表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
327/354

16 雪解けと卒業ー2

「ふぅ…」


 食べ終わった後に一階へと下りて来る。すると脳裏に浮かべていた人物が1人でテレビを見ている現場に遭遇した。


「……香織は?」


「ん? お風呂じゃない? さっきバスルームに入って行ったし」


「なら今のうちに着替えを隠しておこうかな」


「よしなさいよ。妹にセクハラとか」


「香織の奴、最近暴力的になってきたんだよね。誰の影響だろ」


「さ、さぁ。誰でしょうか…」


 冷蔵庫からジュースのペットボトルを取り出してソファに腰掛ける。華恋の斜め向かいの場所に。


「この番組面白い?」


「ん~、まぁまぁかな。特に面白いわけでもないけど、つまらなくもないって感じ」


「バスの旅かぁ…」


 タレントが公共機関を乗り継いであちこちの街を渡り歩いていた。しかし綺麗な景観とは裏腹に、あちこち走らされてハードな内容。


 そしてCMになったタイミングで彼女がチャンネルを別の番組へ変える。バレンタイン特集を放送しているニュースに切り替えた。


「……今日さ、小田桐さんからチョコ渡されちゃった」


「へぇ、良かったじゃん」


「全部で3個も貰っちゃったよ。香織や母さんのも含めたら5つだけど」


「ふ~ん…」


 語る言葉に対して素っ気ない頷きが返ってくる。興味なしといった反応が。


「ち、ちなみに誰から貰ったの?」


「え~と、小田桐さんと紫緒さん。あとは喫茶店で働いてる大学生のお姉さんから」


「……そうなんだ」


「生まれて初めてだ。こんなにも渡されたのは」


「ん…」


 互いに視線は合わせない。インタビューを受けているOLグループの方に意識を向けていた。


「予想ではもう1つ貰えるかなぁと思ってたんだけど」


「智沙?」


「違うよ。あのお方は今まで一度もくれた事ないもん」


「な、なら…」


「くれないかなぁ。誰かさんもチョコレート」


「……私から貰っても嬉しくないでしょ? だって私、妹だよ?」


「でも今まで貰った事ないし。一度ぐらいはくれてもバチは当たらないと思うのだが」


「え、え…」


 焦らすような作戦を遂行する。相手の弱味につけこんだ駆け引きを。


「……どうしよう」


「何が?」


「欲しいっていうなら今からコンビニ行って買って来るけど」


「いや、いいよ。外寒いし」


「で、でもおばさんや香織ちゃんもあげてるのに私だけ無しっていうのも悪い気が…」


「別にそこまで気にしなくても。ただ言ってみただけだから」


「ん…」


 こんな時間に1人で外出なんかさせられない。どうしても必要という物でもないので。


「……やっぱり私、買って来る」


「え? 本気で言ってるの?」


「走れば10分もかからないし。サッと行ってサッと帰って来る」


「待って待って。なら僕も付いて行くよ」


 2人で身支度をして玄関に。妙な流れで出掛ける事になってしまった。


「さっむ! やっぱり引き返さない?」


「帰りたいなら1人で帰りなさいよ。私は平気だもん」


「そんな真似出来るハズないし。仮にも女なんだから1人きりにさせられないって」


「……そりゃどうも」


「けど寒さに耐えられそうに無いからやっぱり帰ります。じゃあ頑張って行って来てください」


「おい」


「ぐえっ!?」


 引き返そうとした瞬間に強く引っ張られる。コートのフードを。


「ちなみに華恋は誰かに渡したの?」


「さぁ、どうでしょう」


「ごまかさないで教えてよ。僕は素直に白状したんだからさ」


「教えな~い。プライベートな質問なので答えられませ~ん」


「昔のアイドルですか」


 質問に対してまともな答えが返ってこない。しつこく問い詰めたが全てあしらわれてしまった。


「買ったよ。帰ろ」


「あ、うん。これ立ち読みしてくから先に帰ってて良いよ」


「また? ほんっと好きだよね?」


「買うとかさばるからさ。読む漫画もそこまで無いし。単行本以外は立ち読みで済ませてるんだよね」


「ちゃんと買って読みなさいよ。出版社の人はその売上で生活してるんだから」


「う、うるさいなぁ。さっさと帰りなよ」


 コンビニへとやって来ると華恋が奥へと入って行く。そんな姿を見送りながらいつもの恒例行事を開始。


 精算を済ませて戻って来た後は何故か説教される羽目に。先に帰宅するよう促したがなんやかんやで待ってくれていた。


「もうすぐ卒業だぁ」


「だね」


「……どうしよっかな。来年から」


 来る時に歩いた道を並んで引き返す。走る乗用車を避けながら。


「実はね、まだ雅人には言ってない話があるの」


「何?」


「私、卒業したら今の家を出てくから」


「……え」


 会話中に脳内に衝撃的な言葉が進入。それは足の動きを止めてしまうぐらいのヘビーな内容だった。


「茜ちゃんがね、一緒に東京行かないかって言うの」


「小田桐さんが…」


「私が自立したいって言ったらそう誘ってくれてさ。あの子も卒業したら1人暮らしするみたいで」


「へぇ…」


 その話なら既に知っている。本人からの報告で。


「それに家賃やら光熱費を折半したら楽になるし」


「2人暮らしって事?」


「うん、ルームシェア。といっても茜ちゃんの知り合いのお姉さんにいろいろ助けてもらうんだけどね」


「父さん達には話したの?」


「もちろん。おばさん共々、応援するって言ってくれたよ」


「……ならもう決定事項なんだ」


 2人からしたら反対する理由が無い。手を下さずに邪魔者を遠くへ追いやれるのだから。


「楽しみな反面、緊張もするかな。知らない場所で新しい生活をするわけだし」


「やっぱり大学には進学しないんだね。向こうで就職?」


「う~ん……しばらくはバイト生活かな。恥ずかしながらフリーターって事で」


「楽しそう。その中に混ざりたいや」


「ダ~メ。アンタは入れてあげないよ」


「……ちぇっ」


 自分が付いて行っては意味がない。華恋が家を出るのは距離を置く為。小田桐さんが彼女を誘ったのだって気を遣っての行動。


 卒業はただの高校生活の終わりではなかった。再び訪れる双子の妹との別れを意味していた。


「はぁ…」


 帰宅してからは1人で部屋に引きこもる。買って貰ったクッキーをひたすら口の中に入れながら。


「あと2週間か…」


 来月になれば否応なしに卒業だった。妹は独立するというのに自分は進路が不確定。兄貴の面目丸潰れだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング 面白いと思ったらクリックしてもらえると喜びます(´ω`)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ