表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/354

8 敵意と悪意ー3

「ふぁ~あ…」


 そして翌日、休みの日だというのに朝の8時に起床。いつもだったらまだベッドの上で夢の中。日曜日に早起きしたのはマラソン大会以来だった。


「よいしょっ、と」


 予め香織から借りておいたキャリーバッグを持って階段を下りる。彼女には昨夜『疑ってすいません』と謝っておいた。


「こっちこっち」


「あ、うん」


 一階へとやって来ると手招きしている華恋さんを見つける。就寝中の家族を起こさないよう小声で会話を開始。誘導に従い速やかに客間へと進入した。


「サンキュー。助かっちゃった」


「荷物ってどれぐらいあるの?」


「途中で着替える予定だから2着分。あとステッキとティアラも持って行きたいから」


「へぇ」


 部屋を見回すと綺麗に折り畳まれたカラフルな衣装を発見する。今日着ると思われるコスプレ衣装を。


「会場で着替えるの?」


「そうよ~」


「着替えってどこでやるの? トイレの個室?」


「アンタ、馬鹿ね。皆がトイレ使ったら混雑しちゃうでしょうが」


「……そりゃまぁ」


 どうやら参加者用にちゃんとした更衣室が用意されているらしい。荷物もロッカーに預けておけるんだとか。言葉を交わしながら彼女が持って行く手荷物をバッグに詰め込み始めた。


「全部入りそう?」


「大丈夫。それよりあっち向いててくれる? 着替えとか見られるの嫌なんだけど」


「いやいや、ただの衣装じゃないか」


「それでもよ。終わるまで外に出てなさい!」


「ちょっ…」


 作業中の手を止めて背中を押してくる。パワフルな張り手により強引に部屋から追放。


「はぁ…」


 無理やり付き合わせてきたり突っぱねてきたり。意味が分からない。仕方ないので一足先に玄関で待機する事にした。


「お待たせ」


「もう終わったの?」


「うん。じゃあ出発するわよ。早く会場行かないと」


「よっこいしょ…」


「ジジくさいわねぇ。アンタ、歳いくつよ」


「君と同い年」


 リビングにいた両親に挨拶すると2人で家を出る。まだ寝ている妹には『華恋さんを連れてクラスメートと遊びに行ってくる』と連絡。


 外に出ると広々とした青空が存在していた。見事というしかない快晴が。


「この音うるさいよ。結構響く」


「仕方ないでしょ、キャリーバッグってこういうもんなんだから。代わりにアンタが持ってくれるの?」


「いや、重たいからちょっと……それより何でサングラスしてるの?」


「ん、これ? 万が一知り合いに見つかったりしたら困るでしょ。カモフラージュよ、カモフラージュ」


「……なるほど」


 こんなアイテムで素顔をごまかせるものなのだろうか。どこかの組織に所属している女スパイに見えなくもない。


 それからいつもよりものんびりとしたペースで地元の街を移動。駅に着くと電車に乗ってイベントが行われる会場を目指した。


「どれぐらいで着くの?」


「ん~、1時間弱くらいかな」


「そう」


 日曜日なので車内は混雑気味。仕方ないのでドア付近に2人で並んで立つ事にした。


「そういや部屋に勝手に入らないでくれよ」


「はぁ? 何よ、急に」


「漫画持ってったじゃないか。昨日」


「良いじゃない、借りるぐらい。減るもんじゃあるまいし」


「いや、そういう問題じゃなくてさ…」


 彼女が黙って持っていったせいで部屋中を捜索。しかも無実の妹まで疑ってしまった。


「無断で部屋に侵入した事を怒ってるんだよ。人の部屋に勝手に入らないで!」


「わ、悪かったわよ」


「分かれば良いんだけどさ」


「ごめんなさい…」


 悪態をついてくるかと思っていたが予想に反して素直に頭を下げてくる。口論する気満々だったから拍子抜け。


「……うっ、うぅ」


「ちょ…」


「うぁっ、あぁあ…」


「やめようって…」


 油断していると彼女が口元に手を当てた。震える声で喋りながら。


「ごめん、なさい…」


「……やめて」


「悪気は無かったんです…」


「やめてってば」


「うぅ、あぁあ…」


「嘘泣きって分かってるから!」


「……ちっ」


 すぐさまその芝居を指摘する。言葉に反応して手が顔から離脱。予想通り両目からは少しも涙なんか流れてはいなかった。


「あ~あ、泣けばごまかせるかと思ったんだけどなぁ」


「えぇ…」


 堂々としたその態度に呆れてしまう。怒りすら消え去ってしまうレベルで。


 不信感を抱きつつも電車に乗って移動を続行。途中で地下鉄に乗り換えたりしてどうにか目的の駅へと到着する事が出来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング 面白いと思ったらクリックしてもらえると喜びます(´ω`)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ