へと追放。不機嫌さを表すように全力でドアを閉められてしまった。


「あ…」


 どうしようか迷っているとある事に気付く。アルバムは自分だけが持っている訳ではない事に。


「え? いや僕がそっち行くよ。だって悪いし」


 すぐに端末を取り出して通話を開始。数回のコールの後、颯太に繋がった。


「ん、ん……分かった。それじゃ待ってる」


 こちらから向かおうとしたが拒まれてしまう。どうやら時間を持て余しているらしくバイクでうちまで持って来てくれるとの事。


 それから待つ事30分。エンジンをふかす音と共に呼び鈴が鳴らされた。


「よう、持ってきたぜ」


「え? 君、颯太?」


「ふざけんなっ! 俺だよ、俺!」


「いや、だからそう言ったじゃないか」


 開いた扉の先に黒いヘルメットを被った人物が立っている。手に茶色い紙袋をブラ下げたジャケット姿の男が。


「ん、これ」


「サンキュー。わざわざ悪かったね」


「いや、謝らなくちゃいけないのは俺の方だよ。今まですまんかったな」


「え、何が?」


「雅人の卒アルさ、実はずっと俺が持ってたんだよね」


「はぁ?」


 中身を確認すると配達物を発見。詳しい事情を聞くと、うちに預けていたエロ本を持ち帰る時に誤って持っていったとの事。そしてそれが判明したのがついさっき。何故かアルバムが2冊ある事に気付き、そこで初めてミスが発覚したらしいのだ。


「いやぁ、悪い悪い」


「まぁワザとじゃなかったから良いけど。でもどうして気付かずに持っていっちゃうかな」


「本棚の後ろにあったからじゃないの? だから俺も間違えて一緒に仕舞っちゃったんだと思うぜ」


「なるほど。いつの間にか挟まってたのか」


 恐らく棚の上に置きっぱなしにしていたのが何かの拍子で落下してしまったのだろう。そして他のいかがわしい本と混ざり合い、颯太の手によって持ち帰られてしまったのだ。


「ちょっとしたミステリーみたいだね」


「だな。まさか犯人が俺だったなんて」


「あはは」


「じゃあ、これ。妹物も山ほど持ってきてやったぞ」


「……こっちはいらないよ」


 彼から差し出された物を拒む。家族に見られたら恥をかいてしまう雑誌を。


「来てすぐだけど帰るわ」


「ん?」


「部屋を散らかしっぱなしで出てきたから片付けないと母ちゃんに叱られちゃうんだよね」


「わざわざありがと。今はもう実家に帰って来てるんだっけ?」


「おう、後は卒業式に出るだけだからな。制服着るのも次が最後ってわけだ」


「そっか…」


 ジャケット姿の背中が手を振りながら退散。華麗に走り去るバイクを同じ仕草で見送った。


「久しぶりだなぁ…」


 自室に戻って来るとベッドに寝転がってアルバムを閲覧する。ページを開いた瞬間に感じた独特の匂いを反芻しつつ。


 そこに載っていたのはかつて通っていた学校。毎日のように顔を合わせていた同級生達。たかが数年前の写真なのに懐かしい。まるでタイムスリッブしたかのような奇妙な錯覚に陥った。


「あ、智沙だ」


 女子の中に人一倍見覚えのある人物を発見する。短めの髪に凛々しい眉毛の友人を。


 顔立ちがかなり幼い。日頃あまり変化を感じていなかったが、いざ比較すると時代の流れを思い知らされた。


「……初々しい」


 ページを捲ると隣のクラスへとやって来る。そこに写っているのは満面の笑顔で写っている颯太。そして不自然な笑みを浮かべている自分。


「変な顔…」


 2人共、今よりもずっと若い。ついでに笑っている表情が不自然で不気味だった。


「あ…」


 しばらくすると目的の場所へと辿り着く。それぞれの将来の職業を書いた場所へと。


 他の生徒には目もくれず自分のスペースを確認。そこには控え目な文字で『夢を見つける事』とだけ記されていた。


「えぇ…」


 うなだれるようにベッドへと倒れ込む。期待が大きく外れてしまったので。


「あ~あ…」


 覚えていなかった理由に納得。自分は今も昔も夢なんか持っていなかったのだから。


「……いや、違う」


 少なくとも当時は未来に希望を持っていた。例えこの答えが無理やり書かされた物であったとしてもいつか何かを見つけられていると期待していたのだろう。


「ん…」


 目標を探す為に高校に進学したのに。3年間の間で得た物はただの絶望だけ。


 けどまだ終わってはいない。長い人生は始まったばかりだった。


「うっし!」


 天井を見上げながら握った拳を掲げる。根拠の無い自信が心の奥底から湧き出していた。

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