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16 雪解けと卒業ー3

「……いい天気」


 平日の昼間、廊下の窓から晴れ渡る空を見上げる。クラスメートの男子と2人で。


「もうすぐ卒業だなぁ…」


「だね」


「赤井くんはどうすんの? 卒業したら」


「……まだ分からない。適当にバイトでも探してフリーターかも」


「ふ~ん」


 男2人で将来についてを協議。登校して来ている生徒は半分ぐらいなので静かだった。


「鬼頭くんは就職だっけ?」


「そだよ。鉄工所勤務予定」


「工場って怖そうな人がたくさんいるイメージ。あと残業とか多そう」


「かもな。でも俺、頭悪いから選択肢がほとんど無かったし」


「自分も資格とか取っておいたらなぁって今更になって思うよ」


「本当にな。マルが羨ましいわ」


 愚痴や憧れをぶつけ合う。ここにはいない人物の名前を出して。


「とりあえず早く働いて金稼ぎてぇわ」


「どうして? 何か欲しい物あるの?」


「物じゃなくて人かな。会いに行くんだよ、優奈の奴に」


「……あ、なるほど」


 会話の流れが妙な場所に不時着。予想していなかったので少々不意を突かれてしまった。


「アイツ、まだ学生だからこっちに来る金もないしさ。来年になったら受験で忙しくなるだろうし」


「バイトやってないのかな。向こうで」


「今んとこはしてないって言ってたよ。超田舎だからコンビニすらほとんど無いらしいぜ」


「そうなんだ」


 彼女とはまともに連絡を取り合っていない。せいぜい年明け後に交わしたあけおめメッセージぐらい。


「どんな街なんだろうなぁ。早く行ってみたいわ」


「働いて給料貰ってから行くんだよね?」


「そだな。目標はゴールデンウイークだ」


「でも本当に仲が良いんだね、優奈ちゃんと」


「そりゃ兄妹だもん。仲悪いより良い方がマシに決まってるさ」


「……そっか」


 少しだけ隣に立つ人物が羨ましく感じる。人として兄として。


「赤井くんだってそうだろ。白鷺さんの事、好きじゃないの?」


「え?」


「だって大事な家族なんだぜ。嫌いになれるハズないじゃないか」


「そう……かな」


「似たような境遇だもんな。だから赤井くんには俺と同じ道を歩んでほしくないんだよ」


「ど、どうゆう事…」


「白鷺さんと別々の進路に進むんだよね? 住む場所もバラバラになるとか」


 外に向けていた視線を彼の方に移動。至近距離で向かい合った。


「とうしてその事を知ってるの?」


「本人から聞いたんだよ。家を出て独立するって」


「そうなんだ…」


「あと俺に恋人役を頼んできた。卒業までの間、付き合ってるフリしてくれって」


「え?」


 動揺が止まらない。友人の告げる台詞の数々に対して。


「まぁ、断ったけどね。いくら白鷺さんの頼みとはいえ、赤井くんを騙すのは気が引けたし」


「……僕を騙す?」


「知り合いを諦めさせたいから協力してくれって言ってたよ。名前は言わなかったけど俺、それが赤井くんの事なんだって気付いちゃった」


「え、え…」


「前は2人でいつもくっ付いてたし、同じ大学に行くんだって張り切ってたのに急に距離を置きだすんだもん。そりゃ何か起きたんだなって考えるよ」


「んっ…」


 どうやら彼は気付いていたらしい。自分と華恋が互いに抱いていた気持ちに。


「赤井くんを忘れたいって意味でしょ? 俺に恋人のフリを頼んできたのは」


「……どうかな。それか本当に鬼頭くんの事が好きなのかもよ」


「ははは、有り得ないよ。いくら鈍感な俺でも自分に対する感情ぐらいは分かるさ」


「いや、でも…」


「赤井くんだってそうだよ。白鷺さんの事が好きなハズだ。この1年ずっと友達やってきた俺が言うんだから間違いないね」


「あ…」


 爽やかな笑顔に自然と惹かれてしまった。嫌味の無い自信に満ち溢れた表情に。


 隣に立つ人物は真相を知っていながら煙たがろうともしていない。非難しようともしていない。そして嘘をついているとも思えなかった。


「赤井くん達がどういう決断をしようが勝手だけど、せっかく巡り会えた兄妹なのにバラバラになっちゃうのは淋しいと思うよ?」


「……そうだね。悲しいよね」


「だから俺は優奈に会いに行くのさ。このまま離れ離れで人生を歩んでいくなんてまっぴらごめんだから」


「妹想いな良いお兄さんだね、鬼頭くんは」


「へへっ、まぁ当の本人からはウザがられてるけどな」


 きっと彼は勘違いをしている。自分達がまだ互いに好意を抱いているのだと。


 真相を告げたいが出来ない。ただ優しい心遣いがたまらなく嬉しかった。


「そろそろ教室入ろうぜ。ここ、寒いや」


「……あ、うん」


 それから数日間は何の変化もない毎日を過ごす事に。昼間は学校で時間を潰し、バイトがある日は精神を削られながら労働に没頭。


 同時にそれらは現状維持が可能な最後の猶予だった。停止不可能なカウントダウンはとっくに動き出していたのだから。

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